東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは。森辺一樹です。
東:森辺さん、前回に引き続き、岡崎さんをお迎えして来ていただいているんですが、今回はどういうお話を?
森辺:今回も、前回に引き続き、北京電通ブランドクリエーションセンターの本部長、岡崎さんをお招きして、今回も岡崎さんが東洋経済オンラインで連載をしている連載の中から、私がすごく面白いなと思った記事を使っていろいろと岡崎さんのお話を聞いてみたいなというふうに思っております。岡崎さん、どうぞよろしくお願いします。
岡崎:はい、よろしくお願いします。
森辺:それではこれも最近の記事ですけど、2013年5月14日の連載で、『メルセデス・ベンツ、中国に小学校を作る』という記事があるんですけど、これはいったい何なんですかね。
岡崎:これはですね、面白いんですよ。中国の小学校なんですけど、メルセデス・ベンツ小学っていう名前の小学校が存在するんですよ。これはいったいどういうことかということなんですが、小学校の名前に企業名が入ってるっていうのは非常に奇妙ですよね。日本ではあり得ない。それがメルセデス・ベンツだったりすると、ちょっとかっこよかったりするじゃないですか。いったいどういうからくりでこういうことになってるんだろうというと、実はこれはメルセデス・ベンツの中国でのCSR活動なんですよね。中国に希望工程小学というプロジェクトがあって、地方の貧しいエリアに企業や個人の寄付によって小学校を作ると。それを希望工程小学と呼んでるんですけれども、そこにいろんな企業が日本企業も含めて、実は寄付をしているんです。で、その寄付の結果できた小学校には企業名を入れても構わないことになってるらしいんですね。従ってメルセデス・ベンツ小学校という名前になってると。で、これは実は日本企業もたくさんこのプロジェクトには寄付をしておりまして、例えば、キヤノン、トヨタ、東芝、日立、資生堂、全日空、その他、もうたくさんの日本企業が寄付をしてます。で、その結果、例えば東芝希望小学であるとか、あるいは資生堂の名前の入った小学校であるとか、全日空の名前の入った小学校であるとか、存在するんですね。ですからちょっと、パッと見ギョッとするんですけれども、これは実はそういうCSR、非常に企業の社会貢献の活動の結果として名前が残っていると。ただこれ、ブランディング、ブランド構築の面から見るととても面白い現象で、逆に言うと企業のブランドイメージ向上のためにこういうプロジェクトを使うと。戦略的に使うということすらできてしまうといえますね。
森辺:私、小学校は日本だったんですけどね。神奈川県の海老名市にある、たしか海老名市大谷小学校っていうところに6年間行ってたんですけど、大体日本の小学校だとその地域の名前がついたりするケースがあると思うんですけどね。もしくは私立だと私立の名前ですけど、企業の名前がつくなんていうのは、言ったら日本でジョンソン・エンド・ジョンソン小学校とか、コカ・コーラ小学校みたいなのがあるっていう、そういう感覚ですよね。
岡崎:でもアメリカだと大学名なんかにも、寄付をした富豪の名前がその名前になってたりしますよね。ですからむしろそれはグローバルには普通のことかもしれないですね。
森辺:なるほど。そうすると、なんかこれって、日本の感覚だと寄付を、当然企業も教育機関に寄付をしてるんですけど、それが名前になるっていうことはまずあり得なくて、多分記念碑が建つか、棟にその名前がつく。例えば1号棟は何とか記念棟とかね。そういうのはすごく。
岡崎:そうですね。建物に名前がつくって感じですよね。
森辺:小学校そのものにつけてしまうっていうのが、日本の感覚だとですね。
岡崎:これは私も見て、ビジュアル見るとびっくりするんですけども、もちろん中国語ですけどもメルセデス・ベンツ小学という大きい看板がかかってるわけです。そこに毎日通う子どもたちは、児童たちはどういう気持ちでその門をくぐるのかなというふうに、ちょっと考えちゃいますね。
森辺:なるほどね。まあそれが富裕層が行くような、もし仮に、小学校なんだとすると、その人たちが成長していったら必ずメルセデス・ベンツに乗るのかななんてのは思ったりもするし。
岡崎:そうですね。そういうのもあるでしょうね。要するにメルセデス・ベンツがお金を出してくれてこの立派な小学校ができたという、そこに6年間通うということですよね。
森辺:で、日本だとCSRの活動とかその、慈善事業というか、いいことをするっていうことはどちらかというと隠れてやるというのがわれわれの一般常識というか、例えば寄付をしてもその寄付の額は公開しないし、こっそりやると。それが美徳というようなね。これは僕もすごい好きで日本人のいいところではあるんですけど、この美徳が海外でビジネスするといろんなとこに出てくるわけじゃないですか。一つ隠れて、隠れてっていうか、なんかその…。
岡崎:これは大変面白いトピックなんですよ。私も日本人ですから、やはりいいことをするときに、私がこれをやりました、私が1億円寄付しました、10億円寄付しました、って言わないのが日本人の心だと思うんですが、中国では全く逆です。例えば四川の大地震がありました。その大きい地震があるたびに企業は寄付をします。そうするとどの企業が幾ら寄付をしたっていうランキングがあっという間にでき上がって、ネット上で公開されてしまうと。要するに早く巨額の寄付をした企業はよい企業であると。で、しなかった企業は悪い企業であると。要するに、寄付の金額の多寡で人や企業の価値を判断するような、そういう価値観というのは、私はなじめませんが、しかし中国ではそうなんですね。そういう中国の特性をうまくつかんでるのが例えばサムスンだったりするんですよ。サムスンはCSR活動をいろいろやってるんですね。その中に一心一村という活動があるんです。一つの心、一つの村という活動なんですけどもね。これがサムスンのオフィスとか工場とか、拠点のある周りのコミュニティに対して従業員がボランティアで、どんなかたちでもいいんです、例えば建物の修復であっても、環境の美化であっても、とにかくお金をかけずに従業員がボランティアでできる活動をやっていくということですね。ですから別に巨額の寄付でも何でもないんですが、これにブランド名をつけてるわけです。一つは今私が申し上げた一心一村ですよね。「イーシンイーツン Yīxīn yī cūn」と中国語では言いますが、これはプロジェクトのブランドです。で、それをやってる主体はサムスンなんですが、サムスンは中国でのブランディングは中国語名、「サンシン Sānxīng」という、三つの星ですね、中国三星でやってますと。で、この二つのブランドが、例えばこのサムスンのCSRが新聞で紹介される、記事で紹介されるときに必ず、中国サムスン、三星がどこそこの村でイーシンイーツン、一心一村活動をやりましたと、ダブルでブランディングされるわけですよ、写真つきで。これは大きいですよね。で、日本企業も似たような活動をどこもやってます。植林もやってます。環境美化やってます。しかし、やはり基本的に中国社会に対する貢献について声高に、私がこれをやりました、ということはあまり言わないですよね。ところがサムスンの場合は非常に効果的なブランディングに使っていて、しかもそれが評価されてるんですよ。ちゃんと中国当局から賞をいただいたりとかですね。もちろんサムスンはそれは単なるCSRとかブランディングだけじゃなくて、要するに農村に対して知名度上げていくっていうことはこれからの市場ですからね。家電品、デジタル製品の市場ですから、そこへのマーケットのマーケティング戦略でもあるわけです。で、よいことをしている限りはそこにブランドを名乗っても別に嫌がられないというのが中国の特性だとすれば、そこはやっぱりブランド強化の目的で使っていくべきではないかなと、競争するうえではですよ、気持ちのうえではちょっとわだかまりがありますけれども、しかしグローバル競争をやっていくうえでは遠慮してはいけないのかなと思いますね。
森辺:そうですよね。韓国も、アジア人の中では最も日本人に感覚が近いはずなので、それを表に言う民族かっていうと、中国人よりは日本人に近いのかなっていうイメージがあるんで、そのサムスンがやっぱりそれをちゃんと、ブランディングという理解をして戦略的にやってるっていう、そういうことですよね。
岡崎:それはですね、韓国人はもちろん日本人と共通する価値観も非常に多いと思いますが、しかし商売をするうえでは彼らはグローバル企業です。ですからグローバルな戦略にのっとってやってますから、これは多分中国だけじゃないと思います。インドでも、中南米でもどこでもこういうやり方をしてると思うんですよね。
森辺:そうですね。例えばユニリーバさんなんかがBOPビジネスってあの、ベースオブピラミッドの人たち向けのビジネスで、石けんを使って手を洗うっていうことが非常に重要なことで、感染症を防ぐことだし、菌を体に入れないっていうことで、手をしっかり洗いましょうっていう習慣をつけることをやっていて、これはまあ、ビジネスっていう目的も一つあるんですけど、小さい頃から石けんを使ってると大きくなったときにお金を持ったときに石けんを使うだろうという問題と、あとCSRの目的で、それをやってますよっていうことを結構外に言います。
岡崎:これがグローバル企業の上手なところなんですよ。それはダノンもそうなんですけどね。私、ソーシャルビジネスって呼んで、まあ、ほかの皆さんもそう呼んでるかな。要するにビジネスなんです。しかしやっぱり社会の非常に役に立つと。例えばダノンはバングラディッシュで非常に低価格のヨーグルトを製造販売してるわけです。それはもちろん、ヨーグルトの製造販売で利益も上げてるわけですけれども、やっぱり貧しくて医者にかかれないような方々には日頃からヨーグルトで体の中から健康になっていただくということでは、ソーシャルでありビジネスでありと。やっぱりグローバル企業はその辺が非常に上手ですよね。単に金もうけのために進出してるんではないと。自分たちが現地の皆さんのために役に立つと。そのために活動してるんだというコミュニケーション、それから実際のアクション、上手ですね。
森辺:そうですよね。中国の話に戻ると、ピジョンさんなんかが中国の厚生労働省みたいなところと一緒になって病院の産婦人科で子どもを産んだ人たちに向けて、どうやって生まれたばかりの子どもをテイクケアしていくのかっていうことをしっかり教えていくっていうような取り組みを結構前からやっていて、そこに当然ピジョンさんがそれをやってますから、お母さんたちはピジョンの商品を買ってってなっていくんですけど、あれもこれと近しい活動だなと思って、非常にマーケティングが、そもそもピジョンさんっていうのはすばらしい、グローバルマーケティングの長けた会社だなって前々から私自身は感じてるんですけども、そんなことをやってるっていうことは近いかもしれないですよね。
岡崎:ですから、そこまでくると、本来その企業は何のために存在するのかという、その存在意義をしっかり伝えていくっていうことが大事だということだと思うんですよね。もともとある事業をスタートするとか会社を作るとか製品を売るとかいう、そのもともと、大本には必ず、これで世の中に少しでもよい影響を与えたいとか、何らかのそういうビジョンとか哲学みたいなものがあるはずなんですよね。単にお金を稼ぐためにやってるだけではない。それはしっかりグローバルマーケットでも伝えていかなければいけないと思いますよね。
森辺:そうですよね。Appleもそうですけど、私、中学校からアメリカンスクールに入れられたんですけど、そのときに、まだ日本の学校でコンピューターなんていうものを教わってないときに、学校の中にアップルコンピュータがあるんですよね。で、アメリカの学校ってどこ行ってもアップルコンピュータが当時あって、そのときにAppleのマークって今みたいな真っ白い大きなマークじゃなくて、ちっちゃいレインボーのマークがペチョッてついてるんですけど、あれが何か気になっちゃって気になっちゃって、なんでレインボーで、なんでりんごで、なんでかじったんだろうっつって、先生の机に行くと必ずAppleがあって、コンピューターの教育があったのでコンピュータールーム行くとAppleのClassic2とか1とか書いてあったと思うんですけどね、本当にかわいらしいパソコンがあって、あれもやっぱり学校でAppleのコンピューターを使わせるっていうことから浸透していって、いまだに学校機関とか教育機関、それから病院、Apple使ってるところ非常に多いじゃないですか。一時期のwindows圧倒の時代からだいぶ今コンピューターも変わってきているんですけど、そういうのに近いかもしれないですね。
岡崎:そうですね。グローバル企業はコカ・コーラなんかも、ちょっと長くなるんで割愛しますけど、みんなその辺うまいですよね。
森辺:うまいですよね。なるほど。そうすると日本企業というのはブランディングとか自分たちのCSRの活動をまだまだ表現できてないのかなという、そんなイメージですかね。
岡崎:思いますね。ですからCSR活動っていうその領域だけではなくて、例えばさっきのサムスンの話に戻りますけども、サムスンが中国で使ってるスローガンがあるんですね。それを日本語に翻訳して言うと、「私たちは中国人民に愛される企業になります。中国社会に貢献する企業になります」と。このスローガン、2005年に発表して、ホームページ上や広告なんかにもずっと使い続けてるわけです。で、私、中国で仕事しますので中国の仲間に、中国人の仲間に聞いてみるんですよ。韓国企業がこんなこと言ってるけど信じられるの?と言うと、中国人の反応はある種非常に素直ですよね。いや、これはいいこと言ってると。韓国企業であろうがどこの企業であろうが、こういうふうに中国に対してかかわりたいというの、これは言って全然悪くないじゃんという反応ですよね。日本人的に考えてしまうと、そこまでおもねって言うのは逆効果じゃないかと。
森辺:うん、思います。
岡崎:逆に何か魂胆があって言ってるんじゃないかと思われると困るのでそこまでは言いづらいと。ところが実際に言って現地の人にそれが喜ばれるのであれば、まずそうやって宣言すると。で、実際日本の例えばメーカーであっても流通であっても、例えば中国に進出すれば中国で生産をし、雇用をし、製品を売って現地の人の役に立ってるわけですよね。だからそのことに関して、私たちはお金もうけのためだけに来てるんではないと。やっぱり中国の皆さんの暮らしを豊かにしたりあるいは雇用を創出したりと、そういうことでコラボをするために来てるんだということは声を大にして言っといたほうがいいんじゃないのかなと思います。
森辺:それはすごくアグリー(agree 同意)ですね。そういう日本人のよさっていうんですかね、私もすごく好きなんですけど、やっぱり仕事をしていくうえでその日本のやり方で中国、アジアに行くと通用しないので、これ別にCSRの活動にかかわらず、すべてのいわゆるビジネス活動、行為において、飛行機に羽田で乗って現地の空港に着陸するまでに、何かその、日本人の森辺一樹っていうものを僕はリセットして国に入るようにしてるんですね。そうしないと会議に控えめに臨んでても何も起こらないし、一方的に言われるだけになってしまうし、何も構想進まないっていうところがやっぱりあるので。どこかこう、リセットして。
岡崎:同感ですね。だからそれは例えばアメリカに行って、会議に出たりあるいはビジネスをやったりっていうときには当然アメリカで通用する、まあそういうマインドセットであったり、あるいはコミュニケーションスキルであったり、それが必要だと。で、アメリカに行ったらアメリカのためにもなるんだということを言うわけですよね。ただ中国に対してということになると、やっぱりわれわれの中にどうしても複雑な感情があったり、例えば反日的な価値観を持ったり行動したりしてる人もたくさんいる、その中に飛び込んでいって、自分も現地にどうアジャストしていくかっていうのは、これが例えばアメリカやヨーロッパへ行くときとまた別の一つチャレンジがそこにあると思いますよね。
森辺:そうですよね。でも僕は日本人は絶対的に見てほかの国の人よりもグローバルビジネスやるのが有利であると思っていて、それは例えばパキスタンの人とかインドの人とかって香港に入国するときに必ず通関に時間がかかる。これ、なんか、一種の差別じゃないかなあっていうふうに感じたりすることもあって、国によってはですよ、その国に入国することすら時間がかかってしまって、曲がった目で見られて信用されないでっていう国の人たちっていっぱいいるじゃないですか。けど日本国の赤い、青いパスポート持って、世界中どの国に行ったって基本スッと入れて、あれだけ便利な旅券ってないわけですよね。そんな中で絶対的な信用があって、今ブランド力が落ちてるものの、本来はわれわれ日本の先人が築いたすごく恵まれた土壌があるのだから、もっと果敢にグローバルに挑んでいくべきなんじゃないのかなっていうのは、すごく感じることがあるんですよね。
岡崎:そうですね。今おっしゃったことにいくつか異議があって、一つは日本の戦後の外交の成果で、きちっとした外交をやってきちっとした国家作りをしてきたっていうことの結果として日本のパスポートを持っているとどの国でもほとんどフリーで入れると。これが中国人になってみると大変ですよ。中国の方が海外旅行するのはいまだにもう大変な手続きが必要ですし、特に上海や北京なんかの大都市以外に住んでる方々大変です。ビザ取ったりするのは。で、もう一つは今おっしゃったカントリーイメージですよね。ネーションイメージ、国家イメージですよね。日本のパスポート持ってる日本人であればそんな悪いことする人はいないだろうというようなイメージがやはりでき上がっている。ですが、これに関してはやっぱりほかの国も、例えば中国でも国家イメージを向上するための施策をいろいろ打っていますからね。これは日本も意識的にそれはグローバルなコミュニケーションであったり、あるいはプロジェクトですわね、海外と、いろんな国と一緒にプロジェクトを進めていくことを通して、日本のイメージをしっかり向上させていくということが必要だと思いますね。
森辺:そうですね。まとめると、もっと主張していいと、そういうことなんですかね。もっと表現をしていくというか。
岡崎:はい。主張していくということですね。あと、主張する際には当然、ツールである言葉というものが必要となりますから、現地の言葉でどう主張していくかと。これがまた次なる課題になってくるわけですね。
森辺:なるほどなるほど。いや、大変面白い話をありがとうございました。
岡崎:こちらこそ。
森辺:じゃあまた次回も岡崎さんをお招きして、いろんなお話を聞いていきたいと思いますので。
岡崎さん、どうもありがとうございました。
東:ありがとうございました。
岡崎:ありがとうございました。