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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 35 先進グローバル企業の戦略的チャネル・ストラクチャー

著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長

先進企業と日本企業のチャネル・ストラクチャーの違い

下記の図はASEANのある国における、ある先進グローバル企業と日本企業のチャネル・ストラクチャー、つまりはチャネルの構造を表したものです。仮にA社としておきましょう。A社は現地に法人を持ち、大手スーパーやドラッグストア、コンビニといった近代小売(MT)には自社で直販しています。そして中小スーパー、グロサリー、スモールストアといった一般小売(GT)や伝統小売(TT)については、8社の大中規模のディストリビューターを活用して販売しています。 A社の営業部には近代小売のセールス担当者の他に「ディストリビューター支援チーム」のような部隊がいて、ディストリビューターの社内にデスクを置き、日々のストア・カバレッジを拡大する活動をサポートしています。このように、近代小売については本社で直接対応し、一般小売と伝統小売については数社のディストリビューターを活用する方式を取っている企業の筆頭が米P&Gであるため、私はこの構造を「PGモデル」と呼んでいます。
米P&Gは、ASEAN 各国で8社前後の大中規模のディストリビューターを使っていて、だいたい大手が1〜2社、中堅が6〜7社です。これらのディストリビューターの中には、まだ会社規模が小さい時から米P&Gによって中堅にまで育て上げられたことから、米P&G側が競合する商品でなければ他社商品の取扱いを契約上で禁じているわけではないのに、100%、米P&Gの商品しか扱っていないという企業も少なくありません。つまり、米P&Gに対して大変ロイヤリティが高いのです。

日系企業は1カ国1ディストリビューター

一方で、下記の図の右側は、同国における日系の消費財メーカーB社のディストリビューション・チャネルです。A社と同様に現地に法人を置いていますが、1カ国に1ディストリビューターという方針を取っていて、近代小売、一般小売、伝統小売のすべてを1社のディストリビューターに任せて います。「任せる」と言えば聞こえはいいものの、日系企業の場合、多くは「自分たちは作る人で、売るのは現地を最も理解しているであろう現地のディストリビューターが適しているから後はお願いね」という、売り方を含めてディストリビューターに丸投げのスタンスが基本です。基本的にはメーカーとしての戦略はなく、プロモーションに関しても最 低限で留め、できれば実績が出るまでは投資は避けたいというのが日系企業の本音です。過去にこの連載でも述べたように、ディストリビューターは、自社のROI(投資対効果)を最大化できる特定エリアの特定近代小売への限定的な配荷になるのは当たり前です。

そもそも数十万、数百万店舗存在する伝統小売を1社のディストリビューターでカバーできるわけがありません。逆算すればすぐにわかります。10万店の一般小売や伝統小売にストア・カバレッジを伸ばすには、何人のセールスマンが物理的に必要になるのか。1社のディストリビューターには、何人のセールスマンがいて、そのうち何人が自社の商品のセールスをしてくれるのか。また、その1社のディストリビューターは、何社のサブ・ディストリビ ューター(2次店や3次店)を持っていて、それらは何千、何万店舗の一 般小売や伝統小売に通じているのか。これを計算すれば、1社のディストリビューターでは、5万店、10万店のストア・カバレッジが取れないこと、マーケットシェアはいつまで経っても伸びないことが明らかになります。対して、欧米の先進的なグローバル消費財メーカーは、緻密な計算により必要なディストリビューターの数を決めています。米P&Gも、今では、ASEANなどでは1カ国8社程度のディストリビューターを活用していますが、以前は、各国で数十社のディストリビューターを活用していました。彼らを管理育成し、ふるいにかけた結果が現在の8社程度なのです。従って、現在の米P&Gのディストリビューターは、すでに選抜された戦闘能力の高いディストリビューターなのです。

どのモデルが自社に適しているのかを見極める

先進グローバル消費財メーカーのチャネル・ストラクチャーには、先に紹介した「PGモデル」の他に「ネスレ/リーバモデル」があり、この2 つに大きく分かれます。米P&Gは比較的大きめなディストリビューターを8社前後使ってスト ア・カバレッジを作る戦略ですが、瑞ネスレや蘭英ユニリーバは、米P& Gよりもっと下層のレイヤーまで狙う戦略をとります。彼らは、アジア新興国では、どこの国でも小さなディストリビューターを100社から200社ほど使い、伝統小売を隅々までくまなく攻略していくの です。ベトナムで約5割のシェアを持つエースコックのディストリビューション・チャネルは、この「ネスレ/リーバモデル」に似ています。これは各社の商品特性や戦略の違いから、自社に適したチャネルの構築を行ってきた結果の表れです。自社の場合はどちらのモデルが合うのか、もしくは、まったく別のモデルが適しているのか、しっかり見極めてみてください。