HOME » コラム・対談 » 【連載】日本企業とグローバル・マーケティング » Vol. 11 世界10大消費財メーカーがすべて欧米系であるという現実

コラム・対談 COLUMNS

【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 11 世界10大消費財メーカーがすべて欧米系であるという現実

著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長

世界を牛耳る10大消費財メーカー

この図は現在、食品、飲料、菓子、日用品等の消費財分野 (FMCG)で世界を牛耳っている10大消費財メーカーと、それらが保有するブランドです。米P&G、英蘭ユニリーバ、米マース、米ペプシコ、瑞ネスレ、米ジョンソン&ジョンソン、米ケロッグ、米コカ・コーラ、米クラフト、米ジェ ネラルミルズと、日本でもお馴染みのメーカーばかりですが、世界の消費 財のほとんどは欧米の先進グローバル企業といわれるこれらメーカーの商 品なのです。これは決してアメリカやヨーロッパ市場に限った勢力図ではなく、ASEANや中国、インドでも似たような構図が出来上がっています。残念ながら、日本の大手消費財メーカーである花王やライオン。食品大手の明治やロッテ。そして、海外展開といえばメディアでよく耳にするユニ・チャームや味の素、キッコーマン。また、日本を代表するビール、飲 料メーカーであるサントリーやアサヒ、キリン、サッポロといった日本企業は、この勢力図の中に1社も登場していません。日本では知らない人はいない一流の大企業であり、私たち日本人にとっては世界に浸透しているようなイメージがあっても、世界ではまだまだ存在感が薄いというのがグローバル市場の厳しい現実なのです。

「良いモノ」ありきの1P戦略の日本企業

グローバル展開で出遅れている最も大きな要因は、国内市場が大きすぎ、海外市場に目が行かなかったことが大きく影響しています。特に、アジア新興国を市場として捉えた時期が遅かったのです。いざ、市場として捉えてからも、その捉え方には欧米企業とは大きな差がありました。品質に定評のある日本企業は、「自分たちの商品は、良い原材料を使って、高い技術力を駆使して作っているのだから、少々高くても当たり前。日本の高度な消費者に鍛えられて育ったプレミアム商品だから、少々価格 が高くても売れるだろう」と、アジア新興国の中間層市場を軽視して展開をしていきました。日本との所得格差が小さく、比較的、日本文化に親しみのある香港やシンガポール、台湾、韓国に展開する分には、ある程度通用する戦略ですが、インドネシアやベトナム、フィリピンなど、アジア新興国においては、その大半を占める中間層の消費者をいかに取り込むかが大切になります。日本国内で実績をあげた戦略を若干いじった程度の手法で進出しても、アジアでは少数を占める富裕層だけにしか響かないのです。

「4P」が最適化されて初めてモノは売れる

世界中の著名なマーケティングの権威は、一人の例外もなく、「モノを売る上で大事なのは4Pである」と言っています。つまりは、ターゲットに合わせた、Product(プロダクト)、Price(プライス)、Place(プレイス)、Promotion(プロモーション)を最適化することです。しかし、多くの日本企業の場合、あまりにも日本での実績をベースとした、高い品質や高い技術力に固執しすぎて、4Pではなく、Product のみの「1P戦略」になってしまっているのです。この戦略の失敗が販売チャネル戦略やプロモーション戦略に悪い影響を及ぼしているのです。

「品質が全て」ではない

もし「品質が良ければ世界で売れる」という方程式が成り立つのであれば、例えば、家電業界の例でいえばシャープや三洋電機が買収されたり吸収されたようなことは起きていないでしょう。中国のハイアールが世界最大の大物白物家電メーカーになったという事実も起こり得ないし、世界中で躍進する中国メーカーや、サムスンやLGといった韓国企業の存在も否定しなければなりません。
また、これだけ日本の家電メーカーが安価な中国製や韓国製に苦しんでいる最中に、英ダイソンが、10万円の掃除機や5万円の扇風機を売り、挙げ句の果てには5万円のヘアードライヤーまで発売しています。日本の家電メーカーが苦しむ中、設立約30年の英ダイソンは、グローバ ルで6,000億円以上の売上を叩き出し、約1,500億円の利益を残しています(2018年)。日本企業の製品はダイソンよりも品質が悪いのでしょうか。決してそんなことはありません。品質がすべてなら、このことをどう説明できるでしょうか。家電・エレクトロニクスの分野では完全に勝敗がついてしまいました。

今、アジアでは、20年前には存在しなかった、巨大な時価総額や売上が数千億円を超えるようなアジアの消費財メーカーが育ってきています。すでに欧米の先進グローバル企業だけが競合ではないのです。この期に及んでもまだ、日本の消費財メーカーは家電メーカーの失敗を「対岸の火事」としか思っていないのではないでしょうか。これは決して対岸の火事ではなく、このままでは、日本の食品、飲料、菓子、日用品等、その他ほとんどの分野でも同じことが起こり得るのです。少子高齢化、人口減少で、日本国内の市場が低迷の一途をたどる中、海外への販路は日本の消費財メーカーにとっては外すことのできない成長の柱です。日本の消費財メーカーは、まずは、海外展開において大きく後れを取ったことを認め、「モノ」ありきの1P戦略を改めることから始めなくてはならないのです。