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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 24 新興国におけるマーケティング・ミックスの順序

著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長

アジアではプレイスの選定が最優先

前項で、マーケティング・ミックスの4つが最適化されなければならないと述べましたが、最適化するまでには、取り組むべき順序があります。通常はプロダクト→プライス→プレイス→プロモーションの順ですが、アジア新興国では何を置いてもプレイス、つまりは販売チャネルが最優先です。その後に、プライス→プロダクト→プロモーションと続きます。このことは、日本におけるグローバル・マーケティング研究の第一人者である明治大学経営学部の大石芳裕教授も言っています。この最優先にすべき販売チャネルこそ、日本企業にとって最もネックになっているところなのです。日本のメーカーの商品が優れていることはもうわかっていて、問題なのは、その品質や機能が本当に現地の消費者に望まれているかどうかということ。結局、2番目のプライスを下げようと努力しても、プロダクトの品質にこだわりすぎるあまり高額になってしまいます。そんな状態でアジアに出 て、3番目のプレイス(販売チャネル)を広げようとしても、そんなに高 額な商品は日系スーパー、もしくは限られた人しか行かない高級スーパー の輸入品棚にしか並びません。アジアに出てまでイオンや伊勢丹、日本食材専門スーパーにしか商品が並ばないのなら、30億人の中間層が最大の魅力であるアジア新興国に出る意味はありません。であれば、日本で地方都市を集中的に狙ったほうが苦 労も少なくROI(return of investment =投資対効果)も高いのです。

日本企業が最も劣っているのは販売チャネル

販売チャネルがいかに大事かをもう少し詳しくお話ししましょう。アジア新興国の小売店は、スーパー、コンビニ、ドラッグストアなどの近代的な小売業態、いわゆる近代小売(MT)と、小さなパパママショップなどの伝統的な小売業態、いわゆる伝統小売(TT)に分けることができます。
この2つの業態は概ねPOS レジが置いてあるかないかで判断します。私は伝統小売(TT)の中でも大きな店舗については伝統小売1(TT1)と呼んで分けています。POSレジは入っていなくても間口や奥行きが通 常の伝統小売の数倍あるような「地域一番店」と呼ばれるような店です。
この TT1が大量に商品を仕入れて、一般的な伝統小売へ商品を卸すような問屋業務も行っているケースがあります。アジア新興国においてはまだまだ伝統小売が主流なので、マーケットシェアを獲得するには近代小売はもちろん、TT1や一般的な伝統小売にまでつながるメインストリームに自社商品を流せるか否かがキーとなります。チャネルがあれば店頭までは届くわけで、商品、価格、プロモーションについては、チャネルから、つまり小売店、ディストリビューター(販売店)、消費者それぞれからヒントが返ってきます。先進グローバル消費財メーカーの最大の強みはチャネルです。日本メーカーの商品は決して彼らに負けてはいません。商品ではむしろ優っていま す。商品で勝って、チャネルで負けているのです。 日本企業のこれからの課題は、いかにして強固な模倣困難性の高い販売チャネルを築いていくかに尽きます。本書でも後半に、強い販売チャネルを作るための具体的方法論に触れていきます。