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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 53 主要競合の組織体制の可視化

著者:森辺 一樹

主要競合のマネジメント体制と自社との違いを知る

主要競合のチャネル戦略上のポイントの3つ目は、「主要競合の組織体制とマネジメント体制の可視化」です。まず、高いシェアを上げている企業は、高いシェアを上げられる組織体制になっています。逆にシェアが上がらない企業の組織体制は、シェアが上がらない組織体制になっています。そして、さらに興味深いのは、同じ組織体制であっても、その組織体制がどのような人材で構成されていて、どのような人材がリーダーとして、どのようにその組織をマネジメントし ているかによって、発揮されるパフォーマンスが大きく異なるということです。ここでは、主要競合の組織体制とマネジメント体制の可視化が、具体的にどう自社の戦略に活かせるのかを見て行きましょう。

●日本企業…日本人統括部長を配置している
まず、組織体制です。次の図は、欧米系A社、B社、そして日本 企業の組織体制の比較です。日本企業の場合は日本人の統括部長がいて、その下に日本語のできる現地人エリア・マネージャーがいます。ここが欧米企業と大きく違う点です。日本企業の多くは、現地語の話せない日本人統括部長を駐在させるので、その日本人統括部長とコミュニケーションを取るためには、エリア・マネージャーは、日本語ができる現地人でなければなりません。過去にもこの連載で少し触れたように、この時点で優秀な人材の選択肢が限られてきます。どこの国にも優秀な人材はたくさんいます。しかし、日本企業の場合、その優秀な人材の中で、日本語ができるという条件が付きます。もしくは、日本語ができる人材の中から、より優秀な人材を探すことになるので、必然的に選択肢が少なくなるのです。事実、先進的な欧米企業のローカル人材と日系企業のローカル人材では、その質に大きな差が存在します。

●競合と日本企業の組織体制の違い

一方で、日本企業の中には、コミュニケーションは通訳を使い、エリア・マネージャーはあくまで能力を重視するという採用をしている企業もあります。しかし、この場合においても、日本人より自己主張の強い現地通訳が気づかぬうちにローカルを牛耳り、ある意味、エリア・マネージャーよりも権力を持っていたりすることも少なくないのです。

●日本企業…ディストリビューターの選定がうまくない
次は、エリア・マネージャーの下のセールス部門です。エリア・マネージャーの下には、10名ほどの自社セールスがいます。さすがに、このセールスで日本語を必須とする企業はありません。セールスの数が十分か否かを除けば、組織体制的には特段大きな問題はありません。問題はこの次のディストリビューターです。アジア新興国で日本企業が活用するディストリビューターでは、ひどい場合、日系のディストリビューターだったり、日系の近代小売(MT)にしか配荷力を持っていないマイナーなディストリビューターを使っているケースがあります。さすがにそこまでひどくないケースでも、伝統小売(TT)を狙っているにもかかわらず近代小売に強いディストリビューターを使っていたりと、ディストリビューターの選定に問題のある企業も少なくありません。そして、次がディストリビューターの数の問題です。先のケースでも、図が示す通り、日本企業は1社のディストリビューターのみを活用しています。結果、この企業のストア・カバレッジは約500店舗となり、自社セールス1人当たりにすると50店舗しかありません。販売店が500店舗では、1店舗でどれだけ売っても、現地法人の固定費を賄うことはできないでしょう。そもそも、この日本企業の組織体制は、高いシェアを獲得するどころか、現地法人を黒字化させる体制にすらなっていないのです。それでは次に、欧米系のA社とB社を見てみましょう。

現地人材の活用法と規模が違う

欧米系競合のA社、B社は、まず統括部長が現地の人材であるケースが大半です。先にも説明した通り、欧米の先進的なグローバル消費財メーカーで、自国の人間を現地の統括部長として駐在させるケースは皆無です。次に、エリア・マネージャーの数は10名と、日本企業の10倍です。さらに自社セールスは、それぞれ800名と500名と、日系企業の80倍と50倍です。そして、活用するディストリビューターの数も、エリアごとに配置し、日本企業の比ではありません。これにより圧倒的なストア・カバレッジを獲得し、マーケットシェアを上げているのです。欧米系競合A社とB社のストア・カバレッジ、つまりは獲得間口数(店舗数)は、20万店と10万店です。ベトナムには約50万店の伝統小売が存在し、そのうち食品を取り扱う伝統小売が30万店ほどあります。A社とB社が食品関連メーカーだった場合に、30万店のうちの10万店や20万店という数字がいかに凄いことかがおわかりいただけると思います。つまり、欧米系の先進グローバル消費財メーカーは、ベトナムの最大の魅力である中間層を獲得するためには、最低でも数十名程度のエリア・マネージャーが必要で、その下には1,000名程度の自社セールスと、数百社のディストリビューターがいなければ、50万店も存在する伝統小売を獲得することはできないことを理解しているのです。 このように戦略に長けた欧米系企業は、当然ながら高いシェアを獲得し、市場での強い存在感を発揮することになり、それを見た優秀な人材がこぞって集まるという好循環を得るのです。