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第235回 海外進出はこれさえやっておけば失敗しない(Rの話)

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テキスト版

森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日は、「海外進出はこれさえやっておけば失敗しない」ということについてお話をしていきたいと思います。

様々な日本の企業のアジア新興国の進出の失敗の要因を分析していくと、その要因の大半が「これは仕方ないね」「これはやってみないと分からなかったよね」というような失敗というよりかは、むしろ「こんなことで失敗するということは出る前から分かっていたよね」「想定できたよね」「なんでこんな単純な失敗してしまったの?」という類の失敗のほうがもう圧倒的に多いです。その要因は、事前に、今日お話をするRというものをやらないから。前回この番組でもお話をしましたけど、マーケティングの基本プロセス「R-STP-MM」のお話をしましたが、その最初のRをやらないからなんですね。逆に言うと、このRをやれば、今、日本企業が抱えている海外進出の大半の失敗の要因は出る前に防げるということになります。ですので、今日はこのRの重要性について皆さんと一緒に学んでいきましょう。

スライドをお願いします。この図の通り、マーケティングの基本プロセス、前回の動画でお話をしましたが、マーケティングの本当に基本中の基本のプロセスですよね。マーケティングのいろいろなフレームワークがありますけど、すべてここに集約されるというか、もうこれが土台になっていてベースになっているわけなので、あらゆるマーケティングのフレームワークはここに戻ってくるというふうに言っても過言ではないと思います。このマーケティングの基本プロセス「R-STP-MM」というふうになっているわけなんですけど。今日はこのRのお話を中心にしていきますけど。STP、MMはまた今後やっていきますけども。このRを事前にやっておけば、こんな理由で失敗するということは事前に防げる、「これはしょうがないね」という理由で失敗するんだったらまだ諦めがつくんだけど、「なんでこんな、こんなことは出る前に分かっていたはずじゃないですか」という、この失敗はやっぱりもう、さすがにそろそろ日本企業、アジア新興国と言えどもやっちゃいけない。アフリカとかインドだったらまだ許されるかもしれないですけど、ことアジアに関してはもうそういう時代でもないので。20年前だったらよかったかもしれないですけど、今はやっぱりそうではないので、このRをしっかりやっていかないといけない。

このR、リサーチの略なんですけども、どういうもので構成されているか、この図の通り、マクロ環境分析、ミクロ環境分析、SWOT分析の3つの分析で構成されています。ここでまた、マクロ、ミクロ、SWOTとかって言って、環境分析とかって言うから何が何だかよくわからないと。過去に何となく学んだけどあまり覚えていないみたいな話になるんですけども、マーケティングが定着しない理由ってここなんだと思うんですけど、カタカナとアルファベットで何か小難しく説明されるみたいな、もうその時点で頭が拒絶するというか耳が拒絶しちゃうので、なかなかそれをスッと、学問としては学べてもそれを実ビジネスとして応用がなかなかしにくいという、このジレンマがあると思うんですけど。学問としては分かるんだけど、頭では理解するんだけども、実務に落としたときにうまく落としきれないという、こういう問題があるわけなんですが。

次の図を出してもらって。私はこういうふうに考えるようにしています。Rは、マクロ環境分析って「どんな市場なの?」ということを事前に理解しましょうということなんですよね。なのに、マクロ環境分析とかって言うからわけ分からなくて。その市場が一体本当にどんな市場なんですか?儲かる市場なんですか?儲からない市場なんですか?どういう商習慣のある市場なんですか?どういう文化のある市場なんですか?どういう法律の市場なんですか?どういう外資規制があるんですか?どういう税制メリットがあるんですか?あらゆるマクロ環境に対する分析をする。それによって最終的にこの市場は魅力的だねとか、魅力的じゃないねということを決めていく。そういうものなんですよね。なので、ファンダメンタルズを含めて本当にどういう市場なんですか、儲かるんですかということを追求していくということがマクロ環境分析なので。実際に「マクロ環境分析」と打つといろいろな項目が出てくると思います。文化だ、商習慣だ、何とかだと。いろいろ出てきますけど、基本的にやっぱり商習慣とか、文化とかって、あと歴史とか、その国の、こういうことは広く学んでいかないといけない。当然、今現状の経済指標、ファンダメンタルズがどうなっているのかということも当然最新のデータは入れないといけないし、特に重要なのは、外資規制がどうなんですか、ということも見ていかないといけない。総合的に他の国と比べたときにどれぐらい優位性があるの?ということを見る必要があるんですよね。例えば、単体で見たら、これ、良い市場かどうかなんて、日本と比べるしかないので、日本と比べて良い市場なんてなかなかないわけですよ。だって、世界第3位の経済大国ですから。そうじゃなくて、マクロ環境分析で重要なのは、今言った項目を調べるということもそうなんですけども、その他の国と比較する、例えば、ASEANだったら、ASEANの国の中で比較するとか、アジアの国の中で比較する、そんなことをしっかりやっていくということが非常に重要。学問としてじゃなくて、本当にビジネスをするうえで、どういう文化なの?どういう商習慣なの?どういう国民性なの?どういう外資規制があるの?どういう経済規模の国なの?周りの隣国と比べてどうなの?みたいなところを中心に調べるということが非常に重要で。

調べる方法はどういう方法かと言うと、もちろん調査会社にお願いをするということもできるんだけども、この手の市場ってもう情報がやっぱりマクロ環境ってある程度公開されているのでデスクリサーチで十分なんですよ。つまりはセカンダリー・リサーチですよね。プライマリー・リサーチというのは自分で、当人にインタビューしながらプライマリーな情報を得るという。セカンダリーというのは誰かが調べたものを公開しているセカンダリーの情報、こういうものをデスクリサーチで見ていくと、いろいろな世界中のシンクタンクがいろいろなものをまとめています。IMFもそうだし、CIAの『The World Factbook』とかも私見ますし、OECDとかもそうですし、それこそ親しみやすいところで言ったらJETROのサイトもそうですし、こういったところがいろいろなデータを出していますから、そういうもので収集をするということでよろしいと思います。

重要なのはミクロ環境分析なんですけど、日本企業はこのミクロ環境分析が本当に弱くて。ミクロ環境分析というのはどういうものかと言うと、「そこにどんな敵がいるんですか?」「どれぐらい強い「敵がいるんですか?」ということを見ていかないといけない。多くの日本企業は、自分たちの製品は良い原材料と高い技術力を使ってものすごく品質の良いものを出しているんだと。なので、いわゆる競合はいないよと。ローカル企業というか、アジア企業なんていうのは、もう技術力では全然勝っているのでわれわれが上ですと、競合じゃありませんと。欧米の本当に先進的なグローバル企業は、もうあれはデカ過ぎるのでそもそも競合じゃないんですと。品質で言えばわれわれが勝っているんですみたいな。品質良ければすべて良しみたいな。品質がいいから、勝っているから競合じゃないみたいな。そんなのあり得なくて。別に品質を求めてないから、アジア新興国は。そうすると、やっぱり品質で劣っている企業が、マーケティングで先行してマーケットシェアを獲るということも十分あり得るわけなんですよね。結局、品質がいいから自分たちは敵はいないんだなんていうロジックはもう通用しないので、本当にどんな敵がいるんですかと。敵も3種類います。まず、同じ日系の敵、日系に関してはほとんどもうどんぐりの背比べなので、ほかがどういう状況かというのはだいたい分かるし、日系のやりそうな海外展開って想定範囲内なんですよ。自分たちが想像し得ることを超えるような日系企業ってそんなに多くはないので、ここはそんなに脅威じゃない。重要なのは、やっぱり欧米の先進的なグローバル企業、自分たちの競合の欧米の先進的なグローバル企業がどうしているのかと、技術ではまだまだ自分たちのほうが勝っていたとしても、マーケティングの面では圧倒的に彼らのほうが長けているので、それがどうなのかということと、あと、中国を中心としたアジアの企業の台頭が著しいわけですよね。それこそもう中国企業の商品と、本当に目に見えて品質の差とか技術の差というのはなくなってきていて。一方で、価格の差はこんなに開いているとなって、それが多くの日本の企業を苦しめているわけですよね、現状。なので、もっと言うと、中国企業はそこにデジタル化が非常に進んで、ICT化がものすごく進んで、日本企業よりもその分野では先を行っている。まさにBATHなんかがそうだと思いますけども、そういう状態になってきているわけなので、本当に敵の脅威をしっかりと見るということが重要で。

特に直接、B2Bだったらユーザーだし、B2Cだったら小売とか消費者に通ずるディストリビューション・チャネルで圧倒的に負けているということが多くて。プロダクト、プライス、それからプレイス、プロモーションって4Pってありますけども、その中のプレイスのチャネルで負けているということがあるので、特に競合のチャネルがどれぐらいの脅威になっているのかということをしっかり見るということが重要。もちろん製品もそうだし、価格帯もそうだし、プロモーションとかもそうなんだけども、本当に敵の脅威を徹底的に分析するということをしっかりやったほうがいいです。この分析は、4Pだけじゃなくて、本当に彼らの戦略がそもそもどうなっているのか、そのマーケットに対する考え方はどうしているのか、どういう組織で、どういう人材がどういう組織を形成していて、その組織がどういう活動をしているから彼らのシェアが高いのか低いのか、みたいなことをしっかり調査をしないといけない。
これは残念ながら、マクロ環境分析とは違って、デスクリサーチ類のものではできないので調査会社に委託をするというのが重要。産業調査になるので、消費者調査の会社とか、インターネット調査の会社に委託しても全くもって質の高いものは出てこないので、「僕に依頼して」と言いたいけども、そう言うと宣伝チックになるので、外資の戦略コンサルにお願いをするとか、日本のシンクタンクにお願いをするというのがだいぶ質の良いアウトプットが出てくるんじゃないかなというふうに思います。ミクロ環境分析ですよね。

最後のSWOT分析というのは、こんな市場でこんな競合がいる、そこに自分たちが出たら、どういうことが起こりそうなの?というのがSWOT分析なんですよね。SWOT分析の方法論はネットを叩いてください、いっぱい丁寧な説明が出てくると思うので。ただ、概念としては、こんな市場ですと、こんなに儲かる市場と。儲かる市場ということはたくさん競合がいるので、具体的にこういう強い競合がいますと。じゃあ、そこに自分たちの経営資源、人・もの・金・情報がこれぐらい今揃っている、自分たちが出ていったときに本当にどういう戦いになるんだということを仮説づくりするというのがSWOT分析なわけですよね。

このRってまさにフィジビリティ・スタディなんですよね。実際に自分たちがそこに出ていったらどうなるんだろう?ということを様々な観点から見る。独りよがりのフィジビリティ・スダディとかを本当に日本企業はよくやるし、独りよがりのリサーチをやったって全く駄目で。ここで重要なのは客観視。だから、できればここは外部の専門家と一緒にやって、外部の目で見てもらうということがすごく重要で。自分たちでお絵かきしていると、やっぱり自分たちの都合のいいように都合のいいようにつくっちゃうんですよね。なので、そこは外部の目を入れてしっかり客観的に見るということがね。もちろん外部の目を入れなくても客観的に見れるのであればそれはそれで構わないと思いますけども、でも、そういうことをしっかりやると。

日本の企業は結果ありきで、もう「ベトナムに行くということ」が決まっていて、決まっているからその決定を補うための、決定に近づけるためのRをやるとか、社長が「ベトナム」と言っているので、役員が言っているのでもうその方向でほぼ決まっているんですと。けど、一応Rをやりますみたいな。そうするともう経営企画室とか海外戦略室がつくるRは、基本「ベトナムをやりましょう」という方向の、そういうものが出来上がってくるし、結果ありきのリサーチ、これは全く意味がないので。別にネガティブになれと言っているわけじゃないんですが、やっぱり客観視するということは重要で。ポジティブであっても駄目だし、ネガティブであっても駄目だし、Rは客観視するということが非常に重要。フラットで、ゼロベースで考えていくという。ここがやっぱり甘いとか、やらないという会社は本当に大手ではいないと思うんですが、甘いというのが多くて、数千億円ぐらいの会社になってくると、数百億円ぐらいの会社だとあまりやっていないというのはあるかもしれないですけど、数千億円の規模の会社で、1兆円を超えてくるような会社とか、数千億円の会社で、前半後半を含めて、これをやっていないというのは今まで見たことないのでやるんだけども、甘いというね。なんで甘い、出てきたアウトプットが甘いんですけど、インプットの量が絶対的に少ない。調査を外部を使ってやっていないでしょう、自分たちが集められる、手の届く情報だけを集めて都合のいいリサーチをやったって、それは甘いアウトプットしか出てきませんよという話なので、やっぱり外部をしっかり入れて、徹底的にインプット、情報を入れて、調査をして情報を入れて、そこでしっかりと知識と経験を織り交ぜてアウトプットを出さないと、高いアウトプットは出ないので。逆に、ここで若干の費用が掛かったとしても、出て失敗をしたときの損失に比べたら桁が3つ4つ違うわけですよね。5つ6つかもしれない。だから、ここでやっぱり費用をケチるというのは、僕はナンセンスなんじゃないかなというふうには思います。

なので、Rをしっかりやれば、今、日本企業が抱えている失敗は大きく軽減できると思いますので、皆さんもぜひRを詰めてみてください。

それでは今日はこれぐらいにして、皆さんまた次回お会いいたしましょう。