第271回 導入期の戦略が違う その1
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テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日は、先進グローバル企業と日本企業では新興国に参入する際の導入期戦略が全く違うということについてお話をしていきたいと思います。今日のお話は、B2C、FMCGのインダストリー、食品・飲料・菓子・日用品等のFMCGの製造業の新興国における参入戦略のお話になります。B2Bの方も自分の事業に置き換えて聞いていただければ十分役に立つ話だと思いますので、一緒にこの導入期戦略の違い、先進グローバル企業とどう違うのかということについて学んでいきましょう。
まず、導入期戦略なんですが、スライドをお願いします。この図の通りなんですが、これはプロダクトライフサイクルと同じように、市場に参入する際には導入期があって、成長期があって、成熟期があって、この先に衰退期というのが当然あるわけで。新規に参入するときって、もちろんこの導入期なわけですよね。導入期に取るべき戦略であったり、戦術と、成長期に取るべき戦略・戦術、そして成熟期、衰退期に取るべき戦略・戦略というのは、それぞれ異なってくるわけなんですね。ただ、日本の消費財メーカーと先進的なグローバル消費財メーカー、ここで言っている先進的な消費財メーカーというのはユニリーバとか、ネスレとか、P&Gとか、ジョンソンアンドジョンソンを指しているんですが、こういう企業というのは、この番組を見ている方は皆さんご存じだと思いますけど、基本的には新興国でのシェアが高い、新興国により日本企業よりも圧倒的に早く、20年以上早くマーケットとして捉えて進出をして、新興国市場でシェアが高いというのが現状なんですが。彼らがなぜそれだけ高いシェアを得られているかということの前提に、導入期の戦略が全然日本企業と違いますよと。そのお話を今日していきたい。この赤い部分ですね、このスライドの赤い部分のところなんですが。結論から先に言うと、日本企業は新興国に参入をした導入期においては、基本的には近代小売を中心にアプローチをするという傾向が非常に強い。一方で、先進的なグローバル企業は近代小売と伝統小売を同時に攻略しようとする、むしろ、ドミナント戦略で、近代か伝統かで分けるのではなくて、ドミナントでエリアで分けるわけですよね。その圧倒的な違いがやっぱりシェアの違いに結びついているので、そのことについてこれからお話をしていきたいと思いますが。
次のスライドをお願いします。ちょっとおさらいで、近代小売と伝統小売って何?という方もいらっしゃると思うので、近代小売と伝統小売のお話からしていきたいと思いますが、近代小売ってこの図の通り、Modern Trade、略してMT、伝統小売というのはTraditional Trade、略してTTというふうに言われていますが、一言で言うと、近代小売はPOSレジが付いている近代的な小売のことです。デパートとかハイパー、スーパー、コンビニ、ドラッグストアなんかが近代的な小売で基本的にはPOS管理しているというものが近代小売。そして、伝統小売というのは昔ながらのパパママショップですね、おじちゃんおばちゃん1人でやっているようなお店が無数にあります。新興国と言ってもいろんな新興国があるわけですけども、ASEANもそうですし、ASEANだと特に伝統小売が多いのはインドネシアとかフィリピン、そしてベトナムになるんですが、インドネシアで言うと300万店以上ある、フィリピンで80万店、ベトナムで50万店以上あるというふうに言われていますが、インドなんていうのは、もうたぶん1,000万店以上存在していて計測不可能みたいな、そういう状態になっていると思うんですが。これはアフリカにも同じようにある。南アフリカなんかでもありますけど、スパザというふうに言われていますけども、アフリカはどの国に行ってもある。新興国と言えば伝統小売なんですよね。伝統小売で商品が流通しているので、近代的な小売だけではなかなか消費財メーカーというのは儲からない構造になっていて。
例えば、これはアジアの例ですけど、次のスライドをお願いします。近代小売と伝統小売の比率なんですが、これは数で言ったら正直99.9%:1とかになるわけですよね。だって、インドネシア、例えば、ASEANで最も伝統小売が多いインドネシアで近代小売というのは3万5,000店舗ぐらいなんですよね。一方で伝統小売は300万店以上ありますから、これをグラフにすると、こんな15%:85%にならないので。この図は何を表しているかと言うと、金額ベースでどうなっているのかということを表しています。金額ベースで伝統小売を通じて商品が流通する金額の85%が伝統なんですよと。そして、インドネシアは15%は近代ですよということを表していて、こんなような状態、インドなんていうのは2%ですよね、近代小売と。そうすると、この図を見てもらったら分かる通り、もう伝統小売を攻略しないと儲からないんですよね。
消費財のビジネスの肝というのは何かと言うと、消費財というのは数十円とか、現地では、日本でも数百円のものを売っていますから、これ決してお金をたくさん持っている人に向けてやる商売じゃないんですよね。富裕層、シャンプーを買うのに富裕層であろうがなかろうが、別にシャンプーは買いますので、もちろん1本1万円するシャンプーを売るのであれば富裕層がターゲットになりますが、一般的にシャンプーを売るのであれば、富裕層も中間層も低所得者層もみんな一緒ということになるわけなんですね。そうすると、消費財ビジネスの肝というのはどういうことかと言ったら数なんですよね。いかにたくさんの人に、いかに速い頻度で、いかに永遠に、繰り返し使い続けてもらうかということがビジネスの肝です。そうすると、ターゲットというのは絶対的に新興国に行ったときには中間層になります。じゃあ、中間層が商品を買う場所、買いやすい場所ってどこなんだと言ったら、決して近代小売だけじゃないですよね。
この図を見てもらったら分かる通り、ベトナムで13%、インドネシアで15%、フィリピンで22%、タイですら41%、マレーシアに行ったって半分程度なので、その半分以上は伝統小売で売られている。そうなってきたときに、伝統小売にものがないなんていうことは、中間層のための商品を売っていないということに等しいわけですね。そうすると、欧米の先進的なグローバル企業というのは、基本的にはもう、P&Gもネスレもユニリーバも中間層を獲りに行ってますから、中間層を獲るためには伝統小売の攻略が端から必要ですということで、もう導入期から伝統小売を攻めるというのが彼らの戦略で。また、これ、別にお金のない人が伝統小売で買って、お金のある人は近代小売で買うなんていう構造にはなっていなくて、もうケースバイケースなんですよね。近代小売でも買うし、中間層は、伝統小売でも買うというのが基本的なので、個人の家庭のキャッシュフローが潤沢なときは近代小売で少し入り数の多いものを買うし、一方で個人のキャッシュフローが今月きついなと、家庭のキャッシュフローがきついなというときは伝統小売で使いたい分だけ、今日使いたい分だけを買うというような構造になっているわけなんですね。
また、近代小売で売れていなかったら、絶対その地域の伝統小売では売れないので。なぜならば、地域の伝統小売のパパママのオーナーは、近代小売で売れているものしか置きたくない。なぜならば店舗のスペースが非常に狭い。ちょっとスライドを戻ってもらって。このようなスペースですから非常に狭い。そうすると、売れ筋のものしか置きたくないわけですね。売れないものを置いている暇はないということになるので、そういう構造になっている。
さらに申し上げると、マレーシアで近代小売6,500店舗ぐらい、もうちょっとあるかな、インドネシアで3万5,000店、タイで1万7,000店、うち1万2,000店はセブンイレブンですから。また、インドネシアの3万5,000店のうちの3万店はアルファマートとインドマレットというインドネシア系、ローカル系のコンビニエンスストアなので、その他のMTは5,000店舗という話になるんですね。インドネシアで300万店以上のTTがある、伝統小売がある。ベトナムは今、近代小売3,000店舗なので、伝統小売は50万店以上あるので、もうベトナムなんていうのは3,000店舗で週販どれだけ売ったって儲からないですよね、伝統小売をやらないと。なので、ベトナムの市場というのはいかに伝統小売を獲るかということが勝負になるので、非常に日本企業は苦しんでいます。多くの日本企業がなかなか伝統小売に行けないので、ベトナムに工場を出しちゃったと、当初は何とかなるでしょうということでベトナムで工場を出したんだけども、近代小売には何とか入ったけども、結局イオン中心ですと、もしくは日系近代小売中心ですと。ベトナムの工場の歩留まり悪くてなかなか儲かりません。なので、ベトナムでつくったものを近隣のASEAN諸国に輸出するみたいな、そういう構造で何とか赤字にならないようにしのいでいるみたいな会社は結構少なくないので、そういう状況がある。フィリピンに関しても7,500店舗ぐらいなので、近代小売の数がそもそも少ないんですよね。日本のセブンイレブンって2万店ありますから、セブンイレブン1社で2万店なので、いかに少ないかということがこの図を見ると分かると思います。
このような市場において、先進的なグローバル消費財メーカーは、導入期で近代小売と伝統小売を両方導入期からやると。一方で、日本企業は近代小売をまず攻略して、そこからゆっくり伝統小売を攻めようなんていう段階的な戦略を立てるんですが、結果としてあるのが、なかなか近代小売には何とか入ったけども、ローカルの近代小売にはなかなか入りにくくて、伝統小売なんていうのはもう全然手が出ていませんみたいな状態になってしまっていると。そのときの言い訳が、伝統小売で売るとブランド力が下がるんじゃないかとかという、チャネルとブランド力、ブランドを混同してしまうようなことを言ったりとかという企業も結構いるので、なかなかちょっと導入期戦略がよろしくないというのが現状になっています。
ちょっと長くなっていますので、今日は第1弾ということでこの辺で切らせてもらって、その1、その2ということで、次回その2をやっていきたいと思います。先進グローバル企業と日本企業の導入期戦略の違い その2を次回やりたいと思います。
それでは、また次回お会いいたしましょう。