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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 36 「地域一番店」的伝統小売の見分け方

著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長

店舗面積が広めで取扱商品が多彩

「地域一番店的店舗」とは、1ブロック、2ブロック程度の限られた町内で、最も精力的に商売を行っている伝統小売(TT)のことです。厳密に売上が一番だとか利益が一番である必要はありません。町内で目立った存在である伝統小売です。この地域一番店的店舗の見分け方は、もちろん国によって若干の差はありますが、傾向としてはパッと見で伝統小売のわりに店舗面積が大きく、最低でも横5〜10メートル、奥行き5〜10メートル程度の場合が多いです。そして、店番の子が少なくとも2〜3人はいます。また、店先に吊り下げられているスナック菓子などの大半が、一種類で10袋、20袋が1つの大きな透明の袋に入って何個も置かれています。

また、携帯の SIMカードを売っているような店も地域一番店の特徴です。アジア新興国のSIMカードはプリペイド式が多く、ある程度の資金力と信用力のある伝統小売でないとSIMカードの取り扱いはできません。
また、これら地域一番店的な伝統小売は、他の消費財と比較して極端に賞味期限が短い卵やパンなどを取り扱っているケースもあります。賞味期 限が短いモノは、売れなかったらすべて無駄になるため、地域でしっかりと顧客基盤を持っていないとなかなか取り扱いにくい商材なのです。
さらに、コカ・コーラなどのロゴが入った大きな冷蔵庫や、ユニリーバやネスレのアイスクリーム用の大きな横長の冷凍庫などが何台も設置してあれば、そこは地域一番店クラスです。これら冷蔵庫や冷凍庫はメーカーから無料で提供されるもので、メーカー側も売れる店にしか提供しません。
また、例えば、コカ・コーラの冷蔵庫の中身にも注目してください。中身がすべてコカ・コーラ1社の製品で詰められていれば、この店にはコカ・コーラの現地ディストリビューターの担当者が頻繁に来ている証拠です。つまりは、コカ・コーラ側から重要視されている伝統小売になります。
そうでない場合、コカ・コーラ社の製品以外のものがコカ・コーラの冷蔵庫で冷やされていたりします。アイスクリームも同じです。特にアイスクリームは清涼飲料水より数が出ないので、メーカー側も設置する店を相当吟味します。
従って、アイスクリームの冷凍庫が置いてある店はメーカーから重要視 されています。アジア新興国のアイスクリームは、ユニリーバのシェアが圧倒的で、ASEAN6の中でも4カ国でシェアが第1位です。国によってはシェアが6割、7割程度あります。

そのユニリーバは、国によってブランドを変えるのですが、例えば、ASEANだと「WALL’S」ブランドで展開しているので、大概の場合、冷凍庫の側面に WALL’Sのロゴが記載されています。また、冷凍庫の中を覗いた時に、「MAGNUM」などユニリーバのプレミアムアイスが入っていると、その伝統小売にはそれなりの顧客が来ている証拠です。MAGNUMなどのプレミアムアイスクリームは、近代小売(MT)か、ゴルフ場などでしか見かけることはなく、伝統小売に置いてあるのは非常に珍しいです。従って、こういった伝統小売は、まさに地域一番店になります。
そして、これら地域一番店的な伝統小売をしばらく観察していると、バイクである程度まとまった商品を取りに来る人が多いことに気がつきます。これがまさに地域一番店の裏の顔です。
周辺の小規模な伝統小売にとっては、これらの地域一番店が問屋の機能を果たしているのです。通常の伝統小売はお店も小さく、たくさんの商品は置けません。毎月の売上が数万円程度という伝統小売も少なくありません。このような店にディストリビューターがいちいち配荷していては手間がかかってしかたがありませんので、基本的には配荷はしません。かといって、小売側が遠方まで商品を仕入れにいくのも大変です。多くの場合これら小さな伝統小売はおじちゃん1人やおばちゃん1人で運営しているので、そんなに手間のかかることはできません。だからこそ、この地域一番店的伝統小売が活躍するのです。

これら小さな伝統小売のオーナーは、自分たちが売る商品を地域一番店から仕入れるのです。インドネシアなどではこの地域一番店を「グロシー ル」と呼び、小さな伝統小売を「ワルン」と呼び、グロシールが近隣の数十から百店舗程度の伝統小売問屋機能を果たしています。この構図は、メーカーにとっても、ディストリビューターにとっても、地域一番店にとっても、そして小さな伝統小売にとっても非常に良い関係となっているのです。