アジア新興国 日本企業が属人的進出をする理由
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テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日は、アジア新興国市場において日本企業がなぜ属人的な進出、展開をしてしまうのか、その理由についてお話をしていきたいと思います。対象は消費財メーカー、FMCG、食品・飲料・菓子・日用品がいつも通りメインの対象になります。それ以外の企業は皆さんの事業に置き換えて、B2Bの企業などは置き換えて聞いていただければと思います。なぜ日本企業は属人的になるのかということなわけですけど、これは実は前回・前々回、その前ぐらいから始めている日本企業の海外、アジア新興国市場における失敗のね、大きな3大要因のうちの1つですよね、パーソン依存型というもので。戦略がないよと、本社に戦略がないよと。現地に箱をつくるので、そこに駐在員を放り込んで、気合いと根性で走りながら頑張れという、こういう属人的な展開を結構進めていって、結局、5年経っても6年経っても7年経っても黒字化できずに、7年ぐらいになるとさすがに、もうこれ以上増資できないぞと、費用の一部を本社で持って、価格移転税制の件をうまく調整して、なんとか黒字、ギリギリしました、10年経って、みたいなね、こういう企業は決して少なくなかったりとか。あと、本来はベトナムの市場を獲るということで出たんだけども、結局、生産工場を何十億かけてつくりました。でも、ベトナム国内だけじゃこれはプラスにならないと。なので、日本へ戻したり、あと、ベトナムから近隣諸国、タイなどの近隣諸国に輸出をして、それでなんとか黒字を維持するというね、本来の1丁目1番地のベトナム市場を獲るという、ここの目的からだいぶ戦略がずれるというね、こういうケースが少なくないと。
なぜ戦略が、なぜ属人的になるのかっていうことなんですけど、戦略がないからなんですよね。なぜ、じゃあ、戦略がないかって言うと、これは1つにね、やっぱり日本の国内の市場があまりにも今まで大きかったので、この国内市場に重きが置かれてきたっていう背景がまず1つあると思うんですよね。ASEAN然り、アジア新興国というのは本気のマーケットではなかったという歴史的背景がまだあるし、海外であればね、欧米の市場のほうが圧倒的に大きいので、まずそちらが優先されてきたということも当然あるよねと。また、言ってもちょっと格下の市場というふうに見ているところもね、僕はあると思っていて。日本でこれだけ実績を出してきているんだから、それを少し格下のアジアへ持っていったときに受け入れられて当然というね、こういう概念、最近はすごく変わりつつあるけども、まだ少なからず残っているよねと。あまりにもプロダクトで引っ張ってきたので、戦略よりも良いものあればなんとかなるでしょというね、こういうやっぱり話がすごく大きいんだと思うんですよね。
もう1つはやっぱり情報の、これが一番クリティカルな、一番本当の要因なんですけど、戦略ってアウトプットですよね。じゃあ、このアウトプットを出すためには何が必要かって言うと、やっぱりインプットが必要なわけですよね。情報が必要ですと。何の情報かって言うと、市場環境、競争環境、どんな市場にどんな敵がいて、あと自分、自分の経営資源を考えたときに、そこに展開したら何が起こるのかって。これが戦略の枠組みをつくっていくわけですから。情報が、インプットがないと、アウトプットなんか出なくて。この戦略というアウトプットを実行して、本来一番重要なアウトカムという実績を出していかないといけない。でも、日本企業はこの無形の情報収集するという調査にお金をかける商習慣がやっぱりね、欧米の先進的なグローバル企業に比べると非常に少ないし、15年前からずっと同じ課題で悩みながら。「いや、それは調査しないと一生分からないですよ」と。「いや、でも、自分たちでやれと上から言われていて」とか、「調査はやったことないので、そんな予算はありません」とか、ずっと言い続けている大企業とかいるんですよね、何千億円規模の売上の消費財メーカーとかもいて。うちのセミナーに毎回毎回来るんだけども、基本的には同じところをずっと立ち止まっているというか、足踏みしている状態。僕は、逆に言うと現場で一生懸命なんとか変えようとしているね、うちのセミナーに来てくれているような、その人たち可哀想だなと思っていて。会社がそういう、上がそういう感じなので、どうにもならないわけですよね。でも、なんか違うと思うから、1つでもインプットを入れようと思ってうちのセミナーにたぶん来てくれているんだと思うので。なので、やっぱり情報のインプットが足りない。
ちょっとスライドを出しましょうかね。こういうことで綿密な戦略、社としての戦略がないとは言わないけど弱くて、一方で個としての能力は高いので、戦術レベルに落とし込むと非常に強いわけですよね。ただ、戦略って決めることなので、もしくは方向を示すことなので、方向が示されてない中でどれだけ走ったってね、間違った方向に走っていたら、これはどれだけ速く走ろうがまったく意味がないということで。戦術で戦略が補えないというのはそういうことなんですよね。だから、日本企業がなぜ属人的になってしまうのかっていうのは、インプットを入れないからですよね。インプットを入れない。つまりは調査をしないから。じゃあ、どんな調査をするの? これはね、3Cに関わる情報を特にやっぱり入れていない。特に競合周りの情報ですよね。だって、シェアって、競合との競争力をぶつけ合って獲得するものなので、その競合の脅威を解像度を上げて把握せずに、「自分たちは良いものを持っているので」とかね、「自分たちは自分たちなので」とかっていう、そういうことじゃないんですよね。なおかつ、信頼もね、知名度もね、流通チャネルも、何もない新興国市場で、そういうマインドセットで行くと、やっぱりなかなか難しいし。よく、「走りながら考えろ」みたいなね、こういうことを言う人、結構いて。僕も、言葉としてはいいですよ、「とにかくやってみろ」と。なんだけども、この「走りながら考える」とか、「とにかくやってみる」というのは、シリコンバレーでスタートアップが0から1を生み出す、誰も挑戦したことのない未知の挑戦に挑む企業が使う言葉であってね、消費財メーカーがアジア新興国でどうしたら勝つ可能性が高い、どうしたら負ける可能性が高いなんていうケーススタディはたくさん散らばっている中で、それを見もせずに「とにかくやってみろ」ってね、これはあまり僕は賢くないなと思います。
日本企業のいわゆる属人的に展開した日本企業の失敗事例、100%出る前から防げた問題なんですよね。そんなに高度な課題で現地で行き詰っているのではなくて、なぜそんなこと、出る前にやらなかったんですかという、こういう問題が非常に多い。第1陣、第2陣、第3陣というふうに駐在員を投下していって、第2陣は第1陣を否定することで存在意義を見出し、第3陣は第2陣を否定することで存在意義を見出すみたいなことを繰り返しやっているんだけども。これはね、第1陣が悪いんでもない、第2陣が悪いんでもない、第3陣が悪いんでもない。本社に戦略がないということがそもそも悪くて。経営が決めてないということがね、戦略は最終的には経営が示すべき方向性なので。僕はね、やっぱりインプットを入れる。先進グローバル企業をはじめ、ローカル企業もそうですけど、高いシェアを持っている企業は狂ったように調査をやっていますから、狂ったようにインプットを入れているので。インプットなくしてアウトプットは出ないし、アウトプットなくしてアウトカムにはたどり着かないので。仮に万に1つ勝ったとしても、それは積み上がらないし、継続しないし、全体最適した上での勝利ではなくて、部分的な勝利である可能性があるので、次の戦いで敗れるということも考えていく必要があるんだと思います。
今日はこれぐらいにしたいと思います。皆さん、また次回お会いいたしましょう。