第503回 【本の解説】Q&A ケース5 伝統小売が近代化するまで待ってから参入するのはダメか その2
新刊はこちら » https://www.amazon.co.jp/dp/449565019X
定期セミナーはこちら » https://spydergrp.com/seminars/
テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。今日も引き続き、この『グローバル・マーケティングの基本』 日本実業出版社から私が出している本ですが、この本の解説をしていきたいと思います。今日も前回の続きで、258ページの「ケース5 伝統小売が近代化するまで待ってから参入するのはダメなのか」ということについてお話をしていきたいなというふうに思います。前回ね、結論から言うと、待っていてはダメですよという話をしていて、なぜならば、伝統小売の近代化というのは、その他のインフラ、例えば物流であったり、道路整備であったり、そういった都市計画とともに小売も近代化していくので、小売が単体で近代化することなんてないですよと。そうすると、ASEANであったりその他のグローバルサウスと言われるような新興国市場の都市計画を見ると、向こう数十年経っても日本のようなインフラ整備というのは進まないんですよね。その中で小売だけが、じゃあ、勝手に全国津々浦々近代化するかと言うと、そんなことはないので、基本的にはないですよというお話をしていて。
今日は2つ目の理由で、それだけやっぱり時間がかかる、インフラ的に見ても時間がかかるということと。あと、じゃあ、伝統小売が徐々に近代小売化していくって、これは正しいんですよ、流れの方向としてはね。ただ、じゃあ、どれぐらいの時間が、この時間軸がすごく重要で。どれぐらいの時間がかかるんですかという話で考えるとね、今、ベトナムで66万店の伝統小売があって、フィリピンで80万店、それからインドネシアが最も多くて447万店。これはね、公式にはなかなか伝統小売の数って発表していないんですけど、うちの推計でタイで45万店、マレーシアで20万店、シンガポールはもう伝統小売はないので、だいたいそれぐらいのような数字になっていると。じゃあ、一番多いインドネシア447万店が、これは過去5年見てもね、毎年減っているんですよね。じゃあ、どれぐらい減っているの?といったときに、毎年1万5,000店舗ぐらい減っているんですよ。これを聞くと、「ああ、やっぱりそうじゃん。毎年減っているじゃないですか、伝統小売。どんどん、どんどん、近代化していくんじゃないですか」ということを想像してしまうと思うんですけど。もうすでに447万店もあって、毎年1万5,000店ぐらいの減り方だと、全部なくなるのに190年ぐらいかかるわけですよね。じゃあ、仮にこれが3万店、倍のスピードでなくなっていったとしたって96年とかかかっていくわけですよ。なので、なかなかちょっとなくならない。3倍のスピードで減っていったって60何年とかかかるわけなので。
そんな間に今度は何が起こるかと言うと、伝統小売側がデジタル武装を始めるので、言ったらコンビニよりもより便利な存在になっていく。インドネシアのコンビニと言ったらアルファマートとインドマレット、インドマレットのほうが最近元気があるのかなというふうに思いますけども。3万7,000~3万8,000店舗ぐらいある近代小売のうちの3万5,000店舗は、もうこの2社の2強のインドネシア系のコンビニエンスストアで牛耳られていると。ただ、過去10年の出店、15年ぐらいの出店スピードと、ここ最近の出店スピードを見てみるとね、あと今後の出店スピードの予測を見ていくと、やっぱり鈍化していますよね、この1万5,000店ぐらいすでに持っていると。そうすると、日本のコンビニエンスストア、セブンイレブンが2万数千店舗ですから、だいたいこのコンビニエンスストアの限界値みたいなところって、今現状では2万数千店舗、これはいっても何万店とか10万店とかにはいかないよねと。
一方で伝統小売は447万店あって、彼らがいわゆるデジタル武装していったら。デジタル武装ってどういうことかと言うと、対消費者に対する決済がQRコードのオンラインですと、仕入れも全部オンラインですと、携帯で仕入れをすると。そうするとね、どういうことが起きるかと言うと、メーカーは自分たちの商品が、どの地域の、どの都市の、どの伝統小売で、何個売れているかというのが瞬時に分かるわけですよね。一方でディストリビューターの最大の仕事であった商品のデリバリーと、一番の厄介事が現金の回収ですよね。汚いお金、少額のお金を現金で回収して、それを集めてこなければいけないという、これを全部オンラインでできる、キャッシュレスでできると。こんなメリットはなくて、これができるんだったら5%オフしますよ、10%オフしますよ、こういうサービスを小売のオーナーの対して提供できると。あと、もっとすごいのが、どんなものがどういう地域でどういうふうに売れるのかというデータですよね、ビッグデータをもとにした、いわゆる売上拡大とか経営改善の情報を小売に提供することができる。こんな素晴らしいことを伝統小売がやっていったら、これはむしろコンビニよりも便利な存在になるわけですよね。コンビニが小売の便利な究極だったわけですよ、コンビニエンスストアという名の通りね。でも、コンビニが数百メーターおきにあるとしたら、伝統小売は数メーターおきにあるわけで、より便利なわけですよね。しかも、もっと小分けで買えるし、もっと融通が利く。こんな便利な小売がもしデジタル武装しちゃったら、その減っていく数十年の間に圧倒的に便利な新しいニューリテールみたいな存在としてできあがっていく。もしかすると、商品の配達なんていうのは、グラブがインドネシアでは…、ゴジェックか、ゴジェックが非常に多く走っていますので、バイクでやっていくかもしれないし、コンビニがもしかしたら問屋の機能を兼ねるかもしれない。そもそも、フィリピンなんかはね、インドネシアのアルファマートがフィリピンに進出しましたけど、ピュアゴールドを中心に、伝統小売のパパママのオーナーが、いわゆるピュアゴールドとか、アルファマートで商品の仕入れをやっているわけですよ。彼らが問屋機能を有していて、伝統小売向けの特別なサービスも提供していると。そうなってきたときに、彼ら自身が問屋機能も併せ持つことによって新たなコンビニの姿がそこにあるかもしれない。そう考えると、伝統小売って絶対になくならなくて、と僕は思っていて、予測していて、すでに伝統小売のデジタル化というのはもう始まっていて、何万店レベルでもう導入されているんですよね。そういうITのいわゆるテクノロジー系の企業が市場に参入してきています。そうなってくると、いわゆるまさにディスラクティブ・イノベーションみたいなものがそこに起きて、今までの市場が破壊的にイノベーションを起こされて、より良いものに発展していく、こういうことが起きるわけですよね。
もう1つ、ちょっと話が長くなってしまいますけど、あるのは、例えばフィリピンなんかは伝統小売が行政や業界によって守られていると。ピュアゴールドが、アルファマートが伝統小売向けのサービスを提供していると、アリンプリンプログラムというのをピュアゴールドはやっていて、伝統小売の売れ筋20商品みたいなものがガーンとあって、「ここのこれを買えば伝統小売の経営は間違いないですよ」とか、ディスカウントをやったりとか、それとか伝統小売のオーナー用のキャッシャーレーンがあったりとか、伝統小売のオーナー用の商品棚が設置されていたりとか、基本的には伝統小売が存続し続けることが地域社会の発展だというふうに小売も行政も思っていると。だから、行政なんていうのは、このパンデミックなんかは特にですけど、パンデミックの前からね、少額ローンを散々伝統小売にやっているわけですよ、少額のローン。それによって伝統小売が、いわゆる闇金に手を染めることもないし、伝統小売の発展こそが地域社会の発展だというふうに行政も認めていて、それによってこのパンデミックの間にね、フィルスターという現地のローカルのメディアが発表しているデータですけどもね、16万店伝統小売が増えたというんですよ、フィリピンでね。うちではまだ、SPYDERではこの情報は未確認なので正式には公表していないけど、フィルスターはそういうふうに言っているし。行政に守らていると。
日本だと、今まで中央集権型のね、コンビニエンスストアという中央が集権していて、それに対してフランチャイズオーナーがいて、中央集権されているので、「全部中央の言うことを聞きなさい」ということで同じようなやり方をやってきたと。ただ、これって日本にはマッチしたんだけどもね、この中央集権的なやり方が、アジアの人たちって、別にそんなに大きくなりたくない、小さくていいんですと、その日食えるものが買えればいいんですと。もっとより分散型の新しいニューリテールのような存在、伝統小売がデジタル武装した、もっと中央集権で、いわゆる小売業態に中央集権されるんじゃなくて、小売業態としては分散型で、むしろメーカーが何が売れ筋なのか、近代小売がどういうものが売れているのかということを支援していくことによって、より一人一人が自分たちの自由な裁量で事業ができるというほうが、僕は国民性には非常にマッチしていると思うので、こういう日本では想像できなかったような新たなリテールが進化をしていく可能性すらあると思っているので、伝統小売はそう簡単には僕はなくならないというふうに考えています。
それでは今日はこれぐらいにしたいと思います。また次回お会いいたしましょう。