東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:では森辺さん、通常は4回なのですけど平野さんとのお話が盛り上がったので、第5回目ということで。
森辺:ヤクルトの元専務、平野さんをお招きして。平野さん、ゲストは通常4回でやっているのですけど、あまりにもお話が面白いので第5回ということで、よろしくお願いします。今回お聞きしたいのですけど、1つヤクルトの世界ブランド化戦略においての成功事例と失敗事例みたいなのはお話できる範囲でお聞かせいただきたいのですけど、いかがでしょうか。
平野:ヤクルトの世界ブランド化、いわゆる私がヤクルト本社の国際担当の責任者になって、常にずっと思っていたことはヤクルトの代田稔の考え方というのは普遍価値としての健康というものが中軸であると。だから、普遍価値の健康というものは世界の人たちが必ず期待していることであるという考え方のもとに、そのためにはヤクルトは必然的に世界ブランドにならざるを得ないと。それから世界ブランド化するというのは自分の役割ではないのかという気がしました。ただ、世界ブランド化していくためには東南アジアや南米なんかの世界のローカルみたいなところでビジネスをやっているだけではダメだと。やはり先進国でやっている、先進国でブランドが出ていくということをやらないとダメだということがあって、インドネシアの合弁契約がうまくいって、インドネシアの非常に実績がよくなっていくという上り調子のときに、私の世界ブランド化というものを実行に移さないといけないということにしたわけで。先進国と言いますけど、アジアにより近いところのオーストラリアで先進国ビジネスの小手調べを少しやったのです。小手調べをやったその頃、香港が中国との契約が切れるということで香港をどうするかという問題がありました。香港から大勢の人がオーストラリアに移住したという状況もありまして、今アジア的な色彩もかなり強いオーストラリアも先進国だということでオーストラリアの進出を決めた。オーストラリアに進出をしたら、どうも感触としてオーストラリアはいけるなという気がしたわけです。私もメルボルンなんかに行って、メルボルンに工場を作ったり、それからケネットといういわゆる1人ビクトリア州のトップなんかにも会って、ケネットという人たちは議会の人たち。僕はビクトリア州議会でも演説したことありますけど、ケネットさんと非常に僕は気が合うようになって、シドニーではなくてメルボルンで工場と拠点を作った。いけるなという感触がもてたというのはケネット以下が健康食品であるヤクルトに対して大変応援してくれたということがあります。ところがやはり世界ブランドからいくと、先進国であると言ってもオーストラリアだけではダメだと。アメリカとヨーロッパという問題がある。それで、ヨーロッパとアメリカということから考えた場合に、僕はアメリカの歴史ということも結構いわゆる雑毒で本を読んでいるけれども、どうもアメリカ人は好きにはなれない。アメリカの文化の大きな基本は価格が一定であれば必ず大きいほうを取ると。量が一定であれば必ず安い方をとると。これがアメリカ人の文化であると僕は思っている。ヤクルトは逆なのです。価格が高いわりに量が少ない。全く逆。
森辺:少しでかいですよね、ヤクルト。海外で売られているのはボトルで。
平野:少し大きく見える。要するに、価格が一定の場合は大きいほうしか選ばない。量が減っている場合は安い方しか選ばないような文化を僕はどうも性に合わない。だからヨーロッパだと。
森辺:質に対する中身に入っているもののこだわりが薄いという話ですよね。確かにそれは言えています。無駄にでかいですものね、全部。なるほど。
平野:僕は、アメリカは後にして、アメリカはいずれメキシコ辺りからどんどん伸びていく、メキシコ辺りから入るだろうということでほったらかしにして、オーストラリアとヨーロッパと両方で、ほとんど同時に僕はスタートするようにした。ヤクルト本社の役員連中全員が反対した。そんなこと出来っこないと。1カ国だけでも大変なのに、そういうスタッフもいないし、それからそういうことをやれるような人間はヤクルト本社にはいないと。だから僕は役員会でごり押しを押し通した。どうしてかというと、世界ブランド化というのはそんな時間をかけるわけいかないよと。やはり出来るだけ早く世界ブランド化して出来上がったブランドからブランドに助けられて他の国にも出て行ける地盤を作る。だからアメリカ。ヨーロッパとオーストラリアを同時にやったけど、経営の仕組みだとか何とか、あと文化が東南アジアと極端に違ってくるわけです。まず、ヨーロッパやオーストラリアではヤクルトおばちゃんのシステムが出来ないのです。これは訪問販売に対する規制が強すぎる。要するに、注文を受けたものを届けることは出来るけど、注文を取りに回るということは出来ないのです。だからヤクルトおばちゃんシステムは成り立たない。そうすると、あとはスーパーだとか何かでしかない。
森辺:小売りですね。
平野:ヨーロッパは、僕はずっとヨーロッパ、松園さんが僕にヨーロッパを全部調べてこいということもありまして、ヨーロッパはずっと北欧から南欧まで回って調べたのです。やはりヨーロッパで最も商業的にいわゆる性に合うのはオランダだと。
森辺:そうすると、一気にオーストラリアとヨーロッパ。アメリカを除いてやったのですけど、ヤクルトが当時進めてきた、当時から進めてきた世界ブランド化というのはヤクルトというブランドを作るのはチャネルをとっていくことがイコールつまりはブランドになると、そういうお考えのもといわゆるチャネルづくりをやっていったという、そういうイメージなのですか?
平野:いや、難しくチャネルとかなんとかと考えるのではなくて、要するに売れるところで売れる方法でというラフな考え方です。結果的にそうなるということなのですけど。結局やはりスーパーマーケットなんかのいわゆるなんかで勝負をしないといけないけど、問題はヤクルトという商品というものがよく理解できない限りはスーパーマーケットも置いてくれない。それから、置いてくれても非常に狭い範囲でしか並べてもらえないと。そうすると、やはりそこで一番重要なポイントが何かというと、ヤクルトが健康にいいという理由は何だという、理由を説明しないといけない。だんだん医学分野、細菌学分野に入らざるを得ない。スーパーマーケットでそういう話をしたって、スーパーマーケットの連中は知らない。やはり大学回り、もしくは病院の医者とのコンタクトが非常に大事になる。だからヤクルト研究所の医学的な発表だとか何とかというのを英文のやつをあちこちに配ったり、それから開業医なんかにヤクルトのメカニズムを素人が分かりやすいようなことをいったり、ということが非常に大事になってくる。そして、その医者や学者からスーパーマーケットにヤクルトは置いたほうがいいかも分からないよと言わせるという方法を取る。
森辺:そうすると一般のスーパーマーケットに置かれている他のドリンクに比べて、参入障壁は高いのだけれども、いったん医者をくぐっていいかもしれないよと言ってもらえたら、いったん入り込んでしまうとかなり差別化された商品なので。
平野:差別化されているから少しずつ広がっていくわけ。普通の飲み物、ドリンクというのはのどの渇きをいやすのが主体になるわけです。ところがヤクルトは、自分の健康のために飲むということをお客さんがいかに知るかという問題。
森辺:そうですよね。だから必ずしも御社がたどって、ヤクルトがたどってきた道が他の日本企業にとって全くイコールで参考になるかというとそうではないけども、ヒントにはなりますよね。独特な業種といったら独特な業種ですよね、ヤクルトは。
平野:フィリピンなんかでは、ヤクルトを医者が勧めるのです。それはどうしてかというと、開業医なんかは患者の経済的なポジションを知っているわけです。薬の高いやつは絶対勧めないのです。ヤクルト飲め、ヤクルト飲めと。ヤクルトが1番安いのです、薬品に比べると。
森辺:僕もフィリピンのスーパーのヤクルト専用の冷蔵庫がって、そこにヤクルトが何百本と入っているのですけど、アジアへ行くとあまり食が忙しくて食べられなかったりするとお腹が便秘気味になるので、ヤクルトを飲むようにしているのですけど、1発ですよね、あれを飲むと。
平野:店ではちょっと高いのです。店ではちょっと高いのですけど、薬に比べたら安いのです。またそれを医者が言ってくれれば信者が出来るわけです。
森辺:そういう平野さんがいらっしゃったからその赤字を垂れ流していた海外の法人がどんどん現地に適合化したマーケティング戦略だったり、結果マーケティングで、平野流で言ったら現地で問題をしっかりと明らかにしてそれに対して退治してきてやってきただけだというお話だと思うのですけど、どんどん良くなっていったという、そういうことなのですよね、まとめると。
平野:僕が10年間も再建に没頭していたということで、みんな平野さん大変だよなということを言うのですけど、違うのです。再建は1番優しい仕事なのです。それはどうしてかというと、失敗事例がたくさんあるわけ。その失敗事例をやらなければ伸びるしかないのです。だから、再建というのは1番優しい仕事。
森辺:新規で行くと失敗事例がないですものね。
平野:だから僕は再建屋といわれても、それは一番易しい仕事だと割り切っているから、僕は再建の仕事はすぐ飛びついてしまうわけです。まず、再建の仕事なんかは誰も飛び込みたくないです。飛び込みたくないから競争相手がいない、ライバルがいない。ライバルがいないし、業種なんかも最近の仕事というのは高く評価しないのです。どんどん成長する成長ビジネスには目がいくけど、再建みたいなネガティブなよそ者はあまり目が行かないのです。そうすると、上司の言うことなんかほとんど聞かないでやりたいことが出来ると。やりたいことが出来るということと、ライバルがいないということ。それこそやりやすいのです。
森辺:確かに言われてみればそうかもしれないですね。
平野:実績というのは落ちれば底がありまして、あと上がるしかないという要素がある。要するに先輩がやってきた失敗事例というのをやらなくて、それと違う発想でやれば上がるしかない。だからそういう意味で再建はすっきりです。
森辺:なるほど。分かりました、平野さん。全5回にわたって本当にいろいろなご経験をお話いただきありがとうございました。時間も来てしまい、まだまだお話を聞きたいところではあるのですけども、これで一旦終了とさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。