東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、前回、チャネル構築というところで、デザインしてマネージメントしてコミュニケーションをとると。それがなかなかできないから売れない、意図的に継続的に売れないんですよねというところだと思うんですけど。森辺さんも、13年間ぐらい海外事業に携わってきて、いろんな企業、大企業から中堅、中小企業まで見てきたと思うんですけど、当然成功する企業もあれば、周りから客観的に見て失敗する企業ってのも出てくるじゃないですか。そうすると、なんで失敗するのかっていうのが、なんとなく森辺さんの中の経験則があると思うんですけど、森辺さんなりにどうですかね。
森辺:いろんな目的があって海外進出を、海外投資ってするわけなんだけども、その売ることだけじゃなくてね、投資じゃないですか。総じていうと、失敗する企業には3つの型というか法則みたいなのがあるなっていうのがあって、中小企業になればなるほど「えー」っていうような法則、3つのいわゆる型、失敗する企業の法則なんだけども。大企業になればなるほどそれは浅いんだけど、下に行けばいくほど「えっ」ていうようなレベルのことがあったりしますよね。
東:その3つってのは、具体的に言うと、ちょっと1つ1つ。
森辺:まず、圧倒的に多いのが、コネとか人脈頼りの属人的な海外展開。要は総じて言ったら、戦略がないとか甘いんですよね。その戦略がないとか甘い代わりにコネや人脈に頼るっていうことなんですけど。どういうことかっていうと、例えば地元の市長かなんかが紹介してくれた企業とそのままやるとかですね。中小企業さんとかだと、新卒の外国人に海外市場を完全に任せるみたいなね。だけど日本の国内市場を日本の新卒に任せないじゃないですか。けど、その逆にそういう子に任せたりとか。ほんとに笑っちゃうような海外展開、コネや人脈頼りの海外展開ってのは非常に多いですよね。属人的っていうんですかね。
東:結構、日本語が話せる外国の人を信用しちゃうだとか。
森辺:中国行ってだまされたとか、よくあるじゃないですか。中国人のリスナーいたらあれですけど、中国好きですけれど。どっちがいい悪いとかじゃなくてね、日本語のできる陳さん、王さん、楊さんがいっぱい出てくるわけじゃないですか。海外で日本語のできる人に出会っちゃうと、「この人しかいない」っていう錯覚に陥っちゃううんですよね。で、その人の言いなりに、その人の言ったとおりにいろんなことしていくわけですよ。共産党の何とかと近しいとか、親戚が武装警察の何とかにいるとかですね。日本でね、市長に紹介してもらってビジネスしないじゃないですか。日本で、「私は自民党にコネがありますよ」っていうような人とビジネスしないですよね。なんですけど、海外は人脈が重要だっていう言葉だけが独り歩きしてしまって、完全に人脈頼りになっちゃうパターン。戦略があったうえで人脈をうまく操るとか使うってのはいいんですよ。ただ戦略がない人脈頼りっていう、これがいわゆる初歩的なというか、非常に多いパターンですよね。
東:人脈を否定するわけじゃなくて、戦略を持ったうえで、こういう人と付き合いたいとか、こういう人を探してるとかっていうのは全然、それは人脈をフルに使って戦略と合わせたらいいんじゃないかと。ただ人脈だけだと、戦略がないのに人脈だけだと、どうしても受け身になってしまうし。
森辺:受け身になるってことが怖いんだよね、リスクなんですよ。
東:組んだ相手がいいかどうかってのも、判断できないまま行って失敗してしまうと。
森辺:それがすごく怖いというか、多くの企業はそこで失敗しますよね。大企業になればなるほど、入ってくる人脈の質も高い質なので、その可能性は著しく低いんだけども。戦略がないうえにいくら人脈を載せてもね。海外ビジネスは人脈が大事っていう言葉だけが独り歩きしすぎちゃって、とにかく人脈っていう、そういうの非常に怖いですよね。
東:中国なんかだと、そういう傾向がさらに強くなりますよね。
森辺:それで散々やられてきたんだから、今、ASEANシフトなんて言ってますけど、そこでは同じ失敗をしないってことがすごく重要だと思うんですけどね。
東:じゃあ1つ目は、コネや人脈頼りの属人的な海外展開ってのは1つですよね。もう2つあるんですけど、もう1つは。
森辺:これはですね、さっき言ったのは中小企業さんが結構陥りやすいんですけど、今回は大企業が陥る問題なんですけど、失敗の法則なんですけどね。販路を築きたいわけですよ、現地で。自分たちは作れるんでね。現地のパートナーが重要だろうということで、合弁会社を作ったり事業提携をしたりするんですが、その時に、財閥とか同業種みたいなところを選んでいく。
必ずしも悪いってことじゃないんですよ。ただ、欲しいのは販路なわけですよね。でもその販路のことはよくわからないから、とにかく現地の経済を牛耳ってる財閥系と組むとかね。同業種と組むという方法をとって、販路そのものにあたるディストリビューターを軽視するっていうパターンがあるんですよ。
たとえばサービス業をやってるとかね、すごく重要な店舗が必要だとか、コンビニエンスストアとか小売店、こういうとこは徹底的に財閥と組んで、店舗開発をやって、スピーディーに店舗を広げてって、やってくってのがたぶん適切だと思います。ただ製造業に関していうと、必ずしも財閥系や同業種と組むことはね、販路を獲得することになるのかっていうと、そうじゃないケースってのが往々にしてあるんですよ。外資規制があって、現地の企業と合弁しないと進出できませんよっていうんであれば仕方がない。ただ、本当に自分たちが必要としてるパーツが販路なんであれば、販路と組む、もしくは販路と合弁する、もしくは販路を買収するってことをやってかないといけなくて。
財閥系だって結局販路ってのは、その先の子会社の子会社が持ってたりするわけですよね。製造業でよく組むパターンが、自分たちは歯磨き粉を作ってますと、現地の歯磨き粉メーカーとくっつきますと。なぜなら現地の歯磨き粉メーカーは現地にチャネルを持ってるだろうと。自分たちは現地の歯磨き粉メーカーより高い技術力を持ってるから、合弁工場を作ってより品質のいい歯磨き粉を供給すれば、彼らの販路にそれが乗って売れるだろうと。こういう発想で行くわけですよね。けど、結局、そのメーカーもメーカーであって、販路っていうのはその下のディストリビューター使ってるわけじゃないですか。そうすると直接的に販路を持ってるかって言ったらそうじゃないわけですよね。結局、なかなかその品質のいい歯磨き粉は売れなくて、最終的には技術だけ取られて、チャネルづくりができなかったと。
これはどういうことかっていうと、自分たちは作る人、売るのはあんたよと。そのあんたが、販路そのもののディストリビューターじゃなくて、もっと上の階層へ行っちゃってるっていう。同業種とか財閥に行っちゃってるていう、そういうパターンですよね。
東:そうすると財閥系とか同業種も、販路は持ってるけども、果たしてそこと組むのが適切かどうかっていうところを考えなきゃいけないと思うんですよね。
森辺:売ることだけを考えた場合ね、同業者の持つ販路が本当に一番いいのか、実はもっといい販路があるんじゃないの、っていうこともそうだし。財閥の場合、その財閥の持つ販路に期待はするんだけど、ほんとにその販路っていいのって。要は、欲しいのは販路じゃないですか。そしたら、財閥としてはデカいと。けど販路はどうなの、とかね。同業種としてはすごくいいと。けどその販路はどうなの、っていう一番欲しい販路そのものを、ちゃんと可視化しなかったら、なかなかうまく販売が実らないケースってのが往々にしてありますよね。
今、成功しているような会社さん、マンダムにしろ、フマキラーにしろ、味の素にしろ、ユニ・チャームにしろ、基本的には販路を自分たちで作ってますでしょ。同業種合弁をして生産工場を増やしたりとかってのはありますけど。じゃあ、販路そのまま合弁先に任せるか、財閥に任せるかってそんなことは一切やってないですよね。
東:そうするとディストリビューターを束ねて自分たちで販路を作るってのが一番成功確率としては高いと。
森辺:高いし確実ですよね。
東:なるほどなるほど。じゃあ、2つ目としては、現地パートナー、財閥とか同業種に依存した海外展開。では3つ目ってのは具体的にどんな。
森辺:これも大企業が陥りやすいパターンなんですけども。箱だけ海外展開。いわゆる現地法人ありきの海外展開。とにかく海外展開っていえば現地法人だ、っていうことで、現地に箱を作って、法人作って、そこに駐在員を送り込んで、出てから学べと。そういうパターンですよね。
箱作るっていうことは、作ったと同時にすぐに、いわゆる出費が出るわけじゃないですか。固定費がばーっと出て行くわけですよね。その固定費を出血ととらえるならば、出た瞬間出血が始まるわけですよね。それを販路を作って売り上げが上げれるようになって初めて止血ができて、トントンになって、利益が出て行くわけじゃないですか。そのスピードが、送り込まれた駐在員に気合と根性で何とかして来いって言って箱に駐在員を送るんだけども、なかなか1年経っても2年経っても3年経っても利益出てこないっていう。いわゆる箱だけ作ったけど、ってパターンが非常に多くて。上場企業のIRなんか見てると、インドネシアに進出しました、タイに進出しました、ベトナムに進出しましたと、法人出しました、プレスリリースバーンって打ってるわけですよね。3年4年くらいして、しらーっと閉じたりとか、そういうケースっていうのはよくあって、これも戦略はまず本社ではないと。とにかく本社の戦略は現地に法人を作ることだと。あとその中身云々っていうのは、駐在員を送り込んで、お前が気合と根性で何とかせいっていう、こういうパターンですよね。箱だけ進出って言ってますけど、こんなのが非常に多いと。
東:そうすると、3つ挙げていただいたと思うんですけど、ちょっとまとめていただくと、その3つがどういったことなのかっていうのを、もう一回おさらいでよろしくお願いします。
森辺:まずは、コネとか人脈頼りの属人的な海外展開ですよね。日本語のできる外国人を唯一で最高のパートナーと錯覚してしまって、いわゆる相手だより、相手の言うところに全部引っ張られてっちゃうっていう。戦略があったうえでのコネ人脈は丸ですけど、戦略がないうえでのコネ人脈はNGですよってのが1つですよね。
あと、販売網を作るっていう場合には、現地パートナーを選ぶっていうのは当然重要なんだけども、販売網がほしいときに、本当に財閥が必要、同業種との合弁で本当にいいのっていうと、必ずしもそうじゃないケースが、特に製造業なんかは多い。欲しいのがチャネルなんであればディストリビューターと組む。ディストリビューターをマネージメントするっていうほうが即効性が早いっていうのが2つ目。
3つ目が、とにかく海外進出と言えば、現法たてて駐在員を送り込んで、気合と根性で何とかせいっていう。これだとなかなか、海外の市場で気合と根性が通じることってそんなにないので、難しいっていう。駐在員がかわいそうっていうのが。一生そこで骨埋めさせてくれるんだったらいいですけどね。3年、5年で帰らされちゃうっていう、結果でないまま帰っちゃうっていうことになっちゃうしね。その3パターンじゃないかなと思いますけど。
東:わかりました。今日はお時間が来たのでここまでにしたいと思います。森辺さん、ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。