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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 68 ディストリビューターのマネジメント

著者:森辺 一樹

本当に重要なのはマネジメント

契約の締結式を終えると、その次の日からいよいよ、ストア・カバレッジを上げ、インストア・マーケットシェアを上げるという目標に向かって走り出します。契約を結んだ段階では、いわば水道パイプを設置したてのほやほやといったところで、実際に水を流すのはこの後のアクションになります。パイプを通しても蛇口をひねらなければ水は絶対に流れないので、消費者に蛇口をひねらせること、そして、パイプ自体のメンテナンスを行い、常にスムーズに水が流れるように保つことが大切なのです。
「水の流れを保つ」=「ディストリビューターを管理育成する」ということです。これを徹底しなければ、一度は店頭に自社商品が置かれたとしても、継続して売れ続けることはありません。先進グローバル消費財メーカーはこの管理育成をルーチン化することに成功しています。

継続的に流れるチャネルに仕上げるにはこれは避けて通れないのです。日本企業は先に説明した通り、契約交渉のプロセスも非常に緩いですが、この契約後の管理育成は皆無と言ってもいいかもしれません。現地法人がなければ、年に数回日本から出張し、ディストリビューターが見せたい小売の現場を見せられ、それは多くの場合、うまくいっている小売の現場にかたよります。そして、ディストリビューターの言うことをすべて鵜呑みにするしかないのです。何か意見を言えば、「現地のことは我々が一番わかっているので任せてくれ」と言われ、それ以上は言えなくなります。現地法人があっても、管理育成をしっかりと行っていなければ同じことです。

ディストリビューターはメーカーの販売子会社ではありません。他社の 商品も扱いますし、時として、どこまで力を入れるか、どこまで投資をす るかに関しては、メーカーとコンフリクトも起こります。問題が生じた際に、瞬時にその問題のボトルネックを把握し、対策を打てる状態にするために管理育成するのです。

具体的にはKPIの徹底で管理

では、具体的にどのようにマネジメント、つまりは管理育成をしていけばよいのかについて解説します。まず、何を管理育成しなければならないのかに関して明確したいと思います。それは、契約交渉の際にディストリビューターと決めた目標とそれを実現するためのKPIです。繰り返しになりますが、KPI は常にストア・カバレッジとインストア・マーケットシェアでなければなりません。

先にも解説しましたが、食品、飲料、菓子、日用品等の消費財メーカーの売上は、どれだけたくさんの店に並んでいるかと、並んだ商品がどれだけ消費者に選ばれているかです。この2つが土台としてあり、その他のことは枝葉です。常にこの2つのKPIのみをしっかり管理し、これが問題なく進捗していて売上が上がらない、シェアが伸びないなどということはないのです。逆に売上が上がらな い、シェアが伸びないというのはこの2つに問題があるのです。

例えば、ストア・カバレッジが伸びない問題は、大きく小売側の問題とディストリビューター側の問題に分けられます。なぜ小売は扱いたがらないのか?どんな理由があるのか?なぜ、ディストリビューターの配荷が振るわないのか? 何が問題になっているのか? これを解決すればよいのです。
ディストリビューターの管理とは、この非常にシンプルな KPI をマンスリー、ウィークリー、そしてデイリーで管理することです。

問題に対する改善策を伝えて育成する

また、そのつど発生する様々な問題に対する改善策をディストリビュー
ターに教え、彼らを育成していきます。これをやらなければ、多くのケースで目標通りにことは進みません。誤解を恐れずに言えば、アジア新興国のディストリビューターは、日本のそれとは大きく異なるのです。
ディストリビューターを管理育成するということは、少なくとも、ディストリビューターと同等、もしくは以上にその市場のことを理解していなければなりません。そうでないと彼らは言うことを聞きません。そういった意味でも、日本のメーカーは、市場のことを知らなさ過ぎると言わざるを得ません。市場のインプットを入れるための調査が不十分に感じます。市場環境、競争環境、自社のディストリビューション・ネットワークに至るまで、知らないことが多すぎます。もっともっと調査に力を入れるべきだと感じます。

管理育成には現地の専属社員が必要

最後にもう1つ、ディストリビューターの管理育成で重要なのは、それを実行する体制です。私の経験から言うと、ディストリビューターの管理育成ノウハウを持たない日本企業が、日本からリモートで管理するというのは、かなりハードルの高いことだと思います。特に、まだ現地法人を持たずに輸出のステージにいる企業にとっては、ディストリビューターの管理育成は一苦労です。年に数回訪問した程度では、管理はおろか、育成など到底できません。現地に専属の人材が絶対に必要です。最初は1名からでも構いません。

ディストリビューターの担当者とコミュニケーションを取り、彼らの活動を把握し、問題点を可視化し、そこへの対策が打てる人材が必須です。それを徐々に増やし、チームにしていくのです。人数が増えれば、それだけ広域で、高い売上やシェアに対する活動が打てます。

ここで、採用する人材に対していくつかの注意点があるので、それについて少しお話ししたいと思います。まず重要なのは、必ず業界経験者を採用するということです。当たり前ですが、誰を採用するかでマネジメントの負荷と成果が大きく変わります。食品、飲料、菓子、日用品などの消費財であれば、その分野から採用をすることが重要です。自社の現地法人である程度まで育てていきましょう、という採用なら新卒でも新人でも構わないでしょう。しかし、ディストリビューターの管理育成となると、新卒や新人では務まりません。必ず経験者でなければなりません。

そして、重要なのは、人材の「能力」(Capability)以上に、「性格」(Personality)を重視すべきという点です。もちろん、ある一定の能力は必要です。しかし、ディストリビューターの管理育成は、それほど高度な能力は求められません。むしろ、コミュニケーション力が高く、決まったことを、毎日、飽きずにきっちりこなせる力があれば、あとは性格の良さが重要になります。このディストリビューターの管理育成業務に、新卒や新人、未経験者など教育が必要な人材を採用するのも適切ではありませんが、著しく優秀な人材を採用するのも適切ではありません。あまり優秀すぎるとすぐに辞めてしまいます。重要なのは、その仕事に適度に合った能力と性格を持ち合わせているのかということなのです。