コラム・対談 Columns
本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。
Vol. 77 重要なディストリビューターの選定
著者:森辺 一樹
ディストリビューター選びで成否の7割が決まる
中堅中小企業の場合は「出ない戦略」、つまり、すぐに現地法人などを設立せずに、まずは輸出で行うべきだと述べました。工場設備や大型装置などを製造する一部のメーカーは、完全に直販のケースもありますが、多くの企業はディストリビューターを活用することになります。
特に B2C の食品、飲料、菓子、日用品等の FMCG 製造業は、小売店に商品を置かなければならず、自分たちの商品を販売してくれる販売パートナーであるディストリビューターは非常に重要な役割を担うのは言うまでもありません。 そんなディストリビューターは、どこを選ぶかによって、その国での展開が成功するか否かの7割が決まると言っても過言ではありません。どんなに良い商品でもディストリビューター選びを間違えたら売れません。売れないどころか、気づいたら逆に類似品が出回っている、などのトラブルに見舞われ、無駄な時間を費やすケースも少なくありません。
ディストリビューターとは、いわば自分たちの商品を販売してくれる営業部のような存在です。特に輸出でビジネスをする場合、現地で商品を輸入し販売してくれるため、大変貴重です。彼らの販売力で現地での売上が大きく変わってきます。販売力のあるディストリビューターと組めば当然 売上は伸びますし、その逆もしかりです。
また、自分たちが売りたい先、例えばFMCGなら小売店、B2Bならユ ーザーとなりますが、選んだディストリビューターがそれら売りたい先と取引口座がない場合、イチからその取引口座を開くのには当然ながら時間がかかります。時間をかけても取引口座は開かないかもしれません。そういったことを加味すると、取引口座がある状態で付き合うのと、ない状態で付き合うのとでは大きな差が出てくるのです。
さらに、選んだディストリビューターが、競合よりも販売力が弱ければ、当然、競合との売上やシェアの差は日に日に大きくなっていきます。それだけディストリビューターとは重要な存在なのです。しかしながら、中小企業の多くはこのディストリビューターをご縁で決めています。ご縁の多くは、展示会で知り合ったとか、会社に問い合わせ があった、また知人の紹介で出会ったなどです。もちろん良いご縁もあると思います。しかし、確率論的に言うと、それはとても低く、相手の販売 能力を明確に理解しないまま依頼するのはあまり賢いやりかたとは言えないでしょう。
「現地に出ない」ということは、ディストリビューターが現地での手足となるわけです。そんなに重要な役割を持つ相手をご縁だけで決めてはならないのです。重要なのは、ご縁ではなく、相手の販売力をしっかり理解した上で現地での販売を任せることなのです。
「良い」ディストリビューターの選び方
では、良いディストリビューターの選び方について解説いたします。まず「良いディストリビューター」とはどのようなディストリビューターなのでしょうか。様々な「良い」定義がありますが、やはり最も重要なのは、中小企業側が目標としている売上を達成してくれるか否かです。そのためには、先に解説した通り、中小企業側がターゲットを明確にする必要があります。そしてそれらのターゲットだけで、掲げた目標が達成できるのか否かをしっかりと見極めます。
達成可能なのであれば、やることは非常にシンプルです。選ぼうとしているディストリビューターが、そのターゲットに対して取引ができているのか否かを見ていけばよいのです。あまりできていなければ、さらにター ゲットの層を増やし、そのディストリビューターがそれらのターゲットに リーチできているのかを見ていきます。
これらはスキルセットであり、過去にこの連載でも解説しています。ただし、中小企業の場合、それほどスキルセットを細かくチェックする必要はありません。重要なことは、中小企業側がターゲットを明確 にできるかということと、選ぼうとしているディストリビューターがそのターゲットにリーチしているか、これだけです。そして、スキルセット以上に重要なマインドセットです。中小企業の場合は、中小企業の社長本人が、選ぼうとしているディストリビューターのオーナー社長と直接会い、長く一緒にやっていける相手かどうかを見てください。これに関しては、大企業の担当者より、よほど中小企業の社長のほうが人
を見る目があると思います。
そして、これらディストリビューターのリストアップや、実際にターゲットにリーチできているのか否かを調べることを、現地の事情がほとんどわからない日本の中小企業が行うのは不可能に近いです。大企業ですら自前ではすべてできませんので、それを中小企業が自前で行うのは経営資源的に不可能です。トライするだけ時間の無駄ですので、外注することが望ましいでしょう。むしろ、選んだ後の工程に時間と労力を割くべきだと思います。ご縁などで決めず、ディストリビューターの選定に時間と予算をかけた企業は、結局は売上拡大までのスピードが速く、またそれが持続しているのです。
ディストリビューターを活かすも殺すも自社次第
せっかく良いディストリビューターを選べても、彼らを活かすも殺すも自社次第です。多くの日本企業は、ディストリビューターとの契約を締結し、実際に現地で販売活動が始まると、年に数回、現地を訪問し、色々聞いて、なるほどとうなずくだけで終わります。
基本、自分たちは作る人で、現地のことはよくわからないから、ディストリビューターに完全お任せ状態になります。それを定期訪問で聞きにいき、なんとなくわかった感覚になり、また、訪問した回数だけ人間関係が深くなったと思うわけです。
しかし、それでは売上は上がりません。なぜなら、売ることのすべてをお任せ状態なので、何をすればもっと売上が上がるのかを理解していなければ、売上が不調な時に原因を探ることも、その原因への対策を打つこともできないからです。要は、ディストリビューターが唯一の頼りの綱になってしまうのです。
この問題に関しては、大企業も同じような問題を抱えていることを過去の連載でも解説しました。全体的に日本企業は売ることをあまりにもディストリビューター任せにしすぎているのです。ディストリビューターは決して万能ではありません。現地人が運営する現地の会社なので、日本企業からすれば自分たちより何でも知っている頼りになる存在に見えると思います。
しかし、実際にはそんなことはありません。私たち日本人でも同じことで、日本人なら日本のことを何でも知っているとは限りません。例えば、B2C業界の企業であれば、日本の小売のことに関しても、消費者のことに関しても、すべてを理解していて正しいとは限りません。B2Bでも同様です。だからこそ、中小企業側も自分たちで現場に出向き、目で見て、会話をし、学ばなければなりません。
先入観でディストリビューターのほうが現地を知っていると思っていたら、いつまで経ってもディストリビューターと同等以上に市場を理解することはできません。日本国内で、メーカーよりもディストリビューターのほうが市場を知っているなんてことはないはずです。メーカーも十分市場を理解した上で、ディストリビューターに一部の業務をお願いしているのです。
これはアジア新興国市場でも同じであるはずです。メーカー側が主体的に売りに関わるのか、それとも完全にお任せになるのかで、ディストリビューターのモチベーションも変われば、彼らとのパワーバランスも変わります。市場環境や競争環境を熟知した上でディストリビューターに任せるのと、まったく理解せずに任せるのでは得られる成果が異なります。前者はディ ストリビューターと一緒になって市場を伸ばせていける非常に良い関係を 長期にわたって維持できますが、後者はディストリビューターのやる気次 第になってしまいます。
また、問題が起きてもメーカーが市場を理解していないので対策が打てないのは言うまでもありません。ディストリビューターを活かすも殺すもメーカー次第なのです。