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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 38 マーケットインとプロダクトアウトの絶妙なバランス

著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長

マーケットインだけでもプロダクトアウトだけでも不十分

一般的に「マーケットイン」とは、市場や消費者など買い手側の視点で商品開発や生産を行い、彼らが必要とするものを作って販売することです。そして、「プロダクトアウト」とは、企業側が自分たちでいいと思う商品を開発、生産、販売することを指します。日本の消費財メーカーはかねてからアジア新興国市場において、高い技術力を駆使した高品質の商品開発を進めるあまり、プロダクトアウトに陥りがちで、「もっと消費者が求める商品を提供しなければ」と、マーケットインへの方針転換を目指す傾向にありました。こぞって消費者調査を行い、消費者の意見に合った商品を開発するものの全然売れない、ということを繰り返してきたのです。これはなぜかというと、調査ではあれが欲しい、これが欲しいと言っても、現実には消費者自身も自分が何を求めているかを明確には意識したことはなく、いくら調査しても正しい答えは見えてこないからです。消費者はこれまでにない商品を手にした時に初めて、それが欲しいか、欲しくないかの判断ができるのです。つまり、消費者の潜在的な意識の中にあるニーズを引き出し、「欲しいと思わせる商品を開発する」ことが重 要なわけです。まさに、「消費者インサイト」という言葉が重要視されてきた背景です。これはアジア新興国でも同じで、日本で日本人に、もしくは一部の訪日外国人に対して実績のある商品をプロダクトアウトで売るだけでも、逆に現地における消費者調査の結果を重要視した商品をマーケットインで売るだけでも不十分で、その両方をバランスよく織り交ぜながら、誰よりも早く、誰よりも先に、その商品を消費者に求めさせることが重要なのです。

チャネルの力で「市場に押し込む」

今、必要なのは、「消費者 = 中間層が何を求めているか」を追求することはもちろんですが、「その商品をチャネルの力で市場にどう押し込む」かです。

今まで市場になかったものを具現化し、徹底したチャネル力でその商品を市場に求めさせる。言わば、プロダクトアウトとマーケットインをバランスよく取り込んだ上で、チャネルの力で商品を市場に押し込み、そのカテゴリーにおいてデファクト・スタンダード(事実上の標準)になることです。先進グローバル消費財メーカーは、すでにこれを実現しています。味覚には国民性や地域性があるものですが、コカ・コーラやキットカット、スニッカーズやオレオといった商品は、どの国でも同じ味のもの(実際には若干異なる)が店頭に並び、どの国でも人気商品の座を維持しています。これはマーケットインだけではなく、かといって単なるプロダクトアウトだけでもありません。こうした商品を開発しているメーカーがやっているのは、マーケットインとプロダクトアウトをうまく織り交ぜながら、その商品をチャネルの力で市場に押し込んでいるのです。このためにとにかく必要なのは、スピードとチャネルのカバレッジです。先駆者となり、近代小売(MT)、伝統小売(TT)を問わず小売流通の隅々にまで配荷できる強いディストリビューション・ネットワークを展開してこそ、「市場に押し込む」ことを実現できるのです。