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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 61 日本とは異なるアジア新興国のディストリビューター

著者:森辺 一樹

「販売店」と「代理店」の違い

本項では、アジア新興国のディストリビューターの特徴についてお話しいたします。
まず最初に、ディストリビューターの定義を明確にしておきます。日本 では、「販売店」と「代理店」を混同している人が非常に多いのですが、実は、「販売店」と「代理店」では業務内容が大きく異なります。
簡単に言うと、メーカーから商品を仕入れ(購入し)、顧客である小売に販売するのが「販売店」です。従って、顧客との契約は販売店が行います。それに対して、メーカーと顧客を仲介してコミッションを得るのが「代理店」です。
「販売店」は、商品を購入して売りますので、資金リスクを取ります。対して代理店は、メーカーから商品は購入せず、メーカーの代理として顧客との間を仲介するので資金リスクは取りません。顧客との契約は、メーカーが行います。従って、販売店契約と代理店契約では、その内容は大きく異なるのです。
販売店は英語で、ディストリビューター(Distributor)、契約形態は、販売店契約(Distribution Agreement)となります。代理店は英語で、エージェント(Agent)、契約形態は、代理店契約(Agency Agreement) となります。このように販売店と代理店では、まったく機能が異なるので注意が必要です。本書の主たる対象である食品/飲料/菓子/日用品等の 業界では、販売店が主流で、契約が販売店契約になりますので、引き続き「ディストリビューター」という言葉を活用していきます。

アジア新興国のディストリビューターの特徴

それではアジア新興国の食品/飲料/菓子/日用品等のディストリビューターの特徴を見ていきましょう。まず、最初に言えるのは、アジア新興国のディストリビューターは、業界を問わず9割は華僑です。
食品/飲料/菓子/日用品の場合、一部の財閥系を除き、大半のディストリビューターは設立から30年程度の社歴です。先代が一代で事業を起こし、現在、二代目に承継済み、もしくは承継中という会社が多いです。完全なるファミリービジネスで、それなりの規模になると親戚一同が会社の重要ポジションに就いています。また、後継ぎが女性である場合も珍しく ありません。
そして、ファミリー企業ですから、非常に強いリーダーシップのもと、スピーディーな経営をしています。従って、日本企業に見られる決断の遅さや、段階を踏んでから的なビジネスの仕方にフラストレーションを持つ企業も少なくありません。
一昔前のディストリビューターであれば、日本のメーカーの言うことはすべて聞き入れ、必死に日本のメーカーの要望に応えていたでしょう。パワーバランスは完全に日本のメーカーにあったと思います。しかし、現在 は彼らもそれなりに力を付け、企業規模も大きくなったのと、これまで多くの決断力のない日本企業を見て接してきているので、是非とも取り扱わせてほしいとはなかなかなりません。
欧米の先進的なグローバル消費財メーカーの商品を取り扱っているようなディストリビューターならなおさら、決断力のない日本企業に付き合っている暇はないというスタンスのディストビューターも少なくありません。
「日本企業はよく来るけど、なんか色々と市場のことやら会社のことを 聞きに来て、でも一向に話が進まないね。日本企業は、NATOだね」と皮肉るディストリビューターさえいます。NATOとは、アジア新興国の人が日本企業を皮肉って表現する言い回しで、「No Action, Talk Only: 話ばかりで進展がない」の略称です。悲しい現実ですが、日本メーカーのプレゼンスは、いっときに比べかなり低下しています。

では、実際にこれらのディストリビューターを活用したら思うように商品がバンバン売れていくのかというと、これもまた違います。
彼らも口では偉そうなことを言いますが、市場のすべてを正しく理解し、任せておけばうまくいくのかというとそうではありません。ビジョンとミッションをしっかりと共有し、同じ戦略とKPI の下、オペレーションを実施し、常に管理育成しなければサスティナブルな成長は得られません。
欧米の先進的な消費財メーカーはここが非常にしっかりしているので、高いシェアをアジア新興国で持っているのです。今では、アジアのローカル系メーカーも、ディストリビューターの管理育成の重要性を理解し経営資源を投下しているのです。

ディストリビューターの機能

次に、物理的な機能に関して見て行きましょう。アジア新興国では、ディストリビューターの機能=役割が日本とは少し異なります。国によっては大きく異なることもあるので注意が必要です。
そもそもアジア新興国のディストリビューターの起源はデリバリーボーイの集まりでした。欧米の消費財メーカーが進出するとともに、デリバリーボーイの集まりをディストリビューターとして少しずつ育てていったのです。
従って、ディストリビューターの最初の機能は、セールス以上にデリバリー、つまりは配達だったのです。
ディストリビューターにセールスの教育をしていき、現在の事業内容、つまりはデリバリーとセールス機能を持てるようになっていったのです。それ以外の機能についてはまちまちです。
これらディストリビューターの機能を大きく分けると、下図のようにデリバリー、セールス、マーチャンダイジング、プロモーション、そして、インポート(輸入)の5つの機能になります。

プロモーションに関しては、仮に機能や部門を持っていたとしても、店頭プロモーションなどの限られたBTL(Below the Line)に限定されますので、マス広告のATL(Above the Line)だったり、デジタル・マーケティングの領域までとなると、レベルは低いので専門の会社を活用することをお勧めします。
その他、アジア新興国で色々なディストリビューターを回っていると、米P&Gや、英蘭ユニリーバ、瑞ネスレなどの先進的なグローバル消費財メーカーに育てられたというディストリビューターに出会います。そういったディストリビューターは、大概しっかりしています。
特徴としては、米P&Gが活用しているディストリビューターは、比較 的中堅から大手で、セールス機能含めしっかりしています。英蘭ユニリーバと瑞ネスレが活用しているディストリビューターは、小規模で、セール ス以上にデリバリー機能中心のところが大半です。
さて、ここで少しベトナムのお話をしたいと思います。ASEAN の中でも、ベトナムだけはディストリビューターの機能が大きく異なるので注意が必 要です。
先に少しお伝えしましたが、ベトナムでは、一部の大手ディストリビューターを除いてデリバリー機能しかなく、セールスはメーカーの役割なの です。従って、ディストリビューターとは、「モノを運ぶ」ことが主たる 役割の会社であり、機能だけで言えば、日本でいうところのヤマト運輸や 佐川急便になるわけです。
ベトナムは現在でも社会主義国家ですが、その昔、より社会主義色が濃 かった時代、メーカーが商品を作ったら、それを買って商売をしたい人たち(今でいう卸問屋など)は、メーカーに商品を買いに行っていました。そしてその下のレイヤーの人たちも同じく買いに行っていました。
つまり、買いたい人が、商品を持っている人のところに買いに行くというのが常識だったのです。その商習慣が今でも残っているのがベトナムなのです。顧客のところへ売りに行くというセールスの概念は欧米系企業が 持ち込んだのです。