【本の解説】インドネシア市場 伝統小売に関する考察
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テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日も引き続き、『ASEAN6における販売チャネル戦略』 同文舘出版から私が去年出した本ですが、この本の解説をしていきたいと思います。今日は125ページ、伝統小売に関する考察ということで、第5章 インドネシアですね。インドネシアの市場において、食品・飲料・菓子・日用品等のいわゆるFMCG(Fast Moving Consumer Goods)の製造業メーカーが事業を展開する上で、伝統小売ってもう外せない。もちろんね、輸出でやるケースというのは伝統小売を考えませんから、輸出でやるのであれば別ですけど、基本的にはある一定の金額まで到達すると、輸出ではなかなかね、そこに関税を乗せて、日本の2.5倍とか3倍で売っていたのでは実際にはたくさんの数売れませんから、シェアは獲れないということになるので、現産現販か、近隣諸国で製造したものをインドネシアに輸出して展開をすると。
実際には伝統小売のシェアをどう伸ばすかという、大手の消費財メーカーの戦いというのは全部伝統小売の戦いなんですよね。近代小売に置くというのは、これはマストで、いかにそれ以上に伝統小売に並べるかということが非常に重要で。その中で、いまだに近代小売だけでは駄目なのかとかね、ASEANで一番近代小売の数あるではないかと。そう言ったって3万6,000~3万7,000店舗ですよ、主要どころでね。そのうちの3万3,000店舗はインドマレットとアルファマートという2強のコンビニになるので、前回お話しましたけど。なので、基本的には伝統小売をどうやって攻略するかということがFMCGの食品・飲料・菓子・日用品等のメーカーの最大で唯一の課題であると。
これはね、どの関係者に聞いても同じように答える。「伝統小売でやれなかったら、インドネシアは儲からない」と、皆さんそう回答するんですね。小売の人に聞いてもそうだし、流通、中間流通事業者に聞いてもそうだし、業界関係者みんなが口を揃えて言っていますと。その伝統小売が、じゃあ、なぜそんななのかということなんですけど、そんなに重要なのかという、もうこれはね、数なんですよね。447万店、今、存在していて、これだけ大きいと、なかなかやっぱり伝統小売がなくなるというのは非現実的で。過去5年間のね、これはグラフを載せているんですけど、5年間の伝統小売の推移を見るとね、確かに減っているんですよ。どれぐらい減っているかと言うと、年2万4,000店減っているんですよね。2万4,000店、ほら減っているじゃないですかと。そのうち伝統小売はなくなって、近代小売になるんでしょという議論をする人はいっぱいいるんですけど、いや、そうならないですよというのが僕の回答で。なぜならば、447万店あったらね、毎年2万4,000店減ったとしたって、これは186年かかるんですよ、全部なくなるのに。じゃあ、倍のスピードで減っていったって80何年、90年近く、86年ぐらいかかるんですよね。3倍のスピードで減っていったって、64年ぐらいかかるということなので、そんなにかかったら、それはなくならないのと一緒ですよねと。3倍のスピードで64年ですから。
じゃあ、64年の間にね、何が起こるかということなんですけど、64年の間にIT、DXどうなっているかって想像したときにね、確実に伝統小売がDX化して、コンビニよりもより便利な存在になる可能性があるわけですよね。ASEANとか新興国市場に行くと、必ずこの伝統小売があるんですけど、彼らの国民性としてね、日本みたいに中央集権で、本部が決めた通りのことをやるっていうことをよしとしてね、やりたいっていう国民ばかりではなくてね、基本的には別にそんなにお金お金って、いいよ、今日暮らせれば、今日暮らす分だけ稼げたらいいという人だってたくさんいて、それを幸せと感じる人もいるわけなので。あんまり本部が決めたことを全部やるのがいいと、売上どんどん上げていきましょうみたいなトーンで事業をしていないということをね、われわれはすごく理解をする必要があって。もっとね、より地方集権というか、個人集権というか、個に、個がどうしたいかということのほうがやっぱり優先されるし、それがクオリティオブライフというか、人生の豊かさだったりするので、日本の前例がそのままそうなるとはなかなか言いにくい。日本のコンビニ、ドーンと行って、中国のコンビニもある程度ガーンと行って、でも、この中国人とASEANの人の絶対的な違いって、お金に対する執着度合いというのは確実に違うので。そう考えると、やっぱりどんどん店舗を展開して、コンビニを増やして、コンビニオーナーもその店舗の売上を増やしてって、そういうふうに思う人が本当にASEANにどれぐらいいるのかなって考えるとね、なかなか国民性も違うというところも理解しないといけないですよねと。その間に伝統小売の近代化が進んでいくと、おそらく僕は伝統小売というのは新たな、DXによって新たにデジタル武装をした新しいニューリテールのような存在になってきて、今までのコンビニよりもさらに進化した、未来的な小売形態になっていくのではないかなというふうに思っています。
今まで、10年ぐらい前まではね、小売は近代化するということがいいというふうに世の中的には言われてきていて、新興国のコンビニもね、インドネシアのコンビニも近代化していくんだと言っていたんですけどね。小売の近代化を唱える人たちというのは、日本の小売の急激な近代化を見てきている人たちなんですよね。これ、なぜ日本の小売はこれだけ近代化したかと言うと、それはね、インフラに関係してきていて。日本というのは北海道から沖縄まで津々浦々インフラがね、基本的なインフラが近代化したんですよね。例えば道路とかね、電気、水道、ガス、IT、こういったものが全部平均的に近代化したので、その上に乗っている小売も近代化できたと、そういう話で。小売は小売単体で近代化なんてできないんですよね。インドネシアの今、現状を見てください。国土交通省の都市開発計画みたいのを見てください。そこにインドネシア全土が日本のような速いスピードで近代化するなんていう計画はないんですよね。道路もあれだけ渋滞している中で、物流インフラが日本のように整っていない。信号のいわゆる渋滞解消のインフラもこれからどうやっていくかというタイミングでね、小売だけが勝手にインフラなんていうのはまずあり得ない。そういうことを考えていくと、やっぱり都市部から徐々にという話なんですよね。小売が近代化するスピードよりも、現代においてはね、DXのスピードのほうが圧倒的に速いので、これが、伝統小売がDX化して、より便利な存在になっていくと。もう一部そうなっているんですよね。そうなっていくとどうなるかと言うと、対消費者に対しては、もちろんQRコード決済だし、汚い現金をあれして、お釣りがないから飴で返すみたいなね、こういう世界はなくなるわけですよね。一方で、企業に対しては、問屋もメーカーもね、一番はデータを収集できると。どの伝統小売で何時にどういう人が何を買ったかというデータが瞬時に手に入る。伝統小売のオーナー自身も、自分のスマホで、「じゃあ、これ、あれ、それ」と、問屋もメーカーもね、「これの在庫がちょっとあるから、この地域でこれはちょっとあまり売れてないし、キャンペーンだ」と、「10%オフ、20%オフ、今日明日の2日間だけ」みたいなキャンペーンをスマホで流すと伝統小売のオーナーがそれを買ってみたいなね、こういうことがもう始まっているわけですよね。数万店、10万店レベルで始まっていて、今のそういう現状を見ると、DX化をして、伝統小売というのはもっともっと便利な存在になっていくなというふうに思うので。
まず重要なことは、伝統小売がなくならないという、いわゆる裏付け、僕のあくまで仮説、想定ですけども、まず447万店という数があまりにも膨大過ぎて、これがなくなるスピードよりもDXのスピードのほうが速いので、伝統小売はデジタル武装して、より便利な存在になるでしょうというのが1つ目。もう1つ目が、そもそも小売は単体では近代化しませんよと。いろんなインフラ、道路、物流、システム、あらゆるインフラが近代化して、その上に乗っている小売も同時にインフラをする。そう考えると、インドネシアの都市計画を開いて見ても、日本のような急激な近代化はないので、伝統小売は生き残るでしょう。3つ目、インドネシア含めてASEANの人たちは、中央集権で本部が決めたことを同じように右習えでやっていくというよりかは、自分たちはあまり外部からのプレッシャーを受けずに、その日の蓄えでもいい、その日暮らす分だけ売れたらいいという、こういう考えの人が伝統小売をいっぱいやっているわけですよね。そういうほうが生き方として幸せだというふうに捉えている人たちがたくさんいるので、われわれの常識で彼らの幸せを測ることはできませんので、そういう国民性にもこの伝統小売というのは合っているということを考えると、日本のような近代化というのは起こり得ないよねと、新たなニューリテールとして伝統小売は存続し続けるというふうに思っています。
ということで、今日はこれぐらいにしたいと思います。皆さん、また次回お会いいたしましょう。