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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 85 Q&A 伝統小売が近代化するまで待ってから参入するのはダメか

今回も私がセミナーや、YouTube番組、Podcastなどでよく頂く質問についてお答えしていきたいと思います。

<質問>

消費財メーカーです。そもそも弊社は苦労をしてまで伝統小売(TT)を攻めるべきかを悩んでいます。結局、ASEANも全体的に近代化するのであれば、市場が成熟し、現在の伝統小売が近代化してから参入したほうがよいのではないでしょうか?

<回答>

結論から申し上げると、この質問への答えはNOです。理由は、小売の近代化はそれほど早く進まないからです。ASEANでは、確かに小売の近代化は進んでいます。この傾向は今後もさらに進んでいくでしょう。しかし、向こう10年、20年ですべての伝統小売が近代小売(MT)に変わるといったことは起こりにくいと私は考えています。なぜなら、小売は、小売単体では近代化できないからです。小売が近代化するには、いくつかの条件が整わなければなりません。その大きな条件の1つがインフラです。小売が近代化するためには、あらゆるインフラが 平均的に近代化する必要があります。例えば、道路、物流、システム、電気、ガス、水道といったインフラです。さらに、コールドチェーンも整備されなければなりません。渋滞も解消できなければなりません。渋滞は小売の近代化のスピードを緩めます。現在、ASEANの主要都市は日本では考えられないほどの渋滞が毎日当たり前のように起こっていますが、これらの渋滞は今に始まったものではなく、今後も少なくとも10年以内に解消されるようなものではないことがわ かっています。日本の小売の近代化は、世界的にも例を見ない速さで実現されました。これは決して小売だけが単体で近代化していったのではなく、その他のあらゆるインフラが近代化したことで小売の近代化も実現できたのです。日本を縦断する形で高速道路が整備され、鉄道が敷かれ、電気、ガス、水道といったライフラインは、日本中で整備されました。その結果、小売も近代化できたのです。また、もう1つ、日本人とコンビニエンスストアの相性が非常に良かったことも大きく影響したと言えるでしょう。我々日本人にとっては、小売の近代化などごくごく当たり前で、日本同 様に一気に進むのではと思いがちですが、日本のケースは大変特殊なのです。日本と同じことはASEAN では起こりません。そう考えると、この先の20年程度は、伝統小売は一定の影響力を持ち、近代小売が伝統小売にとって変わるといったことはないと言ってよいでしょう。そうなると、今後減少していったとしても、ある一定のシェアを持つ伝統小売を無視するというのは賢い戦略とは言えません。また、別の発想として、仮に、30年後にすべての伝統小売が近代小売に変わったとして、その時点で参入するのでは、消費者も、小売も、流通もなかなか簡単には受け入れてくれないと思います。

その時には、市場におけるプレイヤーは完全に固まってしまい、入る隙間がない状態になるのではないでしょうか。また何より、そんなに長い期間、この成長著しいASEANの市場に手をつけなかったら、すでにグローバル競争で負けが確定していることになると思われます。いずれにせよ小売が近代化してから市場に参入するというのは、どのような観点から見ても賢い戦略とは言えないでしょう。

仮にASEANの伝統小売の獲得で苦労しても、そのノウハウは、メコン経済圏で活かせますし、その後は、伝統小売比率98%以上のインド、そしてアフリカで活かすことができるのです。決して無駄にはならないと思います。