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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 19 「R」で勝てるかどうかを見極める

著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長

マクロとミクロの環境分析で市場と敵を知る

前回、Vol. 18ではマーケティングの基本プロセスの全体像をお話ししましたが、ここでR−STP−MMのうちの「R」(Research)について詳しく見ていきましょう。

「R」とは、マクロ環境分析、ミクロ環境分析、SWOT分析の3つを指します。 マクロ環境分析と言われても、今ひとつピンとこない読者も多いでしょう。簡単に言うと、マクロ環境分析とは、「攻めようとしている市場が一体どんな市場なのか」「その市場は儲かるのか、それとも儲からないのか」「儲かるなら具体的にいくら儲かるのか。儲からないなら具体的にどのくらいしか儲からないのか」を見極める分析ツールです。儲かるか儲からないかわからないまま、その市場に進出する人はいないと思いますが、それをさらに具体的にどのぐらい儲かるのか、なぜ儲かるのかということを商習慣的、文化的、法律的、ファンダメンタルズ的な観点を含めて突き詰めていくのがマクロ環境分析です。そして、それが儲かる市場だとすれば、そこには強い敵がいる可能性が高くなります。それを調べるのがミクロ環境分析です。「その市場には、 どんな敵がいるのか」「その敵の戦闘能力は具体的にどの程度なのか」を分析します。こう考えれば、マクロ環境分析もミクロ環境分析も、ずっと身近に感じられるのではないでしょうか。

実は、日本企業は、マクロの環境分析は比較的できています。情報に粒度(細かさ)の差はあれ、最近ではデスクリサーチレベルでも十分有益な情報は収集できますし、日本人ならではの細かな分析で、質の高いマクロ環境分析を行っています。問題は、ミクロの環境分析です。アジアの地場系消費財メーカーが高いマーケットシェアを獲得しているとしても、「彼らの品質なんか、私たちには及ばないから競合ではない」と安易に考えてしまいます。しかし実際には、その国の消費者はそれほど高い品質を求めておらず、価格が安いことが品質以上に重要だったということは往々にしてあります。

また、一応、競合とは認識していても、「自分たちは高品質のプレミアム路線だから、直接的な競合はしない」と考えていたら、実際は真っ向から競合するケースも少なくありません。だからこそ、ミクロ環境分析をしっかりやらなければならないのです。ただし、ミクロ環境分析は、マクロ環境分析のように、自社でデスクリサーチを駆使してできるような類の分析ではありません。正確には、分析自体は自社でも可能です。しかし、分析をするための競合の情報は、そう簡単には手に入りません。自社の営業マンが持っている競合情報のレベルでは、戦略を立てられる情報とは言えません。ミクロ環境分析をするための競合情報の取得は、専門のコンサル会社に依頼をするしかないのが事実です。国内外のシンクタンクや、外資のコンサルティング・ファーム、消費者調査ではなく、産業調査を専門としたリサーチ会社でも構いません。ただし、依頼する相手の当該分野や、当該市場における経験値を事前にしっかりとはかりましょう。この手のものは、依頼する会社によってクオリティはピンキリです。情報はその粒度(細かさ)と鮮度が命です。特に競合情報に関しては、専門家に依頼することをお勧めします。

SWOT分析で戦略を立てる

そして、3つめのSWOT分析は、マクロ環境分析とミクロ環境分析の結果を受け、「強み」「弱み」「機会」「脅威」を基準にして、事業戦略を立案するためのツールです。その市場に参入した時に、「何が起こりそうなのか」「勝てそうなのか、 負けそうなのか」「苦戦を強いられそうなのか、どうなのか」を導き出すことで、自社の強みを生かす機会を捉え、弱みを改善し、脅威に備えることができるのです。これ以上先に行かないという判断もできるし、進出した場合にどのくらいの儲けが見込めるのかを予想することもできます。このように、「R」に予算を割くことで、リスクを最小限に抑えることができるのです。

〜Memo〜

<欧米と日本の調査分析に対する考え方の違い>
先進的なグローバル企業と大手日系企業とでは、調査分析に対する大きな違いがあります。日系企業は、これらの重要な経営判断をするための調査分析にかか る予算を「費用 = コスト」と考えます。費用なので、できる限り安く済ませたい。できれば使いたくないと考えているので、当然、情報の量は少なく、鮮度は悪く、粒度(細かさ)も荒く、それをベースに分析した戦略は甘くなり、経営判断が鈍くなります。最後は、とりあえずやってみろ、走りながら考えろ、気合いと根性でなんとかできる、我々には良い商品があるのだから、となってしまいます。一方で、欧米系企業は、これらの予算は、高い確度の仮説を立てるための必要不可欠な費用であり、「費用 = コスト」ではなく、「費用 = 投資」であると捉えます。従って、情報の量は多く、鮮度も良く、粒度も細かくなります。こうなると何が変わるかというと、仮説が変わります。仮説の精度が高くなるのです。仮説は実行し、検証されて、さらに磨きがかかります。この仮説検証のプロセスの精度が高ければ高いほど、仮説検証を繰り返すごとに多くの学びが生まれ、戦略の質が高まります。しかし、仮説がなかったり、甘かったりすると、無駄な検証が繰り返され、非効率で、戦略の質も高まりません。日本企業も、この戦略を作るためのRを投資と捉えなければ、かっての違うグローバル市場ではなかなか効率よく戦うことができないのです。