コラム・対談 COLUMNS

【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 48 参入のための正しい4P分析

著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長

中間層のことだけを第一に考える

では、アジア新興国市場において正しい4P分析とはどのようなものなのでしょうか。アジア新興国市場で正しい4Pとは、

Product -「中間層が求める商品を」
Price -「中間層が賄える価格で」
Place -「中間層が買いやすい売場に並べ」
Promotion -「中間層が選びたくなるような仕掛けをする」

ことです。それでは、この4Pに関して、1つひとつ見ていきましょう。 まず、Productに関してですが、重要なのは「中間層が求める商品」を提供することです。先にも記した通り、日本で実績のある商品をアジアに持ち込み、変更も加えずに並べても、それは中間層が求める商品ではありません。最終的には、日本で実績のある商品を持ち込むとしても、一旦ゼロベー スで中間層が何を求めているのかを追求することは非常に重要です。そうすれば、日本で実績のある商品を、アジア新興国の中間層が求めている形に変更する具体策が導き出せるからです。
次にPriceですが、大切なのは、「中間層が賄える価格で」売ることです。ここでキーとなるのは、「賄える」ということです。「買える価格」ではありません。買うという行為は、食品や日用品の場合、極論、1回や2回なら誰でも買えるのです。食品/飲料/菓子/日用品等の消費財メーカーにとって重要なのは、中間層が彼らの生活の中に自社の商品を取り込んでくれることです。そして、繰り返し購入し、できる限り長い期間買い続けてくれることです。これこそが「賄える」ということなのです。先にも解説した通り、これら消費財メーカーの商売の肝は、いかに多くの人に、いかに早い頻度で繰り返し、継続的に買い続けてもらえるかです。従って、「買える価格」では意味がなく、「賄える価格」でなければならないのです。

買いやすい場所で、あえて選びたくなる仕掛けで

 そして Place の「中間層が買いやすい売場に並べる」とは、結論から申し上げれば、近代小売(MT)、伝統小売(TT)含め、とにかく多くのストア・カバレッジを取る=多くの店舗に並べることが重要なのです。一部の日系近代小売や、ローカル系の近代小売にしか並んでいなければ、そもそも数千レベル(ASEAN6で最も近代小売が少ないベトナムで約3,000店舗。最も多いインドネシアでも35,000店舗)では、中間層にとっては買いやすい売場に並べているとは言えないのです。数十万、数百万店舗存在する伝統小売(ベトナムで50万店舗、インドネ シアでは、300万店舗)にどれだけ並べられるかが重要なのです。
最後の Promotion は、「中間層が選びたくなるような仕掛けをする」ことです。チャネルの力で店先に並べなければ、商品は物理的に消費者には届きません。しかし、商品を店先に並べても、先に解説した通り、アジア新興国の消費者にとってなんだかよくわからないモノ(商品)を、手に取 って買うことはありえません。店先に並ぶということは何を意味しているかというと、競合の商品と隣同士に並ぶということを意味しています。現地で高く認知されている欧米やローカルのチョコレートの隣に、日本では誰もが知っているが、現地では無名の日本のチョコレートが並んだら、消費者がどちらを手に取るかは明らかです。無名にもかかわらず、値段が 高いとなれば、なおさら誰も選びません。インストア・マーケットシェアを上げるには、中間層が選びたくなるような仕掛けをすることが本当に大切なのです。もちろん、ここでいう仕掛け=プロモーションは、ATL(Above the Line)ではなく、BTL(Below the Line)を指しています。導入期のチャネルがまだまだ構築途中の段階でATL を行なっても、それは砂漠に水を撒くようなものです。ストア・カバレッッジが数万店舗後半に到達するまでは、地道なBTLが得策でしょう。