森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。今日は、調査の手法、やり方、どうやって調査したらいいんですかということについてお話をしたいと思います。だんだん暑くなってきましたね。もう本当に暑いなというあれで、今日もエアコンをつけて頑張っていきたいと思いますが…。最近、私の書籍を呼んでいただいて、「調査が重要ですよという話を森辺さんは本の中でもされている」と、調査は重要だということは本でも講演でも何ででも言ってますから。その中で、「じゃあ、具体的にどうやって調査したらいいんですか」みたいなご質問が結構来るんですよね。どうやって調査をすればいいかと言うと、自分の会社を使ってくださいと言っているような感じであまり僕は好きじゃないので、説明をしてこなかったんですけど、そういう質問が非常に多いので、ちょっと今日、お話をさせてもらうと…。
そもそも、なぜ調査が重要かということなんですけど、いわゆる海外、アジア新興国市場の戦略策定って、どれだけ高度な仮説がつくれるかという話なんですよね。要は、これから詰将棋をしていくのにね、この駒をここに進めるとこうなるああなるということをどれだけ高度に予測できるか。仮説を作れるか。そうすると、いかにインプットを増やすか、解像度の高いインプットを早くね、スピーディに得て、そのインプットが仮説というアウトプットになるわけですよね。そのインプットがなければ、この仮説の質というのは非常に劣ってしまう。仮説が劣ると、その仮説を検証するわけじゃないですか、実地でね、誤差が出ると。この誤差が大きいとフリーズしちゃうということになってしまうわけですよね。逆に言うと、仮説が高度なので、誤差が想定範囲内だと。誤差が想定範囲内だと、そのまま走り続けることができるわけですよね。なので、いかにインプットを高めるか。これは、質も量もスピードも。それがやっぱり勝っていく上で大変重要ですよと。シェアの高い企業は、1社の例外もなく、この情報収集、調査にものすごい労力を割いてお金をかけていると。彼らはこれをね、費用、コストというふうには捉えてなくて、投資、インベストメントというふうに捉えているので、もうその調査をやって仮説の質を上げるということが標準化されているんですよ、社内の中でね。「いや、そんな調査、今まで前例がないので、ちょっと予算が」みたいな、そういう話には、もう、まずならない。それとか、あと、「自分たちで集めろ」みたいな話にも、まずならない。あと、よく分からない消費者調査をいっぱいやって、「うわーっ、こんな情報で何やるの?」という、そういう間違った調査をするということにもならないわけですよね。別に消費者調査が悪いと言ってるのではなくてね。そうすると、調査というのは、仮説を高めるため、この仮説検証を進めていくプロセスこそがまさに戦略なので。戦略をつくるって何からつくられているのかということを冷静に考えていくと、自分たちの知見ですよね。知見で戦略がつくられる。日本の実績に裏付けられた知見では、やっぱり日本で成功する戦略しかつくれないので、それをいかにアジア新興国各国に当てていくか、地域に当てていくかという話になるわけですよね。そうすると、やっぱり現地の情報が必要で、もちろんそれを分析して仮説立てていくステージではね、知識だけじゃなくて経験も必要なので、当該分野の専門家をアドバイザリーとしてね、しばらく並走する、みたいなことが必要になってくるわけですよね。
その仮説を高めるために調査があるんだけども、基本的に自前でやれる調査と、調査屋さん、われわれみたいな会社に外注をする調査というのが、2つ種類があって。調査ってね、大きく分けると、産業系の調査と消費者系の調査というのがあるわけですよね。消費者系の調査というのはB2C、消費財メーカーはやりますよね。一方で、産業系の調査はB2CもB2Bもやると。消費者調査はB2Bの会社はやりませんから。そういう消費者系と産業系というのがあって。消費者調査というのは何かと言うと、もう究極は、消費者のインサイトをどうやって理解するか、彼らが何を欲しているのかということを可視化する、見える化するというのが消費者調査ですよね。その手法として、例えばインターネット・リサーチがあったり、FGI、フォーカス・グループ・インタビューがあったり、会場調査があったり、訪問調査があったり、ホームユーステストがあったり、いろんな調査手法がある、それは単に手法の話で、いずれの手法も消費者のインサイトを知るという意味での調査。これは消費者調査の専門会社があるので、そこに依頼をすると。
ただ、1つ気を付けなきゃいけないのは、バイアスがやっぱりすごく重要で。回答することでインセンティブをもらえる人たちから得た情報の中にどれだけ真実があるのか、ということを僕はすごく疑心暗鬼に思っているので。僕たちがやる消費者調査、僕がやる消費者調査というのは、突然ピンポンしてその家に行って生活実態を見せてもらうとか、突然道を歩いている人にインタビューをして回答を得るとか、すべて突然、用意されないということはすごく重要で。例えば家を見せてくださいって、日本でもそうですけど、調査会社の人が家に来るってね、何日か前か1週間2週間前に分かっていたら、家をきれいにしてしまうんですよね。やっぱりいつもとは違う状態になってしまうし、いつもとは違う回答をしてしまうわけですよね。少し見栄を張ってしまうわけですよね。そういうものが真実を見えにくくしているので、僕はもう瞬間瞬間でピンポンして入るみたいなね。結局、消費者に聞いてね、彼らが言ったことがその通りそうかと言うとそうじゃなくて、その中の心理の底の底にあるものが何かを引っ張り出してこなきゃいけないので、回答がそのままどうだっていうのはほぼないんですよね。ただ、ある一定のね、N数でそういう調査が必要だということも当然あるので、そういう消費者調査もあれば、われわれが重要視しているようなゲリラ的な消費者調査もあるよというのがまず1つですよね。
消費者調査は消費者調査でいいですと。もう1つあるのが産業調査。この産業調査に関しては、これも2つあって、プライマリーデータを重要視する調査と、セカンダリーデータ、セカンダリーデータを重要視する調査というのがあって。プライマリーってどういうことかと言うと、直接その当事者から得た情報、セカンダリーというのはどういうものかと言うと、どこかのシンクタンクなり、国がね、例えば世界銀行とか、IMFとか、OECDとかが大規模な調査をやって、まとめて、公表されたマクロなデータ、こういうものなんですよね。結論から言うと、セカンダリー情報に関してはChatGPTで十分です。ChatGPTとやり取りをして、かなり精度の高い情報が根拠をもとに、ベースにね、出典をベースに出てくる。なので、ChatGPTを活用するというレベルでいいと思います。われわれは研究者じゃないので、より精巧な、緻密なとか、より深い、間違ったデータはダメですけども、そんなのは必要ないので。参入戦略をつくる上で、もしくは事業戦略をつくる上でのデータは、ChatGPTとかね、あと、そういうセカンダリーデータを集めるような機関がありますから、ユーロモニターとかね、そういうところでデータを収集する。もう、皆さんで独自でできるというのがセカンダリー。
われわれが専門としているのは、プライマリーデータを集めてくるような調査。例えば、僕がすごく重要視しているのは、Reference Valueを持ちましょうということを散々この番組でも言っていて、戦略のReference Value、自分たちのこの進むべき道のReference Value。Reference Valueとは基準値なんですけど、この基準値がないと、いわゆる自分たちが、今、手に届く範囲のものを、情報を得て、ひたすら積み上げていって、結果として蓋を開けてみたらどうだったかと。万に1つ当たればラッキーだし、多くの場合は当たらないという結果になっているというのが、もう今、この30年の日本企業のアジア新興国市場の展開なんですよね。基準値を持つというのは、競合が100だった場合に、自分たちが70なのか、50なのか、30なのか、この差によってつくるべき戦略、組むべき戦略って大きく変わってくるので、それに応じてプライマリー情報を集めていくということなんですよね。また、自分たちが100だった場合にね、競合が120なのか、150なのか、170なのか、これによって全然戦略も違ってきて。もう、この基準値すら分からない。具体的に分からない。なんとなく負けているのは分かっているんだけど、どれぐらいそれがあるのかと。もしくは、何が足りていて、何が足りてないのか、具体的に数字で分からないみたいな、こういう情報を集めてくるのがこのプライマリー調査なんですよね。集めてくるだけじゃなくて、優れている競合、シェアの高い企業、ケーススタディの対象となる企業と、例えば依頼主、皆さんだったら皆さんの会社を見える化して数値で比べたときに、どっちがどう優れているのか、じゃあ、何をどう補わなきゃいけないのかということを客観的に提言するということがわれわれの仕事なんですよね。だから、ただ調査をするというよりかは、客観的な分析、提言みたいなことをしっかりしていく。
さらに言うと、その提言をお客様と一緒に実行する、みたいなところまでやっていくわけなんですけど。そういう意味では、調査に関しては、これは難しいんですけど、ただ情報を拾う…、情報と言ってもね、さっき言った消費者調査と産業調査があって、産業調査のほうにはプライマリーデータとセカンダリーデータがあって、セカンダリーデータは、皆さん、ChatGPTで集めてくださいねと。じゃあ、プライマリーデータはどうするかと言うと、これはわれわれみたいな調査会社に依頼するしかないと。これは別にわれわれじゃなくてもね、なんちゃら総研ってつくようなところとかね、外資のコンサルティングファームでも全然いいと思うので、集めると。ただ、重要なのは、やっぱり当該市場、新興国なら新興国でどれだけの数それをやっているか。設計能力が違うし、調査の遂行能力も違うし、出てくるアウトプットも大きく違うので、そこがやっぱり1つですよね。きれいな提案書はね、もうこれはデザイナーがいるので誰でも出せますから、本当に実態がどうなのかというところを見ていくというのがすごく重要だし。あと、ただ調査の結果を出せばいいのかね、ただ調査結果を持ってくるだけでいいのか、それともそれを客観的に分析して提言して一緒に歩いていってもらうことまで必要なのか、そこも含めてやっぱり依頼先というのは決めていかないといけないというふうに思います。
いずれにしても、これらの調査を、言ったって費用って多くの場合は1,000万以下ですよね。数百万円でできるものもあればね、1,000万、2,000万ぐらいかかる大がかりなものもありますけども、多くはやっぱり7桁だと思います。逆に言うと、やることをフォーカスをする、無駄なことを結構やってしまって費用が高くなっている。ただ、それをやっぱりこの費用が…、費用をケチるって、調査ってね、労力をどれだけかけて真実を引っこ抜いてくるかという話なのでね、費用が少ないと、当然、労力かけたくないと、かけられませんということになるので、結局、中途半端な結果になるので、ある程度適正な費用を払ってしっかりと情報を取るということが僕は重要だなというふうに思いますけど、この辺がやっぱりシェアの高い企業はもう慣れてる、それは非常に大きな違いとして思います。今、これが慣れてないと、「いや、うちの会社はこんなこと前例がないのでやったことありません。そんな予算出ません」みたいな話で、「自分たちで何とかして集めなきゃいけません」みたいな話だと、もうね、リーダーが分かってないんですよ、トップがね。そういうレベルの戦いじゃないんだと、今のアジア新興国市場はと、そんな悠長なことやってられない、というのが僕が見てきたこの20年の世界なので。そうだとすると、結構ちょっと、自分の身の振り方を考えたほうがいいかもしれないという感じでございます。
今日はだいぶ長くなってしまいましたのでこの辺にしたいと思います。皆さん、また次回お会いいたしましょう。