東 こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺 こんにちは。森辺一樹です。
東 では、森辺さん、前回はP&Gの紙おむつの話で、国別の投資が非常に発揮できていますよねと。
それで、中国とインドでこれだけのシェアを持っていると、将来的にはアセアンでオセロ返しが起こるのではないか、というようなことを森辺さんは推測されているということでしたが。
そういう中で、ここまで結構はっきりと決められるのは、本社ですとかに戦略的なものがあるから、ということが一つあると思うんですけれども。
こういったP&Gから、日本企業が少し学べるところとか、こういったことをすることに対して、どういったところを見ていけばいいのかということですが。
当然に、これはすごいことだな、というのは分かると思うんですけれども。
森辺 まず一つは、データの分析を徹底的にやるんですよね。これは、このあいだもユーロモニターの鈴木さんもね、おっしゃっていましたけれども。
データ収集というような、いわゆるリサーチと言われるものは、日本企業の中ではコストだと。
東 ええ。言われていましたよね。
森辺 一方で欧米先進企業はユーロモニターをたくさん使っていて、なぜ、それを使うかと言いますと、投資だからと。
その通りで、一旦、その国を攻めますと決めてしまったら、その労力とかお金というのはものすごい額じゃないですか。
けれども、いろいろなデータを集めて分析して、出るべきか出ないべきか、ということを判断するためのリサーチフィーなんて、たいした費用ではないですよね。出る費用に比べましたら。
そうすると、それを使ったことによって、誤った進出をしなくてくなる可能性もあるということです。
ですから、そういう意味では、そこでその費用を使うことはプラスに働くわけですよね。
一方で、どう戦っていけばいいかということも、そのリサーチをして出たデータを分析することによって分かっていくことですので。
そのマーケットリサーチというものを、コストと考えるか、投資と考えるかによって、やっぱりそこは全然違いますよね。
それで日本企業は、明らかにその前提のマーケットリサーチに対する投資が少なすぎるというか、投資ではなくてコストになってしまっていますからね。
東 ということは、コストを抑えよう、抑えようとしてしまっているということですね。
森辺 うん。それで、そこで抑えてどうするんだ、という話で、そこは一つの大きな違いとしてありますよね。
東 鈴木さんも、そういうようなことを結構、言われてましたよね。
森辺 ですから鈴木さんは、まさにそういうユーロモニターを経営していて、よく分かるんでしょうね。グローバル企業からの発注量と、日系企業からの発注量のことが。
やっぱり、そこは変えていかないといけないし、日本の製造業というのはどちらかと言いますと、作るところに重きを置いてきていますのでね、良いものを作れば売れるんでしょ、くらいな話なわけで。
日本国内の市場ではね、それが売れてきていますから。
ですから、そのマーケットリサーチをして、海外の新興国の市場のことを本当に理解をしよう、ということがどれくらい重要なのかということが、まだ、ぼやっとしか分かっていないのではないかな、という気がしていまして。
けれども、それだけ日本企業が良いものを作っているわけですからね。
僕はそこをしっかりと、コストではなくて投資だととらえられるようになれば、本当に日本企業はね、別にP&Gとかユニリーバにかなわないことはないんですよ。
製品が劣っているかといえば、劣っていないんですよね。
ですから、すごく惜しいな、という気持ちがありますけれどもね。
東 そのリサーチを、投資と考えるかコストと考えるかということは、言葉としては分かると思うんですけれども、その意味合いの違いというのは結構大きいじゃないですか。
それについて森辺さんは、投資とはどういうものだととらえられていて、コストとはどういうものだととらえていらっしゃるんですか。
森辺 なんかその、日本企業というのは、結果がありき、になってしまっているんですよね。
ですからベトナムに出ますということが、海外担当役員がバーンと言って、もう出ることを前提で・・・
東 リサーチをするということですね。
森辺 リサーチをするということです。それで、いや、上が言っているので、みたいな感じですし。
一方で欧米に関しては、どこに出るべきなんだ、どこが儲かるんだ、という結果を導き出すためにリサーチをするわけですので。
もうベトナムって決めているんでしたら、そんなリサーチなんてしなくていいじゃないですかって思うこともよくあるわけでしょ。ですから、そこが大きな違いですよね。
ですから、海外担当役員とか社長は、よく分かっていないんだから、最初に決めるな、ということですよね。
東 決める前にフラットに見て、儲かるところに投資をしておくということですね。
森辺 投資をしておく、というのは一つの大きなあれとしてあると思うんですけれどもね。
東 あと他に、そういった先進グローバル企業というところから学ぶというか、こういうことをやっていて、だからきちんとシェアが取れているんですよ、というようなことはあるんでしょうか。
森辺 一つはアジア新興国の人口構造への深い理解をしているということです。それでアジア新興国の最大の魅力は中間層ですよ、ということがものすごくよく分かっているんですよ。
それで日本企業も最初はそれを思っているんですけれども、結局はアジアに出ると富裕層に寄ってしまうんですよね。
でも中間層は、今現在でアジアには15億人以上いるんですよ。
一方で2020年には23億人とか、さらに、それが30億人、40億人へと増えていくわけで、貧困層がどんどん中間層になっていくということがアジアの最大の魅力なわけですよね。
なのに、私たちの商品は良い商品ですし高いから、中間層は買えないから、アジアに出ても富裕層に売る、みたいな感じなんです。
けれども、富裕層の数なんて微々たるものなわけじゃないですか。
それで、富裕層も超・富裕層になると、それほど品質が良くても、普通のものは買わないわけですよね。もう究極的に品質が高くて、ブランド力があるようなものを買うわけです。
ですから、品質がいいだけではダメなんですよ、世界の富裕層が求めるものは。
品質がいいのは当たり前で、それに対してブランド力がある、そして値段はなんでもいいですよ、いくらでもいいですよ、どれだけ高くてもいいですよという、このブランド力が日本の企業にはないんですよね。
品質とブランドを両方兼ね備えていなければいけないんですけれども、日本企業 が過去何十年とやってきてしまったことは、品質だけ磨いてしまって、ブランドを磨けなかった。
そこが一つ、大きな違いがあると思うんですけれども。まあ、ちょっと話はそれましたけども。
その先進グローバル企業は、アジアでは、とにかく中間層をターゲットとしたビジネスから軸ブレしないということです。
一方で日本企業は、自分たちの商品がなかなか中間層に受け入れられないので、アジアの新興国に出ているにも拘らず、いつの間にか富裕層を狙ってしまっている、というのが多いですよね。
東 中間層から軸ブレしないことによるメリットというのは、何がありますか。
森辺 数が多いじゃないですか。23億人なわけですよね。まあ、今現在は15億人の中間層で、富裕層は1億人しかいないということですし。
2020年には23億人に中間層が膨れ上がって、富裕層は3億人しかいないと。それで、この数の違いは、もう絶対的な違いですよね。数で10倍以上あるわけですからね。
それで結局ね、富裕層を狙ったってね、例えばチョコレートにしても、富裕層は1個何千円もするようなチョコを食べるわけですよ。スイスの何でしたっけ、デパートとかで、ゴディバとかですね。
ボクはあんまり好きじゃないんですけど、ゴディバは甘ったるくてね。あそこまで行っちゃうわけですよ。
そうしますと、ロッテやグリコや明治や森永がね、プレミアムチョコレートで200円です、300円ですと言ってもケタが違うわけじゃないですか。
そういうのは彼らはプレミアムだとは思わないわけですよね。ですから、そこまでのゴディバまでのブランド力を付けれれば、富裕層でもいいですよ。
けれども、そうじゃないわけじゃないですか。なのでやっぱり中間層で戦わなければいけないという理由の一つですよね。
これは家電とかでもそうですよ。;
テレビでいくら品質を磨いたとしてもですね。
お金持ちはバング&オルフセンの、なんかものすごい5.1チャンネルとか7.何チャンネルのステレオとセットになった強烈な商品を買うわけじゃないですか。
何百万円もするような商品をね。ですから、ブランド力なわけですよ。
では、バング&オルフセンのテレビと比べて、日本のソニーのテレビは劣っているかといえば、むしろ勝っているわけですしね。
ですから、そういう違いがありまして中間層から軸ブレしない、ということですね。
東 なるほど。では日本企業が、森辺さんは今、いつの間にか富裕層のほうにターゲットが行ってしまっているとおっしゃいましたが、多分、中間層への魅力は分かっているということですよね。
森辺 分かっています。
東 分かっているけれども、いつの間にか富裕層のほうに行ってしまうということは、どういう理由があるというか。
森辺 結局、日本で自分たちが売れてきたもの、実績のあるもの、自信のあるものを、そのままアジアに持ち込むわけですよ。
それで、それをアジアで展開しようとするんですけれども、なかなか中間層には受け入れられないと。
当然そうですよね。日本で100円で売っているものを、向こうでは10円で売らないといけないということですし。そうしますと、10個入りのものを1個売りで売らないといけないですし。
使っている原料が10円だったとしたら、2円に替えないといけない、3円に替えないといけない、ということをしていかなければいけないわけですよね。
そうすると、海外事業部だけではなくて、企画や生産や、いわゆる全ての部門が連携してそれをやらないといけないんですが。
生産にそれを持っていくと、わが社としてはこんな安い原料は使えないとか、わが社として、こんなことは前代未聞だとか、やったことがないとか、そういうような話になるわけですよね。
企画、開発、生産の人たちは、海外の商品などは見たこともないわけですから。
なので、なかなか製品の現地適合化等が進まなくて、いわゆる海外事業部とか営業部の現地の前線に立っている人たちが、もう疲れてきてしまうわけですよね。
東 それで、いつの間にかターゲットが富裕層に絞られてきてしまっているということですね。
森辺 富裕層になってきているということですね。特に、開発生産系が強い会社なんていうのは、まさにそこに陥る典型例で。
ですから、それをね、現場側からね、開発生産側を変えていけるような、ちょっと武闘派のね、そういう人がいないとね、なかなか難しいですよね。
東 なるほど。分かりました。では、ちょっと今日はお時間が来ましたので、これまでにしたいと思います。
森辺さん、ありがとうございました。
森辺 はい。ありがとうございました。
(第229回、終了です)