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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 60 ディストリビューターは「絶対評価」と「相対評価」で絞り込む

著者:森辺 一樹

日本企業のディストリビューターの選定方法とは

まず初めに申し上げたいのは、チャネル構築において、ディトリビューター選びは最も重要な仕事であることです。冷たい言い方かもしれませんが、ダメな相手といくらやっても、結果はダメです。
ダメな結果だけならまだしも、その国におけるビジネスで数年はロスをすることになります。日本企業がディストリビューターと契約をして、1 年目の目標が想定通りにならずに次年度で解約できる企業がどれだけある でしょうか。 
「初年度はやはり色々大変だから仕方がないね。もう1年見てみよう」と前向きな話になります。そして次年度も目標を下回りましたが、多くの日本企業は、「確かに目標は下回ったが、彼らも彼らなりに頑張ったよね。もう少し長い目で見ていこう」とさらに契約を継続します。こうして付き合っているうちに、いつしか中途半端に成果も出て、ディストリビューターを切り替えるにはリスクがあるが、現状のままでは満足していない状態 が長く続くことになるのです。
私たちがチャネル構築のお手伝いをさせていただく企業は、大概この手の問題を抱えています。ディストリビューターのパフォーマンスには満足していなくとも、何年も付き合っていると、なかなか簡単には契約解除ができなくなるものなのです。

では、こうしたメーカーは、どのようにディストリビューターを選定していたのかについてお話ししたいと思います。まず、はっきりしているのは、これらのメーカーは、選定の際に調査をほとんど行っていません。
当時、自分の手の届く範囲の中から選んだだけで、他のディストリビューターと比較検討して決めていないのです。例えば、金融機関に紹介されたので決めていたり、展示会で出会ってよさそうだったので決めていたり、自社に問い合わせをもらい何度も通ってくれたので決めていたりと、いわば、すべてを「出会い」の中で決めているのです。
出会いが悪いと言っているのではありません。きっかけは出会いであっ ても、あらゆる候補と比較検討した上でやっぱり出会った企業が一番だったねということならよいのです。しかし多くは、出会った企業=自分の手の届く範囲という非常に狭い選択肢の中から決めているのです。
さすがに今、大手でこのような方法でディストリビューターを決めているところは稀ですが、彼らが現状のディストリビューターを決めた10年前、20年前は、まさにこのような「出会い」で選んでいたのです。
友達や恋人など、人と人とは出会いで構いませんが、ディストリビューターを出会いで決めていたら失敗します。後に説明するように、ディスト リビューターは「スキルセット」と「マインドセット」で決めるべきなのです。それをしてこなかった日本の大手消費財メーカーも、今、アジア新興国におけるディストリビューターの再選定、ディストリビューション・チャネルの再構築を強いられているのです。

「絶対評価」と「相対評価」で絞り込む

正しいディストリビューターの選定方法は、「ロングリスト」を作成し、それを「スキルセット」と「マインドセット」で絞り込んでいくことです。
まずやるべきは、とにかく候補となる選択肢を可能な限り収集し、次ページ図のようにすべての選択肢を縦に並べることです。それを「ロングリスト」と呼び、このロングリストから、最終的な候補である「ショートリスト」に絞り込んでいくのです。
最初のロングリストに抜けがあると、絞り込んでも精度が落ちてしまいます。従って、極論を言えば、対象となる業界に存在するすべてのディストリビューターをリストアップすることが大変重要です。
また、このロングリストのステージでは、企業名、住所、電話番号、代表者、URL、Eメール、資本金、売上、設立年度、従業員数、マネジメントチーム、組織概要、取扱商品カテゴリー、主要取扱商品、主要顧客(プリンシパル)、主要販売先(クライアント)、主要販売エリア、インポート・ライセンスの有無、セールスチームの有無、MDチームの有無などの比較的基本的な情報が盛り込まれます。
深いレベルの情報を収集するにはコストがかかりますので、さらに候補を絞り込んだ段階で収集するのが好ましいのです。

このロングリストでディストリビューターが100社収集されたとして、次にやるべきことは、「絶対評価」で自社の条件に合わない先を除外していく作業です。
例えば、自分たちの参入戦略が首都中心だった場合、地方部に強いディストリビューターは除外となります。あるいは、同じ消費財カテゴリーでも、自分たちの取扱商品が食品であった場合、非食品に強いディストリビューターは除外になります。
例えば、自分たちが年間10億円売り上げたいとした場合、現状で売上が数億円しかないディストリビューターは対象とはならないので除外となります。
ディストリビューターはキャッシュを回すビジネスですので、メーカーが10億円売りたいということは、10億円の商品をメーカーから買わなければなりません。その規模でキャッシュが回せないディストリビューターは対象外となるのです。
これらいずれの条件も、自社が市場に参入する上で絶対的に必要な「スキルセット」(保有する能力)です。ロングリストは、絶対的な評価基準 のもとに判断し、とにかくふさわしくないディストリビューターを除外していくことが重要なのです。

次に、ある程度の数に絞り込まれたディストリビューター、例えば、ここでは仮に10社とします。この10社は、スキルセットの観点からは最低限の条件を満たしています。
今度は、これらを互いに比較し、より優れた、もしくは適したディストリビューターにさらに絞り込んでいかなければなりません。そのためには、この10社のさらに深い情報が必要となります。それぞれの会社の現社員、 元社員、取引先、業界有識者などをヒアリングし、さらに深い情報を訪問調査で収集していくのです。
実際にどのような情報を収集するかというと、例えば、仕入先(メーカ ー)との関係、販売先(小売店)との関係、年間仕入量、年間販売量、仕 入掛け率、各社との施策の状況、物流、倉庫の状況、日系商品への考え、 競合に関する情報、市場に関する情報、今後の展望などの情報です。これらの情報は、実際に会ってFace to Faceの会話の中から収集していきます。

こうして10社の情報がさらに追加されていくと、10社をそれぞれ相対的に比較し選択することが可能になります。いくつかの比較軸を決めて点数化すると、10社のうち半分が除外され、5社程度のショートリストが完成 します。
いわば、自社のディストリビューター候補トップ5です。ここからさらに最終的な1社なのか、数社に依頼する場合は数社に絞り込むわけです。その話はこの後に詳しくお伝えしていきますが、まずはここまでの一連の流れが、本来やるべきディストリビューターの選定のプロセスであり、正しいディストリビューターの選定方法なのです。日本の消費財メーカーは、欧米の先進的な消費財メーカーと比較して、ディストリビューターの質で完全に負けています。繰り返しになりますが、どんなに良い商品も、チャネルが悪ければ売れません。
日本の消費財メーカーは、今一度、自社のディストリビューターが本当に適切なのか。競合と比較してどうなのかを整理する時期にきていると思います。私にご相談にくる約8割の企業は自社のディストリビューターには何かしら問題があると認識しています。こうした企業は皆一様にディストリビューターの再選定を始めています。実際にディストリビューターの変更をして1年で、10倍以上の成果を出している日用品メーカーもあります。