第270回 「早期参入」にこだわる
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テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日は、先進的なグローバル企業が新興国市場への「早期参入」にこだわる理由についてお話をしていきたいと思います。今日のお話を聞いていただくと、なぜあれほどまでに欧米を中心とした先進的なグローバル企業というのは、新興国への早期の参入にこだわっているのかということがしっかりと理解ができると思います。われわれ日本企業が新興国への取り組みに1歩も2歩も遅れる中、先進的なグローバル企業はなぜあれだけ早く動けるのかと、そのマインドセットを今日は皆さんと一緒に学んでいければと思います。
それでは、早速お話をしていきたいんですが。ここで言う先進的なグローバル企業というのは、例えば、B2Cであれば。スライドをお願いします。このスライドにあるような、左のクラフトからコカ・コーラ、ペプシコ、ジェネラルミルズ、ケロッグ、マース、ユニリーバ、ジョンソンアンドジョンソン、P&G、ネスレといったような、いわゆる食品・日用品等のFMCGの業界の先進的なグローバル企業ですが。この図そのものは世界の10大消費財メーカーとそのブランドを表している図なんですが、これは決して欧米の話ではなくて、アジアを含めた世界での10大消費財メーカーと言うとここなんですよね。残念ながら、日本の食品メーカーや日用品メーカーというのは1社も含まれておりません。世界で見れば、日本のジャイアントはトップ10にも入っていないというのが現状でございます。もちろん10大という、何をもって10大と言うか、売上、時価総額、ブランド力とか、いろんな基準がありますが、どれを取っても基本的にはトップ10に入るというのはなかなか難しいですよと。こういった企業を今回の話では先進的なグローバル企業というふうに定義をしています。
日本企業でも先進的なグローバル企業というのはやっぱりあって、ユニ・チャームとか、味の素、それからヤクルト、こういった会社は、私は十分先進的なグローバル企業だと思うので、トップ10には入っていないだけで、日本の中では非常に先進的にグローバル、新興国を含めて早くから出て成功していますから、そういう企業も日本には一応ありますよということだけは付け加えておきます。
B2Bだと、例えばGEとか、ABBとか、キャタピラとか、こういった会社が先進的なグローバル企業としてよくグローバル市場では目にするし耳にするし、われわれも調べて彼らの先進性みたいなものを調べる機会が多いんですが、そういう企業になります。こういう会社を先進的な、今回グローバル企業と言っているんですが。
次のスライドをお願いします。今回、この欧米メジャーの消費財のFMCGのB2Cの、先ほどのネスレとかユニリーバとかP&Gとかという会社というのは、1980年代にはもうアジアであればアジア新興国をもう市場として捉えていたんですよね。もちろん日本もそれぐらいの時代には現地に進出はしているんですが、あくまで生産拠点としての進出が多くて、圧倒的にマーケットとして新興国を捉えた時期というのがアジア新興国で捉えてもやっぱり20年は私は遅れていると思うんですね、日本企業は。その中で日本企業が本当にやっぱりアジア新興国を市場として捉えた時期というのは2000年代に入ってから、2000年代前半というふうに言われたりして、中国なんかは2000年代前半と言われているんですけど、本気でというところも、どこまで本気かと言うと、やっぱりこれは、人、モノ、金、情報、これを欧米と同様ぐらいにボーンと付けて初めて本気ということなので、2000年代前半なんていう文献がよくありますけど、私、2000年代前半、中国に住んでいましたけど、あの当時はまだやっぱり日本企業はまだまだ本気になっていなくて、本当に新興国市場、アジア新興国市場を本気で考えたというのは2010年以降なんじゃないかなというふうに思います。
その中で、新興国というのは中国、中国はもう先進国で日本を抜いて世界第2位の経済大国ですけども、ASEANがあって、メコン経済圏、今ミャンマーは大変なことになっていますけど、もともとはメコン経済圏、ミャンマー、カンボジア、ラオスというこのメコン地域の経済発展というのが期待されていたんですけど、ミャンマーの今後はどうなるかということによっては、ちょっと先行きは不透明ですけども。あと、インドがあって、ブラジル、南米があって、そして、最後の聖地アフリカというのがあって、まだまだ新興国の市場というのは大きいんですよね。そこへの取り組みもやっぱり日系企業は非常に遅れていて、先進的なグローバル企業のほうが圧倒的に早いと。
何なんだろうと。日本の企業というのは非常に良いモノをつくっているわけですよね。モノは良いし、人も良いし、企業としても素晴らしい。なのに、なぜこんなに早く動けないんだろうということを、私もフラストレーションのようにずっと考えるようになって。ここ20年間で数多くの先進的なグローバル企業にインタビューを取ってきた。僕の仕事はそれを分析して戦略をつくってそれをお客さんに提言することなので、いろんな企業にインタビューを取ってくる中で1つ分かったことなんですが、なぜあれほどまでにこだわるかって、まず1つは、一番最初に目にしたもの、口にしたもの、使ったものの与えるインパクトって相当に大きいんですよね。これ、何でもそうだと思うんですけど、2は1を超えられないんですよね。これ、ゲームでも映画でも何でもそうですけど、最初に新しいものが爆発的に浸透したときのインパクトってとてつもなく大きくて、その後、より良いものが2番3番4番と出てくるんですよ。実はよくよく見ると、2番3番4番のほうがより良いんだけども、より良いんだけどもやっぱり最初のインパクトというのはものすごく大きくて。その重要性を先進的なグローバル企業は分かっている。だから、誰よりも早く一番最初のインパクトを得ようと新興国に出ていくわけなんですよね。
いろんな先進的なグローバル企業にインタビューをしていると、共通してこういうことを言う。彼らは、成功するための秘訣というのは何なのかと言うと、誰よりもやっぱり早く失敗することなんだということに近いことを皆さんこぞって言われて。要は、誰よりも早く行動して、言ったら展開をして進出をして、そして、未開の国の新興国ですから、そんなにいきなり行ってすぐに成功するなんて思っていないわけですよね。なので、誰よりも早く失敗をしたいんだと。そして、誰よりも早く失敗をするということは誰よりも早く学ぶことなので、誰よりも早く学ぶということは成功が誰よりも早く近くなるんだと、早くなるんだということを仕組みとして先進的なグローバル企業は理解をしている。だから、誰よりも早く出ていって、誰よりも早く失敗をして、誰よりも早く学んで、誰よりも早く成功するという、この好循環を手に入れるために徹底的に早く行くんだと。
日本企業と全く考え方が違って、日本企業の場合は本社に戦略がないのに、兵隊のように駐在員を飛ばして「気合と根性で頑張れ」と、「成功しなかったら帰ってきて席はないぞ、いいな」と。そこまでは言わないかもしれないですけど、それに近いような状態で海外展開が繰り返されている。生産拠点としての海外展開の時代はそんなことをする必要はなかったんですよね。別に自分たちがつくることはできるわけですから、より安い労働力を使って安くつくって、それを先進国に輸出をするというビジネスでしたから。でも、今は新興国でいかに安くて良いモノをつくって、その新興国市場でいかに浸透させるか、販売するか、マーケティングするかということなわけですから、そうなってくると仕事の内容が違うし、人材に求められるスキルセットも違ってくるわけですよね。その中で、やっぱりそういうマインドセットというのが先進的なグローバル企業には根付いていて。
もう1つあるのが、じゃあ、誰でも彼でも特攻隊長のように早く行って失敗をして学べばいいのかと言うとそうではなくて、そこには高度な仮説があるんですよね。仮説のない失敗というのは何の学びもないので、これは無意味な失敗、痛いだけというね、転んで痛いだけという話で。必ずそこには高度な仮説が必要で、この仮説のために行動します、早く行動しますと。でも、必ずずれるんですよね。当初立てた仮説からずれる。でも、このずれが学びになって、他社よりも早く、より高いところに行けると、それを繰り返し繰り返しやることで成功というものをつかみ取るんですという構造そのものを欧米の先進的なグローバル企業は知っていて。なので、果敢に失敗をしてでも出ると。その代わり、高度な仮説はしっかりと持ちますよと。
高度な仮説ってどうやったら持てるかと言うと、やっぱりインプットの量なんですよね。インプットの少ない人って、仮説もレベルが低いわけですよね。これは当然ですよね。だって、情報量100インプットしてその100のインプットで出す仮説と10のインプットで出す仮説と言ったら、これは当然普通に考えて10倍違うと。もちろんインプットが多ければアウトプットという仮説がしっかり出るのかと言うと、そうではないと。10というインプットを入れて10、100%で出せる人もいれば、100入れても10のアウトプットしか出せない人もいるわけなので、そこはケースバイケースなんですが、基本的にはインプットが多ければ多いほど高い仮説を持てるということになる。欧米の先進的な企業は仮説を非常に重要視しています。なので、インプットを集めるということに投資を惜しまないということをやっぱりやっている。
本当に数多くの先進的なグローバル企業にインタビューをしてきた結果、やっぱりそのマインドセットが日本企業にはなかなか足りていないのかなというふうに思います。ですので、日本企業もこれからは高度な仮説を持ちつつも、やっぱり早期に行く、誰よりも早く行って、誰よりも早く失敗をして、誰よりも早く学ぶという、この好循環がビジネスの成功をつくるんだというマインドセットにやっぱりならなきゃいけなくて。モノが良いから成功するだろうじゃ、もうこれはなかなか通用しないし、日本が思っている良いモノというのは、もはや世界の良いものではないので、そこは中国の企業でもつくれるわけですから、そこは今一度見つめ直す必要があるんじゃないかなというふうに思います。
今日は少し長くなりましたけども、これぐらいにしたいと思います。それでは皆さん、また次回お会いいたしましょう。