HOME » コラム・対談 » 【連載】日本企業とグローバル・マーケティング » Vol. 21 本当にグローバルで戦うべきかを考える

コラム・対談 COLUMNS

【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 21 本当にグローバルで戦うべきかを考える

著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長

海外展開は事業を拡大する手段の1つでしかない

前項で、「R」(Research)をしっかり行うことで、負け戦とわかっている戦場に行くことが防げるというお話をしました。海外展開は企業の成長には欠かせないという思い込みや、他社が出ているから自分たちも…といった安易な海外進出が見受けられますが、そもそも海外進出や海外展開は事業を拡大する手段であって、目的ではありません。「本当に今、グローバル市場に出ていくべきなのか否か」を企業はしっかりと考える必要があるのです。

負けるとわかっていて戦に臨む企業はありません。多くの企業は勝てると思って出て行って負けるのです。自社の商品は品質が良いから大丈夫だろうと、技術力と日本での実績だけを武器に出て行くのです。ボクシングにたとえると、自分がライト級にもかかわらず、そのことに 気づかずヘビー級のボクシングの試合に出るようなものです。実際のボクシングでは体重制限があるので、ライト級の選手がヘビー級の選手と戦うことはありませんが、ビジネスの世界では制限はありません。ライト級の会社がヘビー級の市場へ上がれば、一撃で倒されてしまいます。このように、競合他社のほうが圧倒的にグローバルで戦う力があるとい うことすら知らずに出て行き、負けてしまう日本企業が非常に多いのです。そういう状態では海外に出るべきではありません。「今は出ない、やらない」というのも、立派な経営判断です。戦える準備を十分に整えてから、ベストなタイミングで進出すればいいのです。

勝てる戦略を構築してから進出すべき

ベストなタイミングを知るとは、つまり、自社の現状の力が海外展開した時に現地の競合他社に比べて勝っているのか、劣っているのかを知る手段が、「R」の中の「SWOT分析」です。自分たちには何が足りていて、何が足りていないのかをしっかり整理することにより、今、出て行くべきか否かが判断でき、まだ出るべきではないなら、どこを強化すればよいかがわかるのです。誤解なきように付け加えると、「負けるぐらいなら出るな」と申し上げていますが、では、出ないでただボーッと待っていたほうがいいのかというと、そうではありません。 アジア新興国市場は先駆者メリットの多い国であり、早く出れば出るだけ有利です。しかし、勝つための戦略を持たずに出ても意味がないということです。勝つための戦略が整うまでは出ずに、一刻も早く出陣できるように早期に戦略を固めることが重要なのです。これだけグローバル化が急速に進んでいる以上、出て戦わなくとも、必ず攻め入られます。アジア新興国で力をつけた強豪がかならず近い将来、日本国内市場に攻め入ってくるのです。攻撃こそ最大の防御であり、アジア新興国市場で勝てれば、インドやアフリカでも十分にチャンスはあり、日本の国内市場も守り抜けるグローバル企業に成長することでしょう。

グローバルで戦うための準備 = 経営資源を整えること

戦うための準備とは、経営資源を整えることです。競合他社と比較して、自社にはまだ経営資源が足りないという判断があるならば、足りない部分を強化しなければ海外に出てはいけません。一般的に経営学用語で使われる経営資源とは、「ヒト」「モノ」「カネ」「情 報」の4つを指しますが、グローバルで戦うためにはこれらに加えて、海外での戦い方の知識である「ナレッジ」や経験を通じて蓄積される「ノウ ハウ」が必要になります。こうしたナレッジやノウハウが自社の社員であるヒトに備わっていればよいですが、高いレベルで備えた人材はそう簡単には見つかりません。また、仮にお金でグローバル人材を引っ張ってきても、社内にそのグローバ ル人材を管理育成できる人材がいなければ、引っ張って来たグローバル人材は定着しません。その意味でも、専門家やコンサルタントの活用は有効です。まず第一に、戦う体制を短期間で整えるための武器になります。彼らのナレッジやノウハウにお金を払うことは、時間とスピードを買うことになるわけで、それによる社内のナレッジとノウハウの向上は大きなメリットと言えます。

また、彼らに丸投げで頼るのではなくて、彼らからナレッジやノウハウを学び取っていくことが大切です。こうした観点で海外展開の準備を整えてこそ、ナレッジやノウハウが自社の財産として蓄積されていくのです。コンサルタント選びは大変重要ですが、その選んだ専門家をどう活用するか、利用するかも同じように重要なのです。

コンサルタントを使って得られる効果は2つあります。1つは、これまでできなかった、もしくは長期間かかっていたことを、早期に実施することができるようになることです。例えば、社内の経営資源だけでは難しかった革新的な戦略の策定であったり、抱えている難題への解決策です。もう1つは、コンサルタントの持つナレッジやノウハウが資産として社内に蓄積されることです。ノウハウが社内に蓄積されればされるほど、事業をより大きな次元で成功させられる可能性が上がっていきます。日本には、コンサルタントに頼むことを好まない会社もありますが、経営資源を高め、グローバル競争のスピードに勝つには、自社だけでは到底世界の競合にはかないません。特に、欧米を中心とした先進的なグローバル企業は、コンサルタントを積極的に使っていますし、使い慣れています。 日本企業もグローバルで戦う以上、自社の限られた経営資源だけでなく、積極的に外部の資源を使う必要があるのです。