東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:では前回に引き続き大石先生をお迎えして、今日はグローバル・マーケティングというところで、スピード、現地適合化、チャネルというところについて、少しお話いただきたいところですけど、どうですかね、森辺さん。
森辺:いやあの、これも先生の記事をちょっと拝見させていただいて、ちょうどこれはいつですかね、2012年の記事なんですけれども、グローバル・マーケティングのポイントとはスピード、現地適合化、チャネルだということを先生が書かれている記事なんですが、私もそのとおりだなというふうに思って、私は仕事柄、チャネルの構築の支援をすることが非常に多かったんですが、そのチャネルの構築っていうのが、実は現地適合化とかスピードとか、そういったものと密接に関係していて、この3つが本当に重要な要素だなというのを日々感じておりましたので、こういうことを書かれている先生の記事を読んで、このときも大変びっくりして衝撃を受けた記憶があるんですが、今日はその辺に関して、明治大学の大石教授にお話を聞いていきたいと思います。大石先生、よろしくお願いします。
大石:はい、よろしくお願いします。
森辺:では先生、グローバルな視点を持つということで、スピードと現地適合化、チャネルが重要だというふうにおっしゃっているかと思うんですが、このへんについてちょっとお話をいただけないでしょうか?
大石:そうですね、前回現地適合化の話はさせていただきましたけども、意思決定のスピードはなぜ必要かという、簡単な例でお話しますと、今日ここで経営会議をやっていると。そうすると、昨日までのデータに基づいて我々は意思決定を迫られているわけですね。ところが、そこが話し合いでなかなか決まらない。例えば日本だと6対4で賛否両論になったら、また来週やりましょうとか来月やりましょう、という話になる。で、1カ月、2カ月後に前のデータに基づいて意思決定をすると、もうこの2カ月の間に状況は変わっているわけですね。そうするとそれがいかに正しい戦略だとそのときに思われても、もうこの状況が変わっている中では間違ってしまう。だから、意思決定のスピードが速いということは、マーケティングが市場ニーズに対応するということであれば、その市場ニーズがまだ旬なうちに意思決定をしなければいけない。ところが日本の場合は、稟議制だなんだっていう、組織的な問題もあって、これが非常に遅いと。これがやはりいろんな問題を引き起こしていると思っているので、最初に書いたっていうことですね。
森辺:なるほど、まさにそうでございまして、私ちょうど2002年くらいに中国の深センっていうところに住んでいたんですけどね、その時に経済成長が、ちょうど中国はもう、イケイケドンドンで10%とかっていう経済成長をしていたときで、一体経済成長10%ってどんな早さなんだろうなあって考えていたことがあったんですね。マンションに住んでたわけなんですが、経済成長10%の国に住むとですね、周りの風景が3カ月タームで変わってっちゃうんですよね。ビルがあったところが更地になって、そこにまた新しいビルが建ってっていうことが3カ月タームで起こっていて。これだけのスピードで町の風景が変わるってことはもう市場がどんどんどんどん変わっていって、当時覚えているのが、当然日本人でですね、深センという地域にいたんですけど、私スーツを着て仕事を最初していたんですね。で、そのスーツを着て仕事をしてるっていう姿が、現地の人たちからは宇宙服を着て仕事しているよみたいな、そんなイメージがあってですね、すごくジロジロ見られて、逆に見られるのが気持ちかったりもしたんですけどもね、それでしつこく暑いのにスーツなんか着ていたんですけども(笑)、それがですね、本当に何ヶ月、何年とかってしていくと、深センの人たちもスーツを着だすわけですよ。ですから着る服だけにしたってそれだけ早く変わるわけですから、まさにアパレルなんかの業界で言ったら、それ、スピードですよね。今の話にまさに当てはまるな、なんていうのはすごく感じますね。
大石:前回、先進国のマーケティングと途上国のマーケティングは違うというお話をしましたけども、それはまあ所得水準だとか、文化だとか、経済発展程度の差っていうのが大きいんですが、今おっしゃったように、変化率が違うんですね。日本や先進国の場合は成熟化しているので、半年間見なくてもそんなに大きくは変わらない。ところがそういう急速に成長しているところは、半年も見なければガラリと変わってしまう。そこに合わせた意思決定ができなければですね、これは競争に勝てるわけがないという、そういうことですよね。
森辺:そうですよね。特にアジア新興国の経済成長というと、今でもやっぱり5、6%の成長をしてますから、それは非常にスピードが重要だなと。やっぱり日本人はどこかでスピードというものを置いてきてしまったのかな、ここ20年は特にそうなのかなと、どちらかと言うと景気回復を待つというようなイメージが大きいのかなというのは、個人的には感じたりしますね。
大石:もう1つは、結局その、本社と現地子会社の意思決定のエンパワーメント、まあ権限移譲もその中に含まれるんですが、そこのやっぱり差があると思うんですね。それを本社が常にコントロールして、現地がこういう問題意識を持っても本社にお伺いを立てなければいけない。そこにやり取りに時間がかかり、本社の経営幹部の意思決定に時間がかかると、どんなに現地が急いで意思決定をやりたいと思ってもできないという問題がありますよね。
森辺:それも実は私、身をもって経験したことがございましてね、今のこのスパイダーという会社の前の、僕が一番最初に創業した会社を、中国の深センで創業したんですけれども、その会社、今でも会長を務めておりますが、新興国のマーケットリサーチをする会社なんですね。当時、現地を本社として、現地で起業したので、日本の企業の現地法人に予算を取りに行っていたんですが、2000年代の前半とかっていうと、やっぱり現地に権限移譲全くされていなくて、現地ではニーズがあるっていうのは思っているんですね。で、私の提供しているサービスを買いたいというニーズはあるにもかかわらず、現地のトップが予算を持たされていないと。で、それを本社にお伺いを立てないといけないっていうことで、現地で営業しているんですけど本社にお伺いを立てて、で本社が、日本に法人がないのかと。ないんだったら振り込めないぞということで、泣く泣く2008年に日本に本社を移したという、そんな経緯がございましてですね、まさにそれは感じますね(笑)。そのとおりだと思います。
大石:つい最近、ある大手電機メーカーのインドにおけるテレビ開発の、ちょっとお手伝いをというかたちで、ある会議に出たんですが、その現地のスタッフがインドから来られて、本社の企画だとかですね、そういう人たちと、二十数名で話し合いをした。で、僕はその時途中でアンケートを取ったわけですね。製品開発のリードタイムがどのくらいで今行われていますかと。そしたらインドの人たちは1年から2年かかっていると。遅すぎると。こう言っているわけですよ。本社の人たちは、いや6カ月で済んでいると言ってると。この認識ギャップがもう全然違うわけですね。だから現地は不満があるけれども、本社はもう、私は一生懸命やっているじゃないかと。場合によってはですね、もうちょっと長くしてもらわないと困るという企画の人もいるんです、本社の。もう十分な時間をかけて、いいものができないと。だけど考えてみたらですね、本当に開発にかかっているのは、やっぱり半年で彼らもできると言ってる。あとは稟議だとか会議ですね、中の。これで時間をたっぷり取っているというわけなんですね。
森辺:なるほどですね。それはあれですね、よく駐在員さんが現地のスタッフと日本本社の間で大変苦労されて、結局現地に駐在員はいるので、現地スタッフが言っていることは大変納得をしていて、一方で、本社の考えも、自分はずっと本社で何十年も勤めてきたので分かると。その間の板挟みになって、大変な苦労をしている駐在員が何人も、要はたくさんいるっていうのもそうですし、一方でその、本社が言っていることがなかなか現地の実態に合ってなくて、OKYなんていう言葉が非常に流行っていますが、お前が来てやってみろ、というようなことで、駐在員同士が合言葉のように叫んでいる言葉なんですが、それと同じような感じになるんですかね。
大石:そうですね。先月のグローバル・マーケティング研究会はイトーヨーカドーの中国総代表の三枝さんに来てもらってお話してもらって、質疑応答のときにこういう質問が出たわけですね。どこまで三枝さんが意思決定できるんですかと。本社にどれだけ尋ねなければいけないんですかって言ったら、三枝さんは、超大型投資だとかそういうものは当然、本社に一応連絡をして許可を取らなきゃいけないけど、基本的には全て自分が決定できるとおっしゃっていましたね。これがやっぱり、イトーヨーカドー成都店が世界ナンバーワンの売り上げを誇り、1つの、中国で成功している唯一の企業だとか、まあ唯一ではないとは思うんですが、言われるやっぱり1つの、1つの理由だと思うんですね。
森辺:結局、本社で海外事業を統括してるようなトップマネジメントの人たちが、ドメスティックであるから当然全てを知りたいと。で、その上で判断をする。私も会社を経営していて、分からないことは全部知りたい、その上で判断をすると、そんなふうに思ってしまうことってあるんですけど、分からないことを全部自分で理解しようとしてたらですね、その判断のスピードって当然遅れるんですよね。で、そのために現地に責任者、いわゆる、中国だったら総経理とか、他のアジアの国だったらリージョナル・ヘッドクォーターのCOSとか、そういう人たちを送っているにもかかわらず、その人たちが名ばかりのCEOになってしまっていて、結局本社の海外担当役員であれば、その人たちにある程度権限を移譲してスピーディーに判断させて、それで生じた責任はやっぱり取るっていうのが、本社の責任なのかなっていう気がすごくしてですね、私もこれは取り返しがつかないような問題に関してはやっぱり最後、ジャッジメントを自分でしますが、ある程度のことは部門の責任者に任せて、そこがやった失敗はもう取らざるを得ないと。取るしかないと。それが仕事なんだなっていうのはどっかのタイミングで理解をしたんですけど、やっぱりそういうことが必要なのかなっていうのは、すごく思いますね。日系企業の現地の法人をご支援している時にも、やっぱりこう、支援をしながら現地のスタッフと一緒にやっているんですけど、いちいち本社の了承と本社の決済を取らないといけないっていう、この日本企業の仕組みは、非常にクリティカルだなというふうには日々感じたりしていましたね。
大石:そうですね。これはもう、消費者の現地の変化に対応できないということと同時に、取引先やクライアントからの信用を全く取れないわけですね。なんで意思決定できる責任者を【コンタクトバース】に送らないんだと。全部本社にお伺い立ててね、それは持ち帰って本社で協議してからお答えします、なんてそんなのもう、相手にされないですよ。だからこの、本社と子会社のあり方、まあ以前から多国籍企業でも問題になっているんですが、やはりそこの成熟度が日本企業の場合にはまだ不足していると。それにはいくつか理由がもう明らかにあるんですけどもね、そのスピードをとにかく高めるということは、何物にも増して、まず非常に重要なことだと。で、このスピードを高めることをやるとですね、当然その成功確率が80、90%なんてならないんですよ。だから60%の成功確率があったらGOだ、そしてやってみて、修正をやっていくくらいの勇気が必要なわけですけどもね。ところが稟議にかけると、なんだ、それはまだ80%じゃないかと。もっと成功確率を高めてからもう一回稟議書を出せ、みたいな形になってくる。これやめましょうっていう話ですよね。
森辺:特にアジア新興国だと、圧倒的に変化のスピードがものすごく早いので、そのスピードをまずしっかり理解しろと、そういうことですかね?なるほど、分かりました。そしたら次にですね、先生、チャネルのお話に移りたいと思うんですが、そのへんについてお話をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?
大石:そうですね。基本的にマーケティングの4Pというのは、プロダクトで始まるわけですね。で、これは世界的に正しいと僕も思うんですが、海外にマーケティングを持っていく場合、まあ進出する場合と言ってもいいかもしれない、そのときにはだいたいプロダクトはもう本国で使ったものを持っていくわけです。先ほど言ったように延長するわけです。あるいは微修正するわけですね。これでやっぱりスタートする。そうするとプロダクトはあると。それを今度はどう売るかって話になってくるわけですね。チャネルの重要性が国内マーケティング以上に重要になってくるわけです。もちろん製品開発はまた重要ですから、これは適合化のところでお話しましたように、これはあるんですが、このチャネルをつくるのが、その先進国には全く違う環境、つまり卸も発達していないし、小売りもモダントレードがないし、インドネシアみたいに1,000以上の島々があってと。中国なんかはあれだけ大きな国でね、省によって政党が違う。それからインドも28も州があって、全部政治システムも違うし、州をまたげば税金もかかると。こういうところでチャネルをつくるっていうのは本当に大変なんですね。だからそこに成功した企業が、いわばその国で成功した企業といわれているわけです。
森辺:これもうお客さんによく、パートナーを紹介してくれ、パートナーを紹介してくれと、まあいいチャネルパートナーを紹介してくれと、こういうわけなんですけどもね、日本のように1次卸、2次卸、3次卸、消費者、とかですね、1次卸、2次卸、3次卸、工場みたいなBtoBでもBtoCでも、構造がきれいになっていなくて、日本企業が現地でチャネルを作るっていうことは、チャネルが既に存在するんですけど、それが今先生がおっしゃったみたいに、柔らかくて、また日本とは全く違って、ですからなんとなくチャネルのようなものはあるんだけども、それを自社の本当のチャネルに作り上げていかないといけない。先進国だと商品をしっかりと存在するチャネルにぽーんと乗せて流していくと。要はパイプが通っているわけですよね。ただ新興国の場合は、そのパイプが細かったり、太かったり、穴が開いてたり、また向きが違ったりと、いろんな複雑な要因があって、単純に物を乗せてもしっかり流れていかないと。それを流すために本当にチャネルを作っていくっていうことが非常に重要だなというふうに、支援をしていて思うんですけど、そのへんは、まさに今先生がおっしゃっていたことっていうのはそういうことですかね?
大石:そうですね。だからチャネルの作り方はオーソドックスには国内と基本的には変わらないとは思うんですよ。でも今言われたように、もともとないもの、あるいは先進国とは全く違うチャネルにどう対応するか、例えば途上国の場合には、パパママストアといわれる小さな小規模な小売店が各地に点在している。で、そこにどのように流していくかっていうのを自前でやるか、合弁相手、提携相手にやってもらうか、これはいろいろなやり方があるんですね。何か正解が1つあるというわけではない。でもいずれにしても、チャネルをどう作っていくかということが、やっぱり極めて重要なポイントになるわけですね。
森辺:そうですね。逆に言うと4Pの中でも、Place、チャネルっていうのはPlaceのところに当たるんですけどね、ここがやっぱり最も重要と言っても、私も過言ではないんじゃないかなというふうに思ったりはしています。
大石:例えば、インドネシアのマンダム社の場合には、合弁相手が非常によくて、そこがチャネルに本当に力を注いでくれて、営業員の教育から、それから津々浦々のところまで、まあもちろんマンダムも勧誘しながらそれをつくっていくんですが、やっぱり最初の提携相手に恵まれて、そしてそれが非常な力を発揮してくれたから、マンダムはインドネシアでのナンバーワンの化粧品メーカーになれたと。一方で味の素さんみたいに、自前でチャネルを作っていって、タイだとかインドネシアで成功されている例もあるわけですよね。だからそれは企業によっていろんなパターンがあるんですが、我々はそれを1つ1つを丁寧に調べてみていって、自分にとってはどのやり方が一番合うのか、で、同じところに、ベトナムに出ていってもある企業は提携でうまくいったけど、別な企業はうまくいかなかったと。例えばエースコックは、ベトナムでいい合弁相手に恵まれて成功したんですね。最初はそこに、チャネルをおんぶに抱っこでやって、そのあとかなり自前でやって。同じ時期に中国に出るんですが、中国の合弁相手は悪かった。撤退です。同じ会社でもこれが起こるんですよ。
森辺:なるほど。マンダムさんなんかは、インドネシアの人たちは、マンダムはインドネシアの企業だと思っている人も少なくないですからね(笑)。
大石:そうですね(笑)。
森辺:なるほど、大変おもしろい事例ですね。分かりました。先生、じゃあそろそろお時間になりましたので、今回もこのへんで。また次回よろしくお願いいたします。
大石:はい、よろしくお願いします。
森辺、東:どうもありがとうございました、
大石:ありがとうございました。