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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 34 近代小売(MT)と伝統小売(TT)をレイヤー化する

著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長

近代小売、伝統小売をさらに細かくセグメント化

ここまで、近代小売(MT)と伝統小売(TT)の2種類の小売について話をしてきました。デパート、スーパー、コンビニなどの近代的小売業態を近代小売、そして小さな個人食料雑貨店や市場などの伝統的小売業態を伝統小売と呼ぶことをお伝えしました。しかし、実際に深く見ていくと、小売業態は近代小売と伝統小売というシンプルな2種類だけではありません。いくつかの種類やレイヤー(階層)に分類することができるのです。例えば、あくまでも近代小売ではないのですが、伝統小売とも言いがたい大きな店舗を私は一般小売(ジェネラル・トレード、General Trade: GT)と定義しています。ここで注意すべきは、アジア新興国では、国によって近代小売をGTと呼んだり、伝統小売をGTと呼んだりする場合があります。要は、その国の人にとってどのような小売業態がジェネラル(一般的)なのかで定義が変わります。私の場合は、近代小売と伝統小売の中間にあたる、地域のグロサリーやミニマートをGTと定義しています。先進グローバル消費財メーカーも同様に、小売店舗を細かくレイヤー化しています。これにより狙うべき小売を明確にすることが可能になります。

小売店を8つに分類

下記の図は、私が定義している8つの小売レイヤーです。まず、大前提として、近代小売(MT)に分類される小売は、POSレジの設置してある小売です。広く、近代的な店内だろうが、エアコンがかかっていようが、POSレジがなければ近代小売ではありません。その大前提をベースに、MT1とMT2に分けています。MT1は近代小売の中でも主要な小売です。例えばベトナムでいえばCO.OPmartやMETRO、BigC、VinMart、最近ではイオンも大きな存在感を放っています。フィリピンでは、SM、Puregold、Robinsons、Rustansなどがこれに当たります。POS レジがあり、近代化された店舗が MT2です。次に、一般小売(GT)も2種類に分けます。GT1は、POS レジはないまでも、店員が複数人いる「地域一番店」と言われるようなグロサリーやミニマート。自分たちが店舗でお客さんに売るだけではなく、商品を大量に仕入れて一般的な伝統小売に卸すという問屋の役割も担っている場合があります。この一般小売の中でも規模が小さめの店舗がGT2です。そして、伝統小売(TT)はTT1からTT4まで分けています。TT1は一般小売のように問屋機能は有してないものの、居住者が多いエリアにあったり、交通量や人通りが多いエリアにあったりする店舗を指します。TT2は、居住区内に立地し、地域住民のみが買い物に来る一般的な店舗です。そして、TT3はドアや屋根がなくてもかろうじて店を構えているようなところです。最後のTT4はリヤカーや路上販売といった違法まがいのレベルです。

小売店をレイヤー分けして攻略する必要性

日本では、アジア新興国の小売と言えば、近代小売か伝統小売かの二極化の議論が中心ですが、上記で説明した通り近代小売でも主要と非主要がありますし、近代小売と伝統小売の間には、グロサリーや、ミニマートなどの一般小売が存在します。そして、伝統小売といっても、そこには様々な種類の伝統小売が存在するのです。

共通して言えるのは、食品、飲料、菓子、日用品などの消費財の業界では、中間層をターゲットとしない限り大きなシェアは得られないことです。そして、そのためには、近代小売はもちろんのこと、同時に一般小売や伝統小売の攻略が必須ということです。しかし、ただ闇雲に近代小売、一般小売、伝統小売を狙えばよいというわけではありません。小売をレイヤー分けし戦略的に攻略していくことがROI(投資対効果)を高めます。我々も、お客様のストア・カバレッジを上げる等のプロジェクトでは、上記で説明したレイヤーをベースに、顧客の商品特性に合わせて、小売レイヤーを再定義します。その上で戦略を実行していきます。多額の導入費がかかるアジア新興国の近代小売や、何十万店、何百万店存在する一般小売、伝統小売の攻略の第一歩は、自社の導入期戦略に合わせた小売のレイヤー分けにほかなりません。

先進グローバル消費財メーカーはまず GT1を押さえる

先進グローバル消費財メーカーはエリアごとの小売マップを作成していて、「このエリアには、近代小売が何店舗、一般小売が何千、そして伝統小売が何万」というように、しっかり把握しています。彼らが一番に押さえているのは、卸売機能を持ったGT1です。「1つのGT1につき、もれなく伝統小売が50店舗ついてくる」というような、エリアの要になる店舗です。
次に狙うのが GT2で、やはり一般小売を獲得することは非常に重要視されています。一店舗で最も数が売れるのは近代小売です。しかし、アジア新興国では近代小売の数がまだまだ少ないため、近代小売だけでは利益が出ません。そこで、数十万店、数百万店ある伝統小売を狙う必要があるわけですが、伝統小売の中でも比較的大きな店舗から、また伝統小売より先に一般小売を狙うほうが圧倒的に効率が良いのです。欧米の先進的なグローバル消費財メーカーは、こうした押さえるべき小売に関しても非常に戦略的です。日本の消費財メーカーの場合も、まずは 近代小売と同時に、GT1からTT1までを狙うことをお勧めします。ここまでのレイヤーでも、いずれのアジア新興国においては相当な獲得店舗数になるので、導入期のターゲットとしては申し分ないでしょう。TT2より下のレイヤーは、TT1までをやりきった後でも問題ありません。