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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 74 狙う市場で成功確率は大きく変わる

著者:森辺 一樹

「なぜその国を選んだのか?」

中小企業にとって現地法人を設立しての海外展開は、リスクが高いと述べました。本項では、では、どうやって輸出で海外事業を立ち上げるのかについてお話しいたします。

結論から先に申し上げると、展開する国によって成功確率は大きく異なります。例えば、海外ビジネスの経験が少ない中小企業がいきなりミャンマーに進出し、現地市場に向けて商品を販売をするという選択肢は、戦略的にはあり得ないことです。ここにはミャンマーを選んだ明確な理由がなければなりません。なぜ、数ある国の中からミャンマーを選んだのか?ASEANの中だけでもいくつもの国がある中で、なぜミャンマーが先に来たのか?なぜ、タイよりもミャンマーが先だったのか?なぜ、ベトナムよりもミャンマーが先だったのか?なぜ、中国ではなくミャンマーだったのか?そこに明確な理由がないのであれば、それはまったく戦略的ではなく、その事業の成功はアンコントローラブルなものになってしまいます。

基本的には現在のミャンマーは、「市場(マーケット)」としての魅力以 上に、「生産拠点」としての魅力が大きい国です。タイやベトナム、中国などの近隣諸国より安価な労働力を活用し、安く生産できる拠点としての魅力のほうが、マーケットとしてモノを売る市場よりも大きいのです。このような市場は、少なからず過去数十年にわたり中国やASEANの市場で実績を出しているような企業が、先駆者メリットを狙って早期に進出する市場なのです。
例えば、食品、飲料、菓子、日用品等のB2Cメーカーにとってミャンマーとは、ベトナム以上に攻略が難しい国です。なぜなら、近代小売(MT) が圧倒的に少ないからです。コンビニエンスストアを含めてもまだ1,000 程度しかありません。そうなると、伝統小売(TT)に商品を置けなければ絶対に儲からない市場ということになります。

そして、ベトナムよりモノが安価なミャンマーでは、日本からの輸入で商品を伝統小売に置くことはできません。輸入なら、少なくとも中国かタイ、ベトナムなどで生産した安価な商品である必要があります。最終的には現地生産が必須です。このような市場において、ベトナムやタイの市場すらまだ手をつけていない中小企業がいきなりミャンマーの伝統小売に商品を置くのは、あまりにも難しいのです。

これは B2B の製造業にとっても同じです。ミャンマーは消費者となる国民の1人当たりGDPが低い国です。ということは、それを狙っている企業の数や規模も少なく小さいことを意味します。それだけターゲットが小さいのです。
先に述べた通り、ミャンマーは、今、まさに生産拠点としてその地位を確立しつつある国です。まだまだ電力も足りていません。1〜2日に1回程度は停電します。夜は中心部でも電力が足りず薄暗い市場です。このような市場は、今、インフラ関連事業者が出て行っているタイミングであり、そうした企業しかまだ収益化できる市場ではないのです。今後は自動車メーカー、家電メーカー、そしてやっと大手の消費財メーカーが出て、中堅中小企業が入っていくといった流れになります。このような市場に、中小企業が他のどの市場よりも先に出るには、単に「先駆者メリットを得る」といった単純な理由だけでなく、それ相応の理由と、それを裏付ける戦略がなければならないのです。

発展途上国が新興国へと変わっていく仕組み

ではここで、アジア新興国の中で攻めやすい国、また攻めにくい国をグループ化して解説していきましょう。その前に、インダストリー(業種、業界)によって展開すべきタイミングは異なりますので、まずは、アジア新興国が消費市場に変わるまでの大まかな流れを解説します。その前提を理解した上で、攻めやすい国、攻めにくい国を見ていくことにいたします。アジアだけでなく、新興国は、元々は発展途上国です。発展途上国とは、その名の通り経済発展や開発の水準が低く、経済成長の途上にある国です。それらの国が急速な発展を遂げる新興国に生まれ変わるには、いくつかのステップが存在します。最初にあるのが先進国政府の支援です。日本だと、JAICAなどのODA(政府開発援助)がそれにあたります。

この ODA が始まりしばらくすると、現地政府の外資製造業の進出優遇政 策などが始まり、ODA だけでなく民間の投資も始まります。日本の大手商社や銀行、デベロッパー、建設会社などの官民によるインフラ整備関連のプロジェクトが増えていきます。

ここまで来ると、民間企業が進出を検討しはじめます。最初に進出する業態はインフラ事業者です。工業区を整備したり、工業区から港までの道路を整備したり、電力を供給したり、ITシステムを整備したり、工場やビルの建屋を建てたりと様々なインフラ事業者が進出します。これが済むと実際に製造業が進出できるようになりますので、製造業の進出が始まるのですが、最初に進出するのは自動車産業です。完成品メーカーとそれに付随するパーツ、ティア1、ティア2などと呼ばれる部品メーカーが進出をしていくのです。

自動車産業が一通り出揃うと、次はこれら自動車関連メーカーを顧客とするB2Bの製造業が進出をしていきます。これだけ多くの製造業が進出 すると、その国では多くの雇用が生まれ、また輸出額が増加し人々が豊かになります。そうすると、消費市場が大きく成長しますので、いよいよ家電産業を中心としたB2Cの製造業が進出するのです。その後、食品や菓子などその他のB2C製造業も進出するようになります。こうして発展途上国は消費市場として成長していくのです。

※本コラムはミャンマーの軍事政権によるクーデター前に書かれたものであり、クーデター後の状況を加味した内容にはなっておりません。