コラム・対談 Columns
本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。
Vol. 47 4P分析は競合との比較が重要
著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長
多くは最初のProductとPriceの2つのPでつまずいている
先にも解説した通り、4P分析は3C分析のようなファクト(事実)の可視化と異なり、いかに競合他社の4Pと自社の4Pを比較しながら最適な4Pに仕上げていくかが重要です。海外で展開する日本企業は、この4Pが市場に対して最適化されておらず、事業が伸び悩んでいる例が少なくありません。自社の4Pがどのように最適化されていないのか、どこがどう間違っているのかわからず、そも そも間違っている事実にすら気がついていないことも少なくありません。4Pが最適化されていないのに、モノが売れるなどということはマーケティング理論からすると起こりえないのです。この競合との比較が重要である4Pについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
日本の消費財メーカーが陥りやすい誤った4Pの特徴は、
- Product -「日本で実績のある商品を、できれば変えずに(仕様変更等をせずに)」
- Price -「アジア新興国なので少しは安くするけど、できれば日本と同じぐらいの値段で」
- Place -「伝統小売(TT)の重要性は理解するけど、できれば日本で慣れ親しんだ近代小売(MT)を中心に」
- Promotion -「できれば、売れるまではプロモーション投資はせずに」
というものです。
まず、Product に関しては、そもそもアジア新興国の市場が、つまりは 中間層の人々が何を求めているか以上に、自分たちが何を売りたいのかが 優先されています。日本とは大きく市場特性が異なるアジア新興国でビジネスをするのに、 先進国である日本で実績のあるものを売るところから始まります。そして、アジア新興国向けに仕様変更をするなどは、できればやりたくないというのが日本企業の本音です。
このことは Price にも関係してきます。先にも述べたように、アジア新興国では、ターゲットである中間層の昼食が屋台などなら数百円程度で食べられる中、100円、200円のチョコレートは買いません。そんな中、「日本のチョコレートは、良い原材料を使って、高い技術力で作っているから、品質も良くて体にも良い」と言ったところで誰も買いません。日本企業がやるべきは、どう原材料を変更すればコストを抑えられるのか。梱包仕様、入り数、グラム数をどう変更してコストを抑えられるのか。このことを ProductとPrice 合わせて同時に考えなければならないのです。しかし、消費財メーカーにとって原材料を変えるなどと言えば、すぐさま生産側から聞かれるのは、「原材料を変えて何かあったら誰が責任をとるんだ!」「当社としては、そんな安い原材料は使えない!」という、狙うべきターゲット層を置き去りにした議論です。多くの日本の消費財メーカーは、そもそも論として、この最初のProductとPriceの2つのPでつまずいているので、残る2つのP以前の話になっているのです。
置き去りにされている中間層
次に、Plaecに関してです。これまでの話と共通しますが、ここでもやはり中間層が置き去りになっています。中間層が重要だと言いながら、結局は慣れ親しんだ近代小売が中心の販売チャネルになっているのです。また、活用しているディストリビューターが近代小売向けの企業であり、伝統小売向けではないケースも多々あります。そして、アジア新興国ではそもそも店舗数が少なく、各種導入費のかかる近代小売だけではなかなか利益が上がらないという悪循環に陥ってしまいます。SMT(シンガポール・マレーシア・タイ)ならまだしも、V I P(ベトナム・インドネシア・フィリピン)では、確実に利益は出ません。このチャネルの弱さに関しては、第5章で改めて詳しく解説します。
そして最後が Promotion です。「並べること」と「選ばれること」は大きく異なります。「並べること」というのは、ストア・カバレッジ(店舗数)を伸ばす行為であり、チャネルへの投資がそれを可能にします。しかし、「選ばれること」とは、商品が売れてインストア・マーケットシェアを上げる行為であり、チャネルではなくプロモーションへの投資がそれを可能にするのです。多くの日本企業はお店に置けば売れると思い込んでいるのです。置いたら売れるなどということは、日本国内の市場でしか起こり得ません。アジア新興国の人たちにとって1ドルの価値は、我々日本人より大きいのです。だから、彼らは近代小売で実績のないものは買わないのです。だから彼らは、初めてのものを買う際に口コミを重要視します。買ったことのある人の意見を聞き、これを買っても本当に失敗しないかを念には念を入れて確かめる。そうやって大切な1ドルを使うのです。このような市場で、「売れたら宣伝します」では、いつまで経っても売れません。
このように日本企業のアジア新興国市場における4Pはことごとく間違っているのです。従って、最も重要な中間層には商品は売れず、必然的にターゲットはパイの少ない富裕層に限られてしまいます。