HOME » コラム・対談 » 【連載】日本企業とグローバル・マーケティング » Vol. 14 財閥系や同業種との提携、合弁の落とし穴

コラム・対談 COLUMNS

【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 14 財閥系や同業種との提携、合弁の落とし穴

著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長

日本企業の期待と現地パートナー企業の実情

今回は、前回Vol.13で述べた「現地パートナーありきの海外展開」について、もう少し深く掘り下げてみましょう。日本企業は、販路を求めて地元の財閥系企業などと業務提携を結びますが、先にも説明した通り、その財閥系企業は様々な事業を手掛けているため、日本企業を受け持つのは担当子会社です。この子会社においても、実際にそこの子会社社員が売っているのではなく、外部のディストリビューター(販売店)を使っているケースが大半です。財閥系企業に任せることは目に見えない安心感がありますが、必ずしも皆さんの会社の商品に高いプライオリティ(優先順位)を置いてくれるかどうかはわかりません。財閥系が動かなければ現地ディストリビューターも動かないので、せっかく大手と組んだのにマーケットシェアが伸びないという結果になりかね ないわけです。パートナーである財閥系企業を年に1回や2回訪問しても、そもそも丸投げで現地事情を理解していないので、目標を達成できなかった時は言い訳を聞くだけで、それが事実なのか否かの判断もできないのが実際です。言われることにただうなずくしか術がなく、問題に対して何の対策も打てないどころか、議論にもなりません。このような定期訪問は、出張費の無駄以外の何ものでもありません。

また、日本企業が同業種企業と合弁会社を設立する場合にも、求めるものは生産設備はもちろんですが、売るノウハウです。現地の同業者はすでに販路を持っているので、その販路を自分たちも使えることに期待します。しかし、パートナーである同業種企業も製造をやっている会社と、それを売っている販社を抱えていて、販社では当然、利益率が高く、中間層以下の人に求められる安価な自社商品の販売に力を入れます。またその販社が使っているのもディストリビューターです。同業種企業にとって日本企業と合弁することは、自分たちの敷居や、ブランド力の向上。さらには、日本企業から学べる技術など、基本的には彼らにとって有利なことしかありません。最悪、日本企業との合弁会社で生産したものが売れなくても、合弁会社がうまくいかなくても、会社は日本に持って帰れませんから安値で買い叩くだけです。彼らにとってのリスクは、日本企業にとってのリスクより格段に小さいのです。

日本企業が組むべきはディストリビューター

財閥系企業にしても同業種企業にしても、結局、実際に現場で売ってくれるのはディストリビューターなのです。海外では代理店と販売店の認識が日本国内とは異なり、仲介をしてコミッションを得るのがエージェント(代理店)、製品を買って顧客に再販売するのがディストリビューター(販売店)。消費財メーカーが活用するのは、ディストリビューターになります。そのディストリビューターとの間に財閥系企業や同業種企業が入ることは、日本企業にとってあまりメリットは存在しません。こうした流通の構造をしっかりと調べて知っていたら、販路欲しさの財閥系や同業種との合弁などという選択はしないはずです。仮に合弁したとしても、販売構造をしっかり理解していれば、失敗事例はもっと少なくな っているはずです。

参考までに、アジア新興国で成功している先進グローバル消費財メーカーで、財閥系や同業種と組んで販路を築いている例はほとんどありません。彼らは自分たちでディストリビューターを選び、ディストリビューション・ネットワークを築き、販売チャネルを管理しています。自社商品が売れ続けるためには、たとえ時間がかかったとしても、自社に適したディストリビューターをパートナーとして発掘選定し、契約交渉し、管理育成する。そして、模倣困難性の高い独自の販売チャネルを着実に構築することが最善策なのです。