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第232回 日本企業が陥りがちな間違った4P(海外戦略)

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テキスト版

森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日は、日本企業が陥りがちな間違った4Pについてお話をしていきたいと思います。

過去の日本企業の海外展開の失敗の要因を分析していくと、特にアジア新興国市場においては、失敗の要因のほとんどは4Pの中に潜んでいます。逆に、この4Pがしっかりしていれば、失敗をするリスクというのは格段に軽減することができます。今日は、どういう4Pをつくってしまったら失敗をしてしまうのか、どういう4Pだったら失敗するリスクを少なくすることができるのか、皆さんと一緒に学んでいきましょう。

まず、「海外事業において最も重要なことって何か?」というふうに聞かれたら、私は「ターゲティングと4Pである」というふうに答えています。このターゲティングが適切であるということを前提にした場合に、そのターゲットに対して4Pを組んでいくわけなんですが、この4Pが、失敗をしている企業を分析していると、だいたい間違っているというケースが多くて。実は、それってやる前から分かっているんですよね。別に後付けで4Pが間違っているよねということではなくて、明らかに戦略を展開する前から4Pがおかしいということは分かっていて。これはB2CおB2Bも多くの日本企業はだいたいトレンドがあって、こういう4Pになりがちであるという傾向があるので、今日はその傾向について皆さんと一緒に見ていこうと思うんですが。

スライドをお願いします。これはB2C、FMCG、食品、飲料、菓子、日用品なんかのFMCGのメーカーの例で書いていますけども、後でB2Bなんかの例もお話をしていきたいと思いますが、だいたいFMCGこぞって、皆さんもう共通の流れで、どういう4Pをつくるかというと…。

これ、視聴者の皆さん、たぶん4Pは分かっていますよね。たぶん、この番組を見ているということは4Pが分かっていないとちょっと困るので、ネットで検索してもらえればよろしいと思いますけど、Product、Price、Place、Promotionの略称、マーケティングミックスというふうに言われますけど、「4P」とか「マーケティングミックス」と検索してもらえればすぐ出てくるので、あまり難しいことは書いていないので、簡単な概要を書いてあると思いますので、そのフレームワーク、4Pフレームワークのお話ですと。

日本企業がアジア新興国市場で間違った4P、どういう間違った4Pを皆さんつくっていくのか、そのトレンドなんですけども。このスライドにある通り、まずProductに関して言うと、日本で実績のある商品をできればあまり変えたくない。これは、結局日本で売っているものを、日本企業の本音を言えば、そのままアジア新興国でも売りたいんですよね。変えるってすごく大変で、原材料を変える、製品を変えるって、これは海外事業部だけの話じゃなくなっちゃうんですよね。生産とか工場とかっていうところも一緒になって、これ変わっていかないといけないので、変えていくわけですから。今まで使ったことのない原材料を使って、商品に何か問題があったら誰が責任を取るんだと、こういうややこしいことになるわけですよね。海外事業をやっている、最前線で海外事業をやっている人は、こんなtoo muchな商品、こんな品質の良すぎる商品は、アジア新興国の市場には合致していないということはもう現場で目にして分かっているんですけども、日本で、生産現場でずっと「いいものをつくるんだ」「品質の高いものをつくらなきゃいけないんだ」ということを1つの、たった1つの価値観としてやってきた工場サイドの人たちは、アジア新興国のそんな現場のことなんていうのは基本的には分かりませんから、分かりませんというのは、頭では分かっていても、本当の意味で分かりませんから、本当にそれが必要なんだというところまで至らないわけですよね。「こんなにいいものをつくっているんだ。高い原材料を使って、高い技術力で、こんなにいいものをつくっているんだから売れるでしょう?海外事業部の人たち、なんで売れないの?」と、こういう発想なわけですよね。そういう人たちとやり合うって、これまた体力のいることなので、基本的にはこのまま売れたらこんなに楽なことはないという、もうその前提で海外事業が進むというのがまずProductの話。

Price。これも、日本で100円で売っているものをアジア新興国で20円で売るって、これはちょっと、さすがに20円で売れるんだったら、日本でも20円で売っているよという話なので、基本的には難しいわけなんですよね。なので、少しは安くするけど、できれば日本と同じぐらいの値段で売りたいよねと。これ、ProductとPriceって一対なので、結局、日本ではものすごくいい原材料を使って体にいいもので、高い技術力でものすごくいいものをつくるという。例えば、分かりやすく言うと、日本でジャイアントコーンみたいなアイスクリームありますよね、ちょっと名前は何て言うのか、僕も分かりませんけど。そういったものを食べると、パッケージを開けると、もうパッケージがサラサラサラサラーッと剥がれていくんですよね。アイスを食べると、チョコレートがまずパリパリッと言って、コーンのウエハーの部分がサクッと言うわけですよ。これ、コンビニで売っているアイスなのにサクッと言う。見てみると何層にもなっていて、サクッと言うわけですよね。アイスの水分がウエハーに到達しないように何かコーティングがしてあるんですよ。それをやるから150円とか高いわけですよね。じゃあ、アジア新興国のジャイアントコーンみたいなアイスってどういうやつかと言うと、基本的にチョコレートはそんなにパリッと言わないし、このウエハーはぬれ煎餅みたいに、サクッと言わないんですよ、ねちょっとしているわけなんですよね。本当にぬれ煎餅と言ってもらったら分かりやすいと思うんですけど、僕は意外にぬれ煎餅的なアイスクリーム大好きなんですけどもね。そういうものが売られていて。この日本の「パリッ、サクッ」が良いというふうに思っていますから、それをアジア新興国で押し売りするわけですよ。なので、品質の高い「パリッ、サクッ」のアイスを、当然、「パリッ、サクッ」なので、値段も高いよと、どうですかと持っていくんですけど、そんなものは受け入れられないと。「パリッ、サクッ」を食うんだったら、別にハーゲンダッツの、いわゆるコンビニの冷凍庫に入っているアイスじゃなくて、ちゃんとアイスクリーム屋さんでアイス食べるよと。300円のアイス食べますよという話になってしまうので。日本の価格がまだアジア新興国とはちょっと開きがあって。やっぱり向こうでジャイアントコーンみたいなものを売らないといけないんであれば、ぬれ煎餅的なものを投入していくということも必要だし、この「パリッ、サクッ」をいかにぬれ煎餅の既存のアイスクリームとあまり変わらない価格帯で出していくかということがすごく重要で、これが倍も、2倍も3倍もしたら絶対売れないので、いかに120%、130%ぐらいで抑えるかということが重要なんですけども、そこがなかなか日本企業は難しいと。

Placeに関しては、日本で慣れ親しんだ近代小売を中心に。近代小売と伝統小売の違いがどういうものかということはこの番組でも再三話してきているので、過去の動画を見ていただいて、日本企業というのは近代小売が慣れ親しんでいるので近代小売を中心に売りたがってしまう。

Promotionに関しても、できれば効果が出るまでPromotion投資はしたくないという。これもすごい本末転倒で、実績が出るまでPromotion投資したくない。それはそうなんですけど、基本的に並べることと、並べたものを手に取ってもらうことというのは別次元の話で。並べるというのはPlaceですよね。これはもう、物理的な話なので、ディストリビューション・ネットワーク、ディストリビューション・チャネルをどうつくるかという話。ディストリビューション・チャネルがしっかりつくれれば、商品というのは店頭に並ぶんですよね、これは。並んだものを消費者が見て手に取ると。並ぶということは、ドン・キホーテじゃない限り、基本的には、アイスはアイス、クッキーはクッキー、チョコはチョコ、ガムはガム、食品は食品でカテゴリーごとに並んでいくので、競合とさらされるわけなんですよね。この競合とさらされた状態で自分たちの商品を、いかに5回に1回、3回に1回、2回に1回取ってもらうかということが勝負になるわけで、その取ってもらうかというのがまさにPromotion。この置くというセルインということと、セルアウトということは、もう全く違う次元、セルインはチャネルの話、セルアウトはPromotionの話なので、できれば実績を上げるまでPromotionをしたくないなんていうのはもう、なかなかそんな都合のいい話は通用しないということなので。

間違った日本の消費財メーカーさんというのはだいたいこういう4Pで固まっている。失敗をしている要因というのは必ずここにあって。いやいや、そうは言ってもいい品質のものを、ちょっとぐらい高くても、みたいなところがだいたい中心に来て。チャネルはものすごく弱いと、もう1カ国1ディストリビューター制を理由なくそうしていて、Promotion投資はあまりしたくないみたいな、だいたいこの傾向で。これはB2Bでも一緒で、基本的にはハイスペックな商品、made in Japan、日本のものづくりみたいなところを言うわけですよね。値段も高いと。中国製と、だいたい最近だともう品質の差がなくなってきているのに値段が高い。何のために値段が高いの?と。じゃあ、ドイツやイタリアのメーカーみたいにブランドがあるかと言うと、ブランドもないというところで。なおかつ、販売チャネルも理由なき1カ国1ディストリビューター制みたいな、決して欧米の先進的なグローバル企業に比べてチャネルが強いというわけでもなかったりするんですよね。B2BのPromotionというのは非常に特殊ですけども、こういったPromotionも別に先端的なものではない。例えば、DXを生かしたデジタルマーケティングを生かしたようなものを進んでやっているか、先行してやれているかと言うと、そうでもなかったりするので、B2BもB2Cもだいたいそういう傾向に陥ってしまっていると。

じゃあ、本来、どういう4Pでなければならないのかという話がこれからの話なんですが。次のスライドを出してもらって。先に話をしたB2CのFMCG、食品、飲料、菓子、日用品の業界で言うと、中間層が求める商品をまず投入しないといけない。これは、もうFMCGの場合、ターゲットは絶対中間層なんですよ。なんでかと言うと、FMCGの商売って100円200円のものを売るわけですよね。アジア新興国へ行ったら、菓子なんかと言ったら10円20円のものを売るという。そういうものって、基本的にはもう一番ボリュームのデカい中間層をターゲットにしないと、これは商売にならないので、このFMCGの商売の最大のポイントというのは、いかにたくさんの人に、いかに速い頻度で、いかに繰り返し、いかに永遠に買い続けてもらうかということがビジネスの肝なので。そうすると、ターゲットは中間層なので、中間層が求める商品じゃなきゃ駄目なんですよね。日本の中間層が求める商品じゃないんです。「パリッ、サクッ」じゃないんですよ。向こうの中間層が求めるものというのはぬれ煎餅でいいわけですよね。

中間層が賄える価格。これも150円のものを1回買うんだったらいいですよ。日用品なので、1回2回は誰でも買えるんですよ。ただ、賄えるというのがミソで。賄えるというのは、生活の中に取り入れるということなので、これ、ほかのぬれ煎餅のアイスクリームが50円で売っているところを150円、3倍の値段で売ったら、これはとてもじゃないけど賄えないので、中間層が賄える価格でやっぱり出さないといけない。

中間層が買いやすい売り場、これはまさにチャネルの話で、近代小売だけで売ってちゃ駄目で、伝統小売にいかに浸透させていくかということを考えていかないといけないので、チャネルが弱いという、買いやすい売り場に並べる。自分たちが売りやすい売り場じゃなくて、消費者が、中間層が買いやすい売り場に並べるということは非常に重要。
最後、中間層が選びたくなるような仕掛けをする。このアジア新興国の中間層というのは決してお金がないんじゃないんですよね。1ドルの価値がわれわれよりも高いということだけなんですよ。どういうことかと言うと、われわれは、1ドルでものを買って、食べました、まずいです、捨てます、二度と買いません、はい、10秒後には忘れていますと、これがわれわれの感覚。ただ、彼らにとってこの1ドルというのは非常に重たい価値なので、1ドルで買ったものがまずかった、まずかったから捨てて忘れるなんていうことはできないわけですよね。なので、絶対失敗したくない。だから、経験者の意見を聞く、「口コミが重要だ」とよく言いますけど、新興国は、まさにそうですよ。食べたことある人の口コミを参考にしたい、もう絶対失敗できないという。だから、選んでもらうためには、Promotionをしないと、誰も知らないものを、なおかつ高かったら、made in Japanとか、Japanブランドだけでは絶対買いませんよということなので、この中間層が選びたくなるような仕掛けをするということが大変重要になります。

ちょっと前のスライドに戻ってもらって、間違った4Pというのは、マーケティングミックスというのは、日本で実績のある商品をできればさほど変えずに、少しは安くするけど日本と同じぐらいの価格で売りたいと。日本で慣れ親しんだ近代小売を中心に、できれば実績が出るまでPromotion投資はしたくないと、こんなことをやっていたら絶対売れませんよねと。これはB2CもB2Bもだいたいこういう傾向なので。B2Cだったら、中間層が求める商品を、中間層が賄える価格で、中間層が買いやすい売り場に並べて、中間層が選びたくなるような仕掛けをすると。2枚目のスライドですね、こうならないといけない。B2Bだったら、ユーザーが求める商品を、ユーザーが賄える価格で、ユーザーが買いやすい売り場なのか、ディストリビューターですよね、もしくはB2Bの場合、直販なので、ユーザーが買いやすいディストリビューター、言ったら、ユーザーに合わせてディストリビューターをしっかり変えていかないといけない、直販だったらより営業を強化しないといけない、そして、中間層が選びたくなるような仕掛けをしっかりしましょうねということでございます。

今日は、日本企業が陥りがちな間違った4Pというふうにお話をしましたが、ちょっと長くなっちゃってあれですけども、以上になります。また次回お会いいたしましょう。