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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 58 「1カ国1ティストリビューター制」では不十分

著者:森辺 一樹

理由なき「1カ国に1ディストリビューター制」

過去にこの連載でも解説したように食品/飲料/菓子/日用品等の消費財メーカーのアジア新興国における販売チャネルを見てみると、1カ国1ディストリビューター制を取っていることが少なくありません。1カ国1ディストリビューターなので、独占契約なのかと思いきや、契約形態は非独占の販売代理店基本契約なのです。しかし、この1カ国1ディストリビューター制に関して、理由を聞くと、「かなり古くからの付き合いで、1社しか使わない理由はわからない」や、「今までそれでやってきたので、今さら他社を使うというのも相手に悪いし、他社といってもどこを使ったらいいかわからない」などの答えが返ってきます。    
要は、明確な理由はないということです。それなりに明確な理由がある回答の場合でも、多くは、「複数のディストリビューターを活用すると、自社内競合するので得策ではないのでは」に集約されます。しかし、本当に複数のディストリビューターを活用すると自社内競合してしまうのでしょうか。それを補うためには、1カ国1ディストリビューター制が最善の選択肢なのでしょうか。答えは、ノーです。

先にも解説した通り、食品/飲料/菓子/日用品等の消費財メーカーがアジア新興国で高いシェアを上げようと思ったら、近代小売(MT)のみならず、伝統小売(TT)におけるストア・カバレッジも上げなければなりません。数十万店、数百万店存在する伝統小売のストア・カバレッジを1社のディストリビューターだけでカバーできるわけがありません。仮に、1社のディストリビューターに、100人のセールスがいて、そのうち10名が専任セールスだったとしても、10名で数万、数十万のストア・ カバレッジを取るのに一体何年かかるのか計算すればすぐにわかります。また、仮にそのディストリビューターの下に、複数の2次代理店がいたとしても、セールスすべてを合わせた数が、数十名程度であれば、やはり不十分なのです。ちなみに、欧米の先進的なグローバル消費財メーカーで、1カ国1ディストリビューター制をしいている企業は皆無です。
例えば、米P&Gは、いずれのASEANでも8社程度のディストリ ビューターを活用しています。瑞ネスレ、英蘭ユニリーバなどは、150社 から200社程度のディストリビューターを活用し、マイクロ・ディストリ ビューション(隅々まで配荷する)を展開しています。

それでは、実際のベトナム市場での状況を見てみましょう。次の図は、欧米の先進グローバル消費財メーカーと、日本の消費財メーカーの例です。先にお話しした通り、ベトナムには、近代小売は約3,000店舗しかなく、一方で伝統小売が50万店存在します。そして、ベトナムの国土は縦長で、ハノイからダナンを経由して、ホーチミンまで1,600キロ以上あります。さらに、戦争の名残がまだあり、南部(ホーチミン)出身者が北 部(ハノイ)で活躍するのは、北部出身者が南部で活躍するよりはるかに大変な市場なのです。このような市場で、日系のある消費財メーカーは、ホーチミンに1社の中堅ディストリビューターを活用しているだけです。従って、ハノイでのシェアはほとんどなく、中部のダナンなどは完全に手が回っていません。対して、欧米の先進的なグローバル消費財メーカーは、大中小合わせて150社程度のディストリビューターを活用し、全国に強固なディストリビューション・ネットワークを張り巡らせているのです。当然ながら、結果として、日本の消費財メーカーとは、比較にならないストア・カバレッジを保有しているのです。

日本国内市場では当たり前のようにやってきたこと

では、日本の消費財メーカーはディストリビューション・ネットワークの構築が不得意なのかといえば、決してそうではありません。一部のメーカーで、直販に徹底してこだわっている企業はあるものの、多くの消費財メーカーは日本国内市場において長年、当たり前のようにネットワークを構築し、活用してきているのです。
日本の多くの消費財メーカーは、全国各地で卸問屋(ディストリビューター)を活用し、日本全国隅々まで自分たちの商品を流通させてきました。市場が近代化した今でこそ、卸問屋も統廃合が進み、売上が1兆円を超える数社が大きな影響力を持っていますが、それでも、それら大手は全国に支店を持ち、その支店をメーカーは事実上活用しています。また、それだけの大手卸問屋が出現した今でも、エリアや小売に分けて複数社の卸問屋を活用しているのです。日本で、1社のディストリビューターだけを活用しているメーカーがどこにあるでしょうか? そう考えると、アジア新興国市場における、1カ国1ディストリビューター制がいかに誤った取り組みかが理解できると思います。実際に日系飲料メーカーA社の主要競合のディストリビューターの数を調べてみると、A社の5倍以上の数を活用していました。それだけの数を活用しないと物理的に商品が伝統小売に配荷できないのです。今まで、飲料メーカーA社は何の疑問も抱かずに大手1社のディストリビューターに完全にお任せしていたのですが、結局はその会社が不得意としている都市 では配荷が進んでいなかったのです。それをエリアで分け、複数のディストリビューターを活用した途端に、今まで配荷できていなかったエリアへも配荷が進み、以前の3倍以上の売 上を2年で達成しています。