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アジア新興国市場で失敗する企業のパターン

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テキスト版

森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日は、日本の製造業、B2CでもB2Bでも構いませんが、これら製造業がアジア市場に展開する際、アジア新興国市場に展開する際に、最も陥る失敗のパターンみたいなものが3つあって、私がこの20数年間の中で見てきた3つのパターンのご紹介をしていきたいなというふうに思います。

前回までのお話の中で、日本の企業はとにかくインプットが少な過ぎると、非常に少ない情報で戦略を組み立てて、戦略ってまさに仮説そのものなので、その仮説を検証するという、実践をするというタイミングで仮説と現実のギャップが大き過ぎて、戦略の修正ができずにその場で足踏みしてしまう、もしくは停滞してしまう。すぐにそこで撤退の判断ができればいいんでしょうけども、なかなかそうもならないので、だらだらとうまくいかない中、進出をし続けるという企業が決して少なくないと。結局、このインプットをどれだけ入れるかというのはすごく重要で。アウトプットってインプットがチープだと、当然ながらアウトプットもチープになるわけですよね。もちろん大量のインプットと質の高いインプットを入れても、これをどう化学反応させるか、自分たちの経験と分析力、思考力で、どう良いアウトプットに変えていくかというのはまた別次元なんだけども、少なくとも最低限必要なインプットというのはあって、そのインプットがないと、アウトプットって仮説ですから、仮説、戦略ですから、良いアウトプットは出ません、良い戦略は出ません、良い仮説は出ませんと。この仮説にもとづいてアウトカム、いわゆる結果を出すために実践をしていくわけなんですが、結局、インプットが少ない、インプットが弱い企業はアウトプットも弱くて、アウトプットが弱いと、結局それを実行してもギャップが大きくあるのでアウトカムも弱くなりますよと、こういう構造だと説明をしました。インプットが良ければ仮説の質が高いので、基本的にその仮説を実践しても、仮説というのは必ずずれます。ずれるんだけども、その誤差が許容範囲内であれば、走りながらそれを修正できるという。これが非常に強いんですよね。これを繰り返しやることで本当に強く成長していけるという、こういう構造なんですが、インプットがそもそも少ないよねという話を前回までしたと。

じゃあ、このインプットが少ない会社ってどういうふうな思考パターンに陥るの?というところで、このスライドをお願いします。プロダクト依存型、それから、パートナー依存型、パーソン依存型という3つの依存に陥っていくわけですよね。プロダクト依存というのは、これはもうどの日本企業と話していても、B2Cであろうが、B2Bであろうが、自分たちは質の良い原材料を使って、高い技術力で、高品質のものをつくっているので間違いないと、プロダクトはもう最高品質なんだ、プレミアムなんですと。プロダクトはプレミアムという、メイドインジャパン、メイドバイジャパニーズカンパニーみたいな、もうこのプロダクトに戦略の8割方が置かれていて、プロダクトありきで戦略が決まっていく。例えば、ターゲットに対して4Pってつくらなきゃいけないのに、もうプロダクトの、4Pのうちのプロダクトというものだけがすごく重要視されてるので、ターゲットというのは後付けになってしまっているんですよね。非常にプロダクト優先。なので、「現地の市場に合致したプロダクトというのはどういうものなのか」とか、「現地が求めているプロダクトは何なのか」とかっていうことはあまり考えてなくて、私たちが日本もしくは欧米市場で実績を上げてきたプロダクトだから絶対的にいいんだというものが根底にあるので、基本的にその他のマーケティングパーツが軽視されていくという。こういうプロダクトに依存、どっぷり依存してしまうというパターン、これはどの日本の製造業でも持っている傾向なので。今、これだけ中国やアジアの企業の品質も上がってくると、昔のように品質の良さとかプレミアム感が、まず品質の良さが目に見えて分からない。プレミアムって何をもってプレミアムなのかって、品質が良いだけではもうプレミアムではないんですよね。基本的に品質がそこそこだったとしても、それが持つイメージ、品質が高いというイメージ、もしくは高級なイメージ、つまりはブランドエクイティですよね、こういうものがしっかり備わっていないと、ただ品質が良いと言っても、品質の良さって目に見えないので。100万回使えるものと10万回使えるもの、確かにこれ、10倍こっちのほうが品質が良いんだけども、結局、人は5万回ぐらいしか使わないので、その品質の良さってあまり意味がないよねみたいな話になってくると、この10倍品質強度を高めるよりも、ブランドエクイティのほうに投資をしたほうがいいという、これが欧米の先進的なグローバル企業の考え方なので、こういうものに非常にフォーカスがいっている。戦略上、非常に合理的ですよね。ただ、日本企業の場合は、とにかく目に見て分からない、この本当にわずかな差を競い合ってきてしまったので、このプロダクト依存の依存症からなかなか抜けられないという企業を私もたくさん見てきました。

2つ目のパートナー依存というのは、これは基本的に現地の財閥系の企業とかと合弁をつくりますとか、現地のディストリビューターさんと一緒にやります。これ、財閥と一緒に合弁でやるとか、現地のディストリビューターを活用する、これは別に悪い話じゃないですよね。同業者の製造業とやるというね。実際には、ある一定の水準まで売上が上がると、やっぱり利害が不一致してくるんですよね。向こうのスイートスポットと言われる、いわゆる彼らがもともと持っている経営資源でここまで行けます。これ以上行くには経営資源をさらに投下しないといけない、それはやりたくないと、居心地がいいポジションというのがあるので。一方で、日本のメーカー側はもっともっとやってほしいわけだから、経営資源を投下してほしいみたいな、このタイミングである一定のところまで来ると、ちょっと利害が一致しなくなってくるんですけど。何を言いたいかと言うと、パートナーに依存をしてしまう。よくありがちなのは、自分たちはつくる人、売るのはパートナーなので、マーケティングとかセールスみたいなものの、マーケティングの中でもセールスに関わる全般をすべてパートナーに依存しているので、実際に現場の最前線で何が起こっているのか、どういうKPIが設定されていて、日々どういうことが行われている結果が今の数字なのかという、このプロセスが見えていない。それを今さら開示しろと言っても、なかなかブラックボックスにされて開示がされないとかね、そういうケースというのは非常に多くて。これは出資比率に、合弁の場合ね、出資が同じように50:50でやっていても、実際にはセールスの大半は相手方が握っているので、なかなかそこの情報というのは開示されないなんていうのはよくあるパターン。ディストリビューターにも、ディストリビューターがブラックボックス化していくんですけども、とにかくメーカーに見せない。小売、例えばB2Cだったら主要な小売とのコミュニケーションというのは最低限でとどめられてしまう。出張すれば見せたい現場にだけ連れていかれて、本当に見なきゃいけない、問題がある、課題があるところにはなかなか連れて行ってもらえないとかね、そういうことに陥るわけですけども。パートナーに依存してしまっているため、非常に両輪ではなくて、一輪の片方のタイヤしかないような状態になってしまうというケース。

それから、パーソン依存型。これはね、まさに人への依存なんですけども、戦略がない。インプットが少ないので、アウトプットも少ないです。アウトプットが少ない、戦略が少ないわけですね。だから、人でなんとかしようとするので、箱をつくって駐在員を送り込んで、気合と根性で走りながら行けということなんですけども、もしくはとにかくまずやってみろということなんですけども。この「まずやってみろ」とか「走りながら」というのは非常に耳障りのいい、何かすごく素晴らしい、経営者としては責任取ってくれて、まずやってみろと、いいからやってみろみたいな、こういう印象を与えますけど、これはアジア新興国市場では絶対に駄目、ご法度な話で。まずやってみろとか、走りながら考えるみたいなね。なぜならば、これらの用語って、シリコンバレーのような無から1を生み出すような、0から1を生み出すようなイノベーションを起こすような世界での話、言葉であって、生まれた言葉であってね、そもそも。アジア新興国市場の日本の製造業の展開においては、成功事例、失敗事例なんてごまんと転がっていて、それをしっかりとスタディしないまま、まずやってみろとか、走りながら考えろなんていうのは、あんまり賢い選択肢ではなくて。あらゆるケースをしっかりと調査をして、それをインプットとして分析をして、仮説ベースでやっていくということをやらないといけないのをね、仮説が0とか仮説が弱い中でこうやる、私が見てきた多くのパーソン依存型の会社の仮説って、非常にチープな仮説に対してやってみろが重なっているので、当然ながら仮説と現実が大きく乖離が出て、現場はその場でフリーズしてしまうと。本社側は、なんでできないんだ、何が悪いんだみたいなことになっていきますと。そうこうしている間に4年5年に1度の人事ローテーションでまた0リセットをされていくみたいなね、そういう状況なので、やっぱりパーソンにも依存はできないと。

依存して良いものというのは、やっぱり戦略以外ないので。じゃあ、その戦略をしっかり固めるためにはインプットです、調査をしっかりしてください。日本企業のアジア新興国市場における課題の多くは、そんなに難易度の高いような課題を抱えているわけではなくて、単純に調査不足、情報不足、インプット不足から生じているものが大半だと思いますので、とにかく情報収集を、費用、コストと思わずに、投資だと思ってやっていくということが、私は本当に必要だなというふうに思います。
今日はこれぐらいにしたいと思います。また次回お会いいたしましょう。