森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日も引き続き、前回に続いて「イノベーションで切り拓く新興国市場」ということで、少しちょっとイノベーションと新興国市場みたいなお話をしていきたいなというふうに思います。
イノベーションは技術革新だけがイノベーションではないですよと、基本的には新結合というのがイノベーションの定義であって、今まであったものと、古いものと新しいものを組み合わせることで新たな価値を生み出すということがイノベーションですよと、新結合であるということを前回お話をしたと。その中でイノベーションが起こそうと思って起こすものではないというお話と、事後、物事が終わってから、成功が終わって、成功が終わってというか、成功してから、じゃあ、その成功を誰かが蓋を開いてみたときに「ここがイノベーションだったね」という話で、イノベーションは計画的に起こせるものではないという、これはもう一橋大学の名誉教授の米倉誠一郎先生も言っていますのでね、計画的に何かを起こすようなものではなくて、結果としてそれがイノベーションだったというものであるということと、イノベーションとは目的ではないわけですよね。イノベーションを起こすために、イノベーションハブみたいなね。いやいや、イノベーションなんて別に起こさなくていいんですよと、イノベーションを起こすと得たいものを得られるからイノベーションが必要なだけであって、あくまでそれは手段であって、目的は別ですよと、イノベーションは手段であるということを忘れてはいけないですねということは1つ置いておいて。ただ、成功した先進グローバル企業を蓋を開くと、そこにはやっぱり多くのイノベーションがあるので、そのことをちょっと今日は紹介をしていきたいなと思うんですが…。
例えばFMCG、食品・飲料・菓子・日用品等の消費財メーカーの分野ではネスレ、ユニリーバみたいなのは新興国市場では非常に成功している、高いシェアを持っている企業なわけですけども、ちょっとネスレの事例をお話すると、インドに限らずなんですけど、インドが非常に顕著なのでお話をすると、マギーという即席麵をインド市場で売っていて、非常に人気があると、これは別にASEANでも人気があって、例えば屋台で焼きそばなんか買うと、実際にこの麺がマギー使われているみたいな、業務用の麺として使われているみたいなケースもあって、ネスレはマギーの市場シェアの獲得に関していろんなことをやったんですよね。それが、いくつかのポイントがイノベーションなのでご紹介すると、例えば1つが現地適合化、インド市場に合わせた、インドの食文化に合わせた味とか栄養価で商品構成をした、それが言ったら今までって自国で売られていたようなものを売っていたのが、現地に適合させたっていう。マギーという商品は世界標準化をしながらも、やっぱり現地に部分部分適合させていったというところは非常にイノベーションのポイントとしては注目すべきで。サプライチェーンの強化も、これはイノベーションのポイントとしては非常に注目すべき、原材料調達とか製造を強化した、これは輸出でやっていたら結構幅を取りますし、スカスカですからね、インスタント麺、即席麵ってね、いかに現地でつくって現地で売るかという、サプライチェーンの効率化がやっぱり製品コストを抑えるためには絶対必要で、インドで高い商品なんて売れませんから、輸入品で即席麵なんて売れないわけですよね。だから、サプライチェーンの強化。
あと、販売チャネル、これもインドももう99.9%伝統小売の市場の中で、どうやって、じゃあ、伝統小売のストアカバレッジを上げるんですかという、このディストリビューション・ネットワークの構築というのが一番の僕はイノベーションだと思うんですけども、こんなことをやったし。あと、社会貢献、栄養教育プログラムみたいなことをやっぱり徹底的にやって、こんなの先進国ではやる必要ないわけなので、こういうことを、蓋を開いてみるといくつも先進国ではやらなかったイノベーションのポイントというのが見えてくるわけですよね。
ユニリーバだってそうですよね。サシェッとというパッケージ、いわゆる小袋売りですよね、小分けにして売るというね、10個買えないんですと、ただ、1個だったら買えますと。例えば薬もね、頭痛薬も10錠買えないんです、でも、今必要な1錠欲しいんですと。飴も、1袋要らないんです、今舐めたい1個が欲しいんですと。でも、1個あたりとかグラムあたりは高くなったとしても、10個、未来に舐める飴、要は未来の頭痛に備える薬のためにたくさんお金を今使わなきゃいけないって、そのキャッシュフローがないのが新興国ですから。ですから、1個あたりが10%20%高くなってもね、1個分のお金だけを出せば今はいいというほうがいいわけですよね。それの売り方をつくったのがまさにこれ、ユニリーバのイノベーションのポイントだし。もちろんたくさんの伝統小売、これはネスレと一緒ですよね、ストアカバレッジを上げないといけない、そのためのディストリビューション・ネットワークをつくったというのも、これもイノベーションですよね。基本的に先進国で売っていれば、近代小売の、主要な近代小売のセントラル物流倉庫にドーンと商品を配送すれば、あとはそっちでデリバリーされるという話だし、そもそも伝統小売は存在していない。その新興国特有の伝統小売にチャネルをしっかり合わせてきたという、これはまさにイノベーションですよね。あと、インドとかアフリカとかで女性の起業家を育成する、女性の社会的地位が低いというところに目を付けて、女性の起業家を育成するというシャクティ・プロジェクトというのを通じて商品の販売ネットワークを拡大するみたいな、こういう取り組みもやっぱり非常に評価されて、これもまさにイノベーションですよね、こんなこと先進国ではやりませんから。だから、こういうイノベーションが蓋を開けて出ていると。
一方で、じゃあ、日本の、これはユニリーバとかネスレ、食品・飲料・菓子・日用品の大手のメーカーを見てみると、すべてとは言いませんよ、一部は、一部の国でイノベーションを出せている国もあるけども、基本的にはプレミアムな商品をみたいなね。日本…、いや、先進国で実績がそんなにないから、日本で実績のあるものをね、少しでもプレミアムで、プレミアムでと、ただ、そのプレミアムの定義も結構崩れつつあって。これからある機能性食品的な、食品だと機能性みたいなものがこれから注目されていくんだけども、どれだけこれが通用するかなというのもちょっとまだ未知数で。なぜならば、機能性もなんとなく雰囲気みたいなところで満足できてしまう国民性も日本にはあるのかなと。新興国の人たちが機能性と言われたときに、「痩せます」と言って痩せなかったらやっぱりこれは目に見えて痩せなきゃ駄目だ、日本人よりも強くそれを求めるので、本当にそこまでの機能と言われてしまうとどうなのかなというのは1つありますよね。ラボでは確かに数値としては出ているんだと、数値としては痩せる傾向にあるということが科学的に証明されています。ただ、実社会ではいろんなその他の要素が多角的に入ってきて、トータルすると「痩せるんですか、痩せないんですか」と言われると、やっぱりいろんなことが関係してくるので、「これを食べても痩せません」みたいな話だと、やっぱり新興国の人たちはもっと求めてきますから、そこも結局そういう技術革新ではないのではないのと、ユニリーバとかネスレがやっていることは、そういう技術革新も残しつつ、そこ1本打法ではなくて、社会貢献のプログラムであるとか、販売チャネルであるとか、サプライチェーンであるとか、現地化であるとか、そういうところをイノベーションの軸にしているのではないだろうかというふうに私は感じております。
ちょっと時間がなかったので、今日はネスレ、ユニリーバですけど、次回ちょっと気が向いたらもうちょっと事例をお話しながらイノベーションの話をしようかなというふうに思います。それでは今日はこれぐらいにして、皆さん、また次回お会いいたしましょう。