アジア新興国市場 伝統小売の未来 その1
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テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日は、伝統小売の未来ということでお話をしていきたいなというふうに思います。FMCG、食品・飲料・菓子・日用品等の消費財メーカーにとって、アジア新興国市場に展開をしていく上でこの伝統小売の市場って非常に重要になってくると。この伝統小売が数十年先の未来にどういうふうになっていくのかということについて、今日はお話をしていきたいと思います。それでは、スライドを早速お願いします。まず1枚目のスライドですが、存続、DX、ECということでいくつか、3つに分けてお話をしていきたいなというふうに思うんですが…。まずこの存続というところのお話からすると、結論から言うと、伝統小売は数十年先もなくならない。日本の消費財メーカーの課題って、やっぱり伝統小売の攻略、新興国になればなるほどここに、ここ数十年あるわけですよね。例えばASEANでも、先進ASEANのSMTは伝統小売の数が限られているし。限られていると言っても、タイで45万店ぐらいあるし、マレーシアでも20万店ぐらいあるので。ただ、マレーシアとかタイとかね、シンガポールは伝統小売ほぼないですけども、近代小売だけでも採算が取れる市場ということで、あまり伝統小売にフォーカスが当たらない。一方でVIP市場、ベトナム、インドネシア、フィリピンなんていうのは、伝統小売を獲らないと、そもそも市場に存在していないということになってしまうので、基本的にはVIPの消費財メーカー、VIP市場に展開する日本の消費財メーカーの課題というのは、いかに伝統小売を獲るかということになっているわけですよね。皆さんここで苦労されていて。できれば伝統小売というものがなくなってほしい、近代化してほしい、コンビニになってほしい、そうすると、国内と同じような市場になるので非常に楽だということが思いとしてはある。
ただ、残念ながら、この伝統小売というのはなくならない。数十年先もなくならない。なぜなくならないのかということについてちょっとお話をしていきたいなというふうに思うんですが。まずいくつか理由があるんですけども、まず、すでに数が多過ぎるというのが1つですよね。例えばベトナムで66万店ぐらい、フィリピンで80万店以上あって、一番多いインドネシアでは447万店存在しますよと。これだけすでに多いと、なかなか数十年でなくなるっていうのは難しくて、実際に、じゃあ、インドネシアの過去5年の伝統小売の数ってどうなっているかと言うと、実は減っているんですよね。どれぐらい減っているかと言うと、3万店ぐらい減っていますよと。3万店ぐらい減っている。ただ、3万店毎年減っていったとしても、これ全部なくなるのに150年ぐらいかかるんですよね。仮に、じゃあ、倍のスピードで減っていったとしても75年かかりますよと。3倍のスピードで減っていっても40年近くかかるということなので、もうすでに数が多過ぎるという、こういう問題がまず1つありますよね。
あと1つ。じゃあ、なくなって、何かに代替されないといけないので、それが近代小売に代替されたり、オンラインに代替されたりしていくわけなんですけど。それだけ急激に、じゃあ、近代小売に変わるのか、オンラインに、ECに変わるのかということを考えていくと、小売って小売単体で近代化はしていかないので、基本的には物流インフラ、基本的な電気・ガス・水道のインフラ、それから、特に重要なのは物流インフラ、これはモノを運びますから、物流インフラ。それから、システムのインフラもそうだし、あらゆるインフラが同時並行的に近代化するから、その上に乗っている小売も近代化できるという、こういう構造になっている中でね、例えばインドネシアとか、ジャカルタ、マニラ、メトロマニラ、それからホーチミン、これを見てみると、ものすごく今、今日現在でも渋滞になっていて、そもそも渋滞の解消ができていない。じゃあ、国土交通省のね、各国の国土交通省の道路設備整備計画を見てみると、日本みたいに田舎から都心部まで津々浦々電車が敷かれていたり、高速道路がしっかり整備されているって、こういう計画は今のところ一切ないわけですよね。じゃあ、その中で、道路、物流インフラが近代化していかないのに、小売だけが勝手に近代化していって、伝統小売が消えて近代小売になっていくって、これはなかなか考えにくい市場であると。Eコマースにおいても、まだまだ…、これは確かに伸びていますと、あとでお話しますけども、ECは伸びていますよと。特にこのパンデミックのあと3倍ぐらい伸びて大きくなっているんだけども、ゴジェックとか、いわゆるシェアライドみたいなのがデリバリーをやって、基本的に物流を解消したりしているんですけどね、住所問題みたいのもあるわけですよね、まだまだ新興国には。いわゆるこの一帯全部同じ住所ですみたいなね。日本でもあるわけですよ、そういう地域がね。もともと地主が持っていたから、私の住んでいる広尾でも、広尾3丁目のなんとかなんとかって、もうこの一帯全部同じ番地になっているわけですよね。その番地にレジデンス名が付くから配達の人が分かるみたいなことになっていたりするので。これは新興国に行くとかなり広いエリアで番地が一緒ですみたいなね、そういう状況になっていると。そうすると、どうやって、じゃあ、配達するんですかみたいな問題もまだまだ残っているし。あと、置き配みたいなね、日本みたいに。日本でもこれだけ物流、Amazonの個配物流とか問題になっているのに、新興国市場で、じゃあ、それが実現するかって言うと、なかなかちょっとまだ今の現状では想像しにくい。じゃあ、もう数十年かかっていきますよねということを考えると、単純に近代小売になっていったりとか、ECになっていったりというのはなかなか難しいかなというふうに思います。
なので、そもそもまず数が多いですねと。数が多い上にいわゆる小売だけが近代化するということは難しい。道路の整備計画もそんなに立っていない、渋滞も解消されていない中、物流インフラがこれから、じゃあ、劇的に進化するかと言うと、なかなかやっぱりまだ数十年かかるでしょう。その数十年かかる間に、次回お話しようと思うんですけど、DXが起きると、伝統小売が、もうすでに始まっているんですけども、デジタル武装を始めるので、そうするとやっぱり衰退するスピードよりも、伝統小売がデジタル化によってデジタル武装することによってより便利な存在、もっと言ったらコンビニよりも便利な存在になるスピードのほうが僕は速いと思っているので、基本的には伝統小売というのはなくなりませんよと。
また、フィリピンみたいに伝統小売という存在が、地域社会や、それから小売業界、それから消費者はもちろん、行政、すべての人たちに大切にされている、ものすごく特殊な存在なんですね、フィリピンなんかだと。伝統小売は地域に根付いていて、その伝統小売がどこから、じゃあ、商品を仕入れるかと言うと、近代小売から商品を仕入れている。日本で言うところの駄菓子屋がイオンから商品を仕入れるみたいなね、こういう構造が成り立っていて、すべての地域社会から大切にされているような市場もあるわけですよね。そんな中で、日本みたいにすべて近代化していって、中央集権で本部が決めたことをそれぞれでやっていく、同じようにやっていくと、ガッチャンガッチャンやっていくみたいなことが、僕はASEANを1980年代から見てきて思うのは、あまりそういう民度ってなくて、どちらかと言うと、もっとクオリティオブライフが全然違っていて、今日良かったらいいじゃないっていうとちょっと語弊があるかもしれないですけど、そんなに誰かが決めたことをカチカチやっていくことに幸せを感じていないので、どちらかと言うと自分たちが今日食べられるだけが稼げたらいいよねというライフスタイルでずっと来ているので、そこもなかなか劇的に変わるというのはちょっとそんなにないんじゃないかなというふうに思うので、基本的には伝統小売というのはこれからも存続し続けるというふうに思います。
次回ね、DXとかECについてお話をしていけたらと思いますので、また次回、皆さんお会いいたしましょう。