コラム・対談 Columns
本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。
Vol. 83 Q&A 伝統小売への導入がなかなか進まない
著者:森辺 一樹
今回も私がセミナーや、YouTube番組、Podcastなどでよく頂く質問についてお答えしていきたいと思います。
<質問>
消費財メーカーです。近代小売(MT)への導入率は比較的よいのですが、伝統小売(TT)へはなかなか導入が進みません。伝統小売における導入率を上げるにはどうしたらよいでしょうか?
<回答>
ある程度、近代小売への導入が進んでいるのに伝統小売への導入が進まない要因は大きく分けて2つ考えられます。1つは、商品そのものが伝統小売向きでないこと。そして、もう1つはディストリビューション・ネットワークの問題です。まず、商品そのものが伝統小売向きでない件から説明します。これは、商品が超高級化粧品なんですと言われると、そもそも何をどうやっても伝統小売で売るべき商品ではないので、そういった類のことではなく、商品の入り数や容量、パッケージが伝統小売向きか否かの話です。例えば、近代小売で5個入りで売っているものは、1個入りから売る必要がありますし、1袋150グラムで売っているものは、50グラムで売る必要があります。伝統小売で重要なのは、「今、欲しい分だけ」をいかにして消費者に提供できるかです。仮に、1個当たりの単価が高くなっても、グラム当たりの金額が高くなっても、消費者が支払う総額が安いことのほうが優先されるのです。このように商品の伝統小売適合化がしっかり行われていないと、伝統小売への導入は決して進みません。
2つ目は、ディストリビューション・ネットワークです。商品の伝統小売適合化は比較的容易に改善できるのに対して、この問題は、少々時間がかかります。まず、大前提として、伝統小売の攻略には伝統小売を得意としているディストリビューターが必要です。近代小売に商品を導入できるディストリビューターが、伝統小売へも商品を導入できるとは限りません。むしろ、近代小売が得意なディストリビューターは、伝統小売は不得意だったりします。まずやるべきは、活用しているディストリビューターが本当に伝統小売向きなのか否かを精査することです。方法は簡単です。現状、どの製品を何万店、何十万店の伝統小売に配荷しているのかを確認すればよいのです。次に、ディストリビューション・ネットワークのデザインです。基本的に、2次店をどれだけ使おうが、伝統小売へ商品を導入、配荷させる上で、1カ国1ディストリビューターはあり得ません。都市部から地方部に至るまで、数十万店、数百万店存在する伝統小売に対して1社のディストリビューターで十分な国などありません。必ず複数のディストリビューターが必要になります。エリア別にディストリビューターを活用する必要があります。少なくとも、主要都市に1社のレベルで必要になります。
また、忘れてはいけないのは、自社のセールスの存在です。ディストリビューター任せでは、うまく導入されません。自社のセールスを活用し、ディストリビューション・ネットワークを管理育成していくことが必要です。管理育成があってはじ めて、ディストリビューション・ネットワークは活きてきます。この2つが改善されれば、伝統小売への導入は進みます。