コラム・対談 Columns
本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。
Vol. 70 伝統小売(TT)で売るための2つの必須条件
著者:森辺 一樹
近代小売で売れているものを伝統小売は売りたがる
伝統小売(TT)で売るためには、2つの必須条件をクリアする必要があります。1つは、「近代小売(MT)で売れ筋になる」と、もう1つは、「伝統小売に合った入り数に変える」です。
まず、1つ目の「近代小売で売れ筋になる」に関しては、すべての商品分類(カテゴリー)でマストと言っても過言ではないと思います。食品、飲料、菓子、日用品など、すべてのカテゴリーで、近代小売で売られていないものは、伝統小売のオーナーは取り扱ってくれません。近代小売で目立った存在、売れ筋になればなるほど、伝統小売のオーナーは積極的に取り扱いたがります。理由はいたってシンプルです。伝統小売は、店の面積が狭いのが特徴です。小さなものだと、横1.5メートル、奥行き2メートルの店に所狭しと様々な商品が置いてあります。限られたスペースに売れないものは置けません。従って、確実に売れるもの、つまりは近代小売で今売れているモノを積極 的に売りたがるのです。
参考までに、よくありがちな誤解は、近代小売で買う客層と伝統小売で買う客層は異なり、近代小売=富裕層、伝統小売=貧困層という認識です。従って、近代小売での売れ筋と伝統小売での売れ筋も違うという考えです。アジア新興国では、近代小売で買い物をする層も、伝統小売で買い物を します。近代小売と伝統小売の客層を、富裕層と貧困層という極端な分け 方はできません。アジア新興国における伝統小売は、ある意味、私たちにとってのコンビ ニに近い存在であり、少々値段が高くても、近くて便利というのが価値なのです。従って、様々な層の消費者が両方の小売を活用しており、売っているものはある一定の比率で重なります。
今使いたい分を買えるよう「小分け」にする
次に、2つ目の「伝統小売に合った入り数に変える」ですが、要は、近 代小売で売っている入り数よりも少ない数で売るということです。同じモノであっても、一般的には、コンビニエンスストアで売っているモノは、スーパーよりも入り数は少ないです。そして、伝統小売で売るものは、コンビニエンスストアよりもさらに数を少なくする必要があるのです。もっと言うと1個入りから売れるようにする必要があるのです。例えば、10個入りの商品なら1個入りで販売。150グラムの商品なら50 グラムで販売というようになります。これにより商品価格が下がります。もちろん、1個当たりの単価や、グラム当たりの単価で見ると割高になりますが、伝統小売ではそれでよいのです。仮に、単価が上がったとしても、伝統小売が消費者に提供する最大の価 値は、「今、使いたい分だけを買える」ことなのです。これは、アジア新 興国市場の消費者にとって大変重要なことです。彼らは、限られた所得を上手に使うためには、将来使うかもしれないものを先に買って、個人のキャッシュフローを悪くすることはできないのです。たとえ、単価当たりは割高になったとしても、今、欲しい分だけが買えることが重要なのです。
わかりやすい例で言うと、頭痛薬などはそれに当たると思います。日本だと頭痛薬は12錠入りや24錠入りが一般的かと思います。例えば、頭痛がしました。24錠入りの頭痛薬を購入し、今、2錠使いました。残りの22錠はいつ使うかわかりません。明日、頭が痛くなり使うかもしれないし、来月かもしれないし、来年かもしれない。もしくは、このまま使用期限切れまで使わないかもしれない。使用期限が切れて使えなくなると、これはまったくのお金の無駄になります。アジア新興国の中間層消費者は、これを最も嫌がるのです。
実は、メーカーにとって、伝統小売は非常に旨みのある市場と言えます。 確かに、近代小売は1店舗でたくさん売れるかもしれません。しかし、そ の店舗でしっかりと露出していくにはそれなりのコストがかかります。イ ンストア・マーケットシェアが上がらなければ、投資対効果が悪くなりま す。
一方で、伝統小売は、確かに配荷するためのディストリビューション・ネットワークの構築や管理育成などの手間はかかりますが、1個当たりの商品は高く売ることができるのです。また、そもそも小売へ棚代や、リスティング・フィーなどを出しているなら、なおさら、伝統小売で売って、近代小売への投資を回収する必要があるのです。
さらに、伝統小売でシェアの高い商品は、今度は逆に近代小売との各種プロモーションなどの交渉を優位にします。伝統小売で数十万店以上に配荷されている商品は、近代小売も重要視します。事実、ネスレやユニリーバ、P&Gなどの先進グローバル消費財メーカーは、アジア新興国市場において小売との強い交渉力を持っています。
細かなノウハウは色々とあるにせよ、基本的には顧客の商品を伝統小売で売る際にやることはこの2つが基本です。ここがしっかりしていないとどんなに優れた販売チャネルを構築し、そのチャネルを適切に管理育成しても商品は伝統小売で広がりません。逆にこの2つをしっかり行っている会社は伝統小売においても高い実績を発揮しています。重要なのは近代小売と伝統小売を両輪で考えるということなのです。