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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 12 日本人の考える「良いモノ」は必ずしも世界の「良いモノ」ではない

著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長

「欲しい」=「買う」には結びつかないアジア中間層の実情

前回のコラムで、「品質が良ければ世界で売れる」という方程式は成り立たないというお話をしました。ではなぜ、「良いモノを作って売る」という考え方ではダメなのでしょうか。日本の消費財メーカーは総じて、世界最高品質の商品を製造し、それを過去何十年、企業によっては100年以上、日本の国内市場で販売し、素晴らしい成果を出してきました。しかし残念ながら、この国内市場で磨いた高い技術力や、品質に対する考え方、さらには「ジャパン・ブランド」を引っ提げてアジア新興国に展開していくのは、失敗のもとなのです。「日本製だからアジアの人は欲しがるはず」という考えはもはや大きな間違いです。もちろん、「欲しい」と思う人は数多くいるでしょう。しかし、決して生活に余裕があるわけではないアジア新興国の中間層の消費者にとっては、「欲しい」が、そのまま「買おう」には繋がりません。いくら品質が良くても、価格が高ければ買うのをやめますし、日本製ではないアジア企業の安い商品を買うという選択肢を選ぶのです。

「ものづくり」以上に「チャネルづくり」が重要な時代へ

一般論として、アジア新興国の中間層に「高いものは売れない」というのは事実です。しかし、何も「高いものを作ってもしょうがない」と言っているわけではありません。先進国とはまったく所得の違う新興国市場では、高いものを売りたいなら、それが売れるチャネル(流通経路)を作り、それが賄える人にターゲットを絞ることが大切なのです。「賄える」と「買える」は少々意味が違います。賄える=繰り返し買えるということです。ただし、「新興国で高いものが買える人=富裕層」は、中間層に比べて非常に小さなボリュームになるという点を考慮する必要があることは言うまでもありません。アジア最大の魅力は、現在の15億人から2030年には30億人にまで拡大すると言われている中間層です。そこを狙わなければ、そもそもアジア新興国でビジネスをする意味がありません。そして、この最大のボリュームゾーンである中間層に商品をしっかり届けるには、富裕層を狙う時とは異なる、幅広い販売チャネルが必要になるのです。

中国やASEAN が急激に経済成長を遂げた今、求められているのは、いかにして中国やASEAN市場で商品を売るかです。「作る力」がものをいう「技術力の時代」から、「売る力」が問われる「マーケティングの時代」へと、大きく変貌を遂げたのです。なぜここまで変わったのかというと、多くの商品がコモディティ化(日用品化)し、アジアの企業でも近い商品を安い価格で作れるようになったからにほかなりません。かつてのように、日本企業しかモノを作れなかった時代ではなく、アジアの企業でも多くのモノを作れるようになった。つまり、競争環境が劇的に変わったのです。そして、日欧米の先進国のみが消費市場としてのターゲットであった時代から、アジア新興国までもがターゲットになったのです。これは、「ものづくり」以上に、「チャネルづくり」が重要な時代へ突入したということです。日本企業以外の選択肢があるということを理解する必要があるのです。