第310回 1カ国1代理店ではシェアは上がらない その2
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テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。「1ディストリビューター制ではシェアが上がらない」ということについて引き続き、前回に引き続き、お話をしていきたいと思いますが、前回お話した内容、ベトナムを例に出したんですかね、ベトナムを例に出して、今使っているディストリビューターでなかなか売上が伸びない、シェアが伸びないと。その要因は4Pで言うところのプレイスにありますよ、チャネルが弱いですよと。どういうふうに、じゃあ、チャネルが弱いの?というところをさらに開いていくと、例えばA小売、B小売、C小売というのが存在、市場には存在するのに、今のディストリビューターではA小売としか強固な関係が築けていなくて、B小売、C小売での配荷がなかなか弱いとかっていう、いわゆる小売に対する問題。もう1つはエリア。例えば、ハノイでは売上が上がっているんだけども、ホーチミンではなかなか上がらないとか、その逆も然りですけども、そういうような問題があったりしますよと。これに対して、今までは日系の企業さん、これは業種、B2C、B2B問わず、ディストリビューターには丸投げ状態と、自分たちはつくる人、売るのはディストリビューターということで、基本的には彼らがどういう中間流通を通じて、二次店、三次店を通じて、どういう、B2Cだったら小売に、B2Bだったらユーザーに、どういう組織体制で、どういう活動をして売っているのかみたいなところを全く介在してこなかったわけですよね。基本的にはマーケティング戦略で日本のメーカー側がやると言いつつ、プロモーション戦略みたいなところは少し介在するんだけども、基本的にはマーケティング戦略とか営業戦略には全く介在しないで、「つくるのは自分、売るのはあなたたち」ということで任せてきていたので、なかなか伸び悩んでから、伸び悩みの要因が見出せないというケースが非常に多い。それ蓋を開いていくと、多くの日本企業の場合、理由なき1カ国1ディストリビューター制みたいなものを敷いていて、なかなかシェアが伸びきらない状態に陥ってしまっている。これ「理由なき」というふうに申し上げましたけど、一応、彼らなりには理由があって、「自社内競合したらどうするんだ」とか、「管理が楽だ」とか、「もう数十年も付き合っている仲なんだ」とか、そんな感じなんですよね。
一方で、契約形態を見てみるとどうかと言うと、守りの契約が完璧な日本企業ですから、基本的には独占契約にはしていない。何があっても自分たちが思うようになるように、一応、非独占契約にはなっているんだけども、事実上、独占契約になっちゃっているんですよね。これは本当にもったいなくて、何か起きたときの安全牌のために独占契約にはしないとかって言うんだけど、事実上、ずっと独占を何十年もやってきているって、こんなもったいないことはなくて。であれば、独占契約を与えて、その分コミットをさせるということをやったほうが、よっぽどうまく独占権をお金に変えれてる、シェアに変えるということができているはずですね。でも、そういうことをうまく巧みにやれている企業というのはなかなか少なくて。基本的には独占も与えないから、いつ切られるか分からない。これはディストリビューター側の心理ですよね。彼らは一族企業で、自分たちのファミリーを守ることが最優先で、いろんなメーカーの商品を取り扱っているし、大きなディストリビューターであれば、財閥系、地方財閥、中堅財閥、大手財閥いろいろありますけども、いろんな事業をやっている。そんな中で、やっぱり信頼関係が契約書上も持てないようなところには、いつ切られるか分からないので向こうも当然防衛線を張るわけですよね。そうすると、やっぱり、なかなかこう、ただでさえ駐在員の任期でころころ、ころころ、担当が変わってしまうというのが日本の企業の性質であるにもかかわらず、さらに契約書も守りの、何かあったら困るので非独占みたいなね。事実上独占なのに、非独占になっていると。こんなことをやるものですから、どんどん、どんどん、距離も離れていったりするんですよね。なので、1ディストリビューター制とちょっと話がだいぶ逸れちゃいましたけど、1ディストリビューター制になってしまっている、理由がない1ディストリビューター制だし、その中身を見てみると、そのディストリビューターのモチベーションが上がるような契約にもなっていないし、コミュニケーションの取り方にもなっていないという、そんなケースが非常に多いですよと。
このディストリビューションの再構築って、今、本当に多くの企業が取り組んでいますけども、かつて何十年も付き合ってきたんだけども、かつてその企業にした理由って、別に戦略的に決めていったわけじゃなかったりするんですよね。何となく何かのご縁でそうなったとか、何となく当時の海外担当役員が決めた相手だったりとか。でも、今、じゃあ、その相手が本当にベストかと言うと、その精査すらしていないという状態が結構多いわけなんですよね。
だから、今、ディストリビューターの再構築というのを非常にやっているんだけども、今回の番組のタイトルにあるように、1カ国1ディストリビューター制ではシェアが上がらないというのは、そういうことも、中身の問題もあるんですけど、ちょっとスライドを使いますけども。これ、ごちゃごちゃ書いていますけども、先進グローバル消費財メーカーのチャネルの構造と日本の消費財メーカーのチャネルの構造を視覚的に表しているんですけどね。これ、右側の赤い丸というのは、いわゆる大規模のディストリビューター。例えば、ベトナムなんかだと、日本の多くの消費財メーカーは、ホーチミンに、下(南)のホーチミンに1社、大規模のディストリビューター、そして、以上というケースが結構ほとんどで、最近ようやく、「いや、ハノイはやっぱりハノイでディストリビューターを使わなきゃ駄目なんだ」ということが分かってきて、ハノイはハノイで別のディストリビューターを契約しているという企業が増えてきましたけども。ちょっとここ何年か前ぐらいまでは、南のディストリビューター1社みたいな状況が多かったと。こんなような状態で、1社の状態でディストリビューションするわけですよね。なので、結局、獲れている間口のカバレッジが500間口ぐらいになってしまっている。これは、言ったら、近代小売500店舗に対して商品は置けているけども、それ以外のところにはなかなか流通ができていない。
一方で、じゃあ、先進グローバル消費財メーカーを見てみると、どういうふうになっているかと言うと、大手のディストリビューターはもちろんのこと、緑の丸が中堅なんですけど、中堅も使ったり、あと、ネスレリーバモデルって私は呼んでいますけども、ユニリーバとかネスレなんていうのは、商品特性もあるんですけども、TT(伝統小売)の市場にダーッと配荷をしていかないといけないので、基本的には小規模のディストリビューターも使っています。100社とか200社のディストリビューターを使って、10万間口、20万間口、獲っているんですよね。そうすると、視覚的に見ると、こういうディストリビューション・ネットワークになってくるんですけども。これを見るともう一目瞭然で、全く間口のカバレッジが違うんですよね。ベトナムに出て近代小売だけやるんだったら、もう出ないほうがいいというぐらいの市場なわけですよ。
だって、1億人弱の市場で、基本的にはまだまだ新興ASEANと言われる、VIPと言われるベトナム・インドネシア・フィリピンのグループですけども、ベトナムは非常に伝統小売比率が高い。85%以上が伝統小売から売上が上がっているわけですよね、FMCGの業界だと。そうすると、この市場に出て近代小売だけでビジネスをするなんていうのは、もう愚策もいいところで、そんなの出る意味が全くない。そうすると、やっぱり、伝統小売にどれだけディストリビューションチャネルをつくれるかということがポイントになってくるんですけども。50万店あるわけですよ。基本的にはベトナムの近代小売なんていうのは3,000店舗ぐらいしかないわけで。一方でベトナムの伝統小売というのは50万店あって、この50万店に1社とか2社のディストリビューターで本当に商品を配荷できるんですかという話なんですよね。そんなの絶対無理なんですよ。だって、その1社のディストリビューターの社員は何人ですかと。その社員の中に御社の担当チームって何人いるんですかと。じゃあ、10人いましたと。10人で50万店に配荷をしようと思ったら、それ何十年かかるんですかという計算が瞬時に出るわけですよね。いや、二次店を使ってますからって、じゃあ、二次店、何社いて、二次店に何人のセールスがいて、1日あたりどれぐらいの伝統小売を回っているんですかってことを計算していけば、これもやっぱり何十年とかっていう時間がかかってしまう。そうすると、やっぱり1社のディストリビューターじゃ無理だよねということが、やる前からある程度想定できると。
時間ですね。ということなんですよね。なので、結局、特にB2CのFMCGは、伝統小売の存在があるだけに、伝統小売が数、何十万店、インドネシアなんか300万店、こういう数の勝負なので、結局は人が必要なわけですよね。そうすると、ディストリビューターは数が必要になってくるという、こういう問題なので、1社のディストリビューターではなかなかシェアが獲れない、売上が上がらない、これは本当にごく当然のことなので、そんなことはやる前から分かっているよねという問題に陥っている日本企業は非常に多いですよというお話でございます。
ちょっと今日はここで切って、また次回このお話を引き続きやっていきたいと思います。今日はこれぐらいにします。また次回お会いいたしましう。