東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは。森辺一樹です。
東:じゃあ森辺さん、前回マーケットメイキング、マーケットクリエーションっていうところでいろいろお話をいただいたんですけども、日本企業はなかなかそこに投資、販路構築に投資をしないと言ってはいたんですが、全く多分、成功例がないかっていうとそうではないと思うんですけど、こないだユニ・チャームさんの話が出ましたが、ユニ・チャームさん含めてどういった企業が日本企業で頑張っているなって思われるところってあるんですかね。
森辺:そうですね。まあ味の素さんなんかはインドネシアで非常に強いですし、インドネシアでいうと、マンダムってGATSBY(ギャツビー)なんかも、インドネシアの人たちはマンダムってインドネシアの会社だって思っているぐらいに浸透しているし、BtoBとかでいうとKOMATSU(コマツ)さんもそうですよね。YKKなんかもそうですよね。だからやれている会社はやっぱりやれていて、何がやれているのかっていったら、まあ商品がすばらしいっていうのは当然なんですけど、やっぱり販路構築に徹底的に投資をしているんですよね。今言ったクラスの会社さんはそこに数千万の投資を当たり前にやっていて、そこで土台ができるわけじゃないですか、最初のね。その数千万っていうのは最初の土台作りですよね。そこをやっぱりやっていかないと、なかなか商品流通しないっていうことは身をもってわかっているし、よく海外展開2回目です、3回目です、みたいな会社さんあると思うんですけど、無駄なお金をいっぱい使っているわけですよね。で、ノウハウがたまっているんだったらまだしも、販路構築に投資をせずにやみくもにボーンと箱だけ出して、駐在員送り込んで、それ頑張れと。で失敗して戻ってきた会社にノウハウなんかたまらなくて。しっかり販路構築をして、そのうえで負けてしまった。これはノウハウとしてたまるんですよね。だからそういうことをしないとやっぱりだめだし、僕がその販路構築の支援をこのスパイダー・イニシアティブという会社でやっていますけど、何をやるかって非常にシンプルで、どこの国で売るのが一番ROIが高いですかって、そういう議論になりますわね。そうすると市場環境をまず見る。これはマクロ環境をしっかり見ていくっていうことをまずやるんですよね。で、その中で国選定を一つしていくと。要はマクロ指数から国を選ぶっていうことは前提中の大前提で、これをやりますと。次にやることは競争環境なんですよね。いくら市場がいいといっても、そこに強い競合がいたら勝てる可能性ってのは下がるわけじゃないですか。ですから競争環境を徹底的に調べるっていう、ここをしっかりやらないと、市場がいいから出たんだっていっても、いい市場なんてのはみんな狙っているわけで、自分が本当にそこで勝てるのっていうことをやっぱりやっていかないといけない。ですからその市場環境と競争環境を重ねて初めて、出る出ないの判断なんですよ。それがやられると、今度その競争環境をベースにベンチマーク調査みたいなことをやっていくと、いわゆる敵の販路の作り方、流通の構造、それから流通に対する各種施策の実態、いわゆる、リベートがどうなっている、営業施策がどうしている、マーケティングコストはどれぐらいかけて、プロモーションはどうしているとか、そういうことが全部可視化されるわけですよね。それをもって自分たちの戦略を作るんですよ。それが終わるとあとはそれをもう、着実に実行していくっていうことをやるんですよね。ですから、最初の市場環境を見るって、これはマクロ環境。で、競争環境を見るっていうのは僕はミクロ環境って呼んでいるんですけど、マクロとミクロを重ねて、それをベースに国を決めて、それをベースに流通構造を見て戦略を作ると。ここまでにやっぱり半年ぐらいかけますよね。そのあと、実際に作られた戦略に応じて販路を作っていくっていうことをやるんですけど、そこにやっぱりしっかり投資をしないといけないってそういうことですよね。
東:具体的に味の素さんとかはどうやって販路構築をしたとか、そのポイントっていうのはどういったところですか。
森辺:例えば味の素さんなんかは、まあいろんな本出ていますけど、有名な話だと、現地の人たちが味の素を小袋に分けて、今日のぶん、明日のぶんで買えるようにしていったっていうこと。それからお釣りの出ない現地通貨の単位で買えるように値段を調整したっていうこともそうだし、アジアの市場の、いわゆる食品系の、FMCGというふうにいうんですけど、業界ではね。そういう市場ではトラディショナルトレード、まあTT、日本語でいうと伝統的小売りっていうんですけど、いわゆるパパママショップですよね。これの比率が極めてまだアジアは高いんですよ。中国ですら今4割ぐらいになっていますけど、例えばインドだと98%、まあ95%ぐらいはやっぱり伝統的小売りの市場だし、その間を東南アジアの会社がいると。インドネシアでも確かまだ85%ぐらいはトラディショナルトレード、伝統的小売りの市場、パパママショップの市場と。一方でMTというモダントレードなんですけど、これは近代的小売りなんですけど、近代的小売りっていうのはスーパーだ、デパートだ、コンビニだ、いわゆるわれわれが慣れ親しんでいるような、そういうマーケットなんですけどもね。国が成長していくとどんどんこれは伝統的小売りが近代化していくんですよ。そこに今の時代はネットという流通が、いわゆるeコマースという市場が出てきて、この三つの市場で戦っていて、リアルとバーチャルで分けると、バーチャルがネットと、リアルが伝統と近代と、いう分かれになっていて、まあネットなんていうのはまだ5%、10%の世界で、これから拡大はしていくといってもリアルの小売流通がなくなるなんていうことはまずないんで、あれなんですけど、その味の素さんの場合は伝統的小売りの流通がすごく重要で、インドネシアだから85%ぐらいかな、伝統小売りなんで。そこってパパママショップですから当然クレジットカードも使えなければ現金取引で、そんなのが何万、何十万とあるわけですよね。で、インドネシア、まあWarung(ワルン)とかって呼ばれるようなそういう小売りがいっぱいあって、それを束ねているような現金問屋があるんですけどもね。その現金問屋さんがそのパパママショップを50店とか100店とか、地域のね、束ねてて毎日配送して現金でお代を回収してっていうことをやっている会社があって、その現金問屋をさらに束ねているディストリビューターみたいなのがあって、それが全土に流通の仕組みとしてあるんですけどもね。そういう仕組みをやっぱり可視化して、どのレイヤーの流通とどういうふうな戦略で取引をしていくのかっていうことをやらないと、血管の、毛細血管の奥にまで商品を流通させるなんていうことはできないわけですよね。そのことをやっぱりしっかりやっていったからあるんじゃないかなと、味の素っていうのは。僕がアジアで小さい青春時代を過ごした時代から、味の素ってのはアジアのいろんなところにありましたのでね。僕も味の素で育っているんで、おいしいなって、味の素が入ってたら何でもおいしいと思っちゃう派ですけどね。
東:じゃあだいぶ時間をかけて販路を構築しているのが味の素さんっていう。
森辺:まあ日本企業だったらそうですよね。結局、飲料系の会社でいうと、コカ・コーラって世界中どこ行ったって買えるわけですよ。じゃあコカ・コーラがおいしいから世界中どこでも売っているのかっていったらそうじゃなくて、コカ・コーラは販路を作ったわけですよね。膨大な広告費をなぜ打てるかっていったら販路があるから広告打っても商品流れるって単純にそうじゃないですか。よく家電なんかだと日本のメーカーさん行くと「いや、うちはサムスンみたいに広告宣伝費がないんです」って言うんですけど、そりゃないですよね。販路がないから広告打ったって商品流通しないじゃないですか。ですからやっぱり販路を作るっていうことを本当に真剣に考えていかないと、物作りとか技術の時代は終わったんですよ。もう僕、断言してもいい。それはもちろん一部の業界では引き続きあるんだけど、そこにすがってずっといくっていうことで本当にこれからのマーケット取れるんだろうかと。物作りも技術も大切、ただマーケットってすごく変わっていて、一つ言うと、コモディティ化すればするほど、プレーヤーって20年に1回変わっちゃうわけですよ、コモディティ化しているプレーヤーっていうのは。アメリカが、欧米がいて、日本になって、今韓国で、中国にまた移っていく、みたいなね。そういう世界で、けどドリームプロダクトは永遠なんですよね。だからそこをすごく考えていかないといけないし、なんか話長くなっちゃって恐縮なんですけど、例えば日本の時計、カシオやセイコーってのは、時計のムーブメントの技術ではもう、とうの昔にスイスの時計会社を凌駕しているわけですよ、ムーブメントの精巧姓でいったら。ただ残念なことに、スイスの時計メーカーさんっていうのはムーブメントの性能ももちろんなんですけど、その時計自体をラグジュアリーなアクセサリーに変えて、そっちの方向に進んでったわけですよね。例えばパネライという時計がありますけど、これはスイスの時計なんですけど、これはもともとイタリアの軍で使われてた非常に頑丈な時計なんですけどね。これが今どうなっているかっていうと、ラグジュアリーウォッチになっていて、いったら、時計の機能というよりもむしろ、ジュエリーになっているんですよね。一方でイタリアの軍隊は今何使っているかというとG-SHOCK使っているわけですよ。でもG-SHOCKって1万円ですかね、1万円、1万5,000円とか。このパネライっていうときは一つ50万円以上するっていう。で、それだけやっぱり、大きく彼らも転換していってドリームプロダクトになっている。これがなぜ日本の企業にできないのかっていう、すごくね、もったいないなあという気がね。ドリームプロダクト売れないんだったら流通、販路で勝つ。どっちかだと思うんですよね。
東:日本企業が生き残るすべとしては、ドリームプロダクトを作るのか、販路開拓をするのかっていう究極でも二つになるけども、どっちともしたほうがいいっていうことなんですかね。
森辺:まあそうですね。ドリームプロダクトを作ってもやっぱり販路がしっかり整備されてないとドリームにならないので、販路を作るっていうことは、いずれにしても必要ですよっていうことは一つ。ただ、コモディティ化してしまえばしてしまうほど、やっぱり販路構築っていうことはすごく重要で、日本の商品なんてそもそもいいわけですよ。絶対的にいいので、やっぱり販路に投資をしていくっていうことをやっても、僕はものが抜かされるとかそんな心配よりも、販路を取れないっていうことにやっぱり投資をしていくべきじゃないかなっていうのはすごく感じますね。
東:なるほど。そうすると、日本企業って国内では当然販路を構築していますと。で、欧米でもやってきましたと。じゃあ何がアジアでできないのかっていうのは、森辺さんはどう考えますか。
森辺:一つは出遅れましたよね。アジアっていう市場はマーケットになるっていうことに対する投資が、やっぱり10年遅れた。僕、2002年に向こうで会社を作ったときに、アジアで生産拠点としてずっと見てきたわけじゃないですか、日本はね。当然そこで生産をするっていうことはものがそこで作られて輸出されていくわけですから、いわゆる、加工をするわけですよね。そこで安い労働力使って加工をして、それを日本や欧米のマーケットで売るっていう。そうすると、工場自体がアジアに集中する。そのアジアがどんどんお金を持っていく。そこにマーケットができるっていうのは、これは自然の流れなわけですよ。ただ、当時2000年代の前半とかっていうと、アジア特に中国なんかだと代金の回収のリスクがあるでしょうとか、やっぱりまだまだだよね、みたいなところがすごくあって、そのときにまだまだだよねとか、代金回収にリスクがあるって言わずに、じゃあまだまだなのを小袋に分けて、20枚1セットでおむつを売らずに1枚売ってマーケットを取ってきたのがユニ・チャームだったり味の素だったりするわけじゃないですか。彼らはそれぐらいから、もっともっと前からやっているわけでね。今ユニ・チャームも味の素もYKKもコマツもサントリーも今やって成功しているんじゃないんですよね。もっと前からやっぱりやってきているわけで、そこにやっぱり投資をし続けているんですよね。
東:とすると、今からでも投資をしていって販路を作るべきだと、森辺さんはお考えですかね。
森辺:全然思う、というか、むしろ今からのほうがいいんじゃないのっていうぐらいにしか思っていなくて、ただ出遅れたっていうのは一つあるのでね。出遅れたのであれば先駆者から徹底的に学んでいくっていうことはやっぱりしっかりするべきだし、販路を作るっていうことに投資をする。そこに予算が割けないで、何となくアジアで売れたらいいな、いいパートナーいないかな、だったらもう出ないほうが僕はいいと思うんですよね。これは大企業でも、正直そんな状態なんで。アジアの企業ももう日本企業が来て一緒にやっていきませんかって言ってもね、NATO(ナトー)とかっていったかな、要は口ばっかで行動しないってね。
東:“No Action Only Talk”でしたっけ?
森辺:“No Action Only Talk”ってアジアで言われちゃっていますからね。だからそんなふうには思うんですよね。
東:わかりました。じゃあこれからでも間に合うと。
森辺:全く全然間に合います。
東:じゃあ販路を築くために、重要なポイントを最後に一つだけ教えていただくとすると、どういったことが重要なんですかね。
森辺:そうですね、先ほど言った市場環境と、まあマクロですよね。それから競争環境、ミクロ。これを重ね合わせたうえで、どのマーケットに出るべきかを決めると。これを重ね合わせると、出ようとしている国の流通構造がそのあとしっかり見えてくるんですよ、競争環境やるとね。だって常に先駆者として強いところの流通構造を分解していきますから、販路が見えてくると。そのうえで戦略をしっかり組んで、それをひたすら実行するということをやっぱりやっていかないといけないし、ちゃんとした販路を作るのに2、3年かかりますからそこを確実にやっぱりやっていく。それを自社のリソース見渡したときに無理なんだとすれば、外部を使うっていうか、それを支援しているのが私の会社なので、別にうちもどの企業の販路構築も受けるっていうことではないのでね。やっぱり勝てる見込みのあるところ、もしくはそれだけ社長であったり執行部のメンバーのマインドが高いところでないと、お手伝いをしていてもなかなかうまくいかないんですよね。やっぱりお客さんが自立化する支援を一緒にやっていっているので、お客さんが人任せというか、一緒に販路を作っていくっていうマインドになってない会社を支援してもあんまり、僕としても成功確率が下がっちゃう。成功確率が下がると僕としてもよくないので、そこはちょっと選んだりもさせていただいているんですけどね。そういうことをやっぱりしていかないといけないと思いますね。
東:わかりました。じゃあ今日はもうそろそろお時間なので。今日はありがとうございました。
森辺:はい、ありがとうございます。