森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。今日も引き続きですけど、今日は契約交渉の話ですかね。強い販売チャネルをつくるには3つのことが重要ですよと。発掘選定、契約交渉、管理育成と。その2つめの契約交渉について今日はお話をしたいと思うんですが…。
契約交渉っていうのが、「取引条件を決めるのが契約交渉だ」みたいな、そんなふうに考えている、「うちの会社はもう海外で取り引きをずっとやっているので、うちの海外のディストリビューターの契約書はこうなんです」みたいな、「決まっているんです。法務が決めているので」みたいな、「こう書いてありますけど、実際はこうならないので」みたいなね、そういう会話が行われて、ASEAN、中国、特にインドなんていったら首をかしげちゃうみたいな、「えっ、契約書に書いてあることがすべてでしょ。契約書にはこう書いてあるけど実際はそうならないのでって、そんなの通用するの日本ぐらいでしょ」っていう、そういう不思議な世界がそこには広がっているんですけども。僕もその不思議な世界が大好きですけども、空気を読んでみたいなね。たまに担当者が変わっちゃって、「あーっ、空気読んだのに、ガラガラポンでなくなっちゃった、話」みたいなことはよくあるわけですけども。一歩日本から外に出たら、「契約書に書いてあることがすべてで、書いてないことは何でもやっていい」というふうに思っておいたほうがいいぐらいなので、「契約書にはこう書いてあるけど、実際はそうなりませんから」みたいなね、意味不明なことっていうのはないですよと。
そんな中で、契約交渉は戦略を決めるための舞台なんですよね。日本の、僕もたくさんの企業のね、契約書を今までレビューしてきましたけど、基本的に守りは完璧ですと、自分たちがいかにリスクを取らないようになっているかという部分に関しては、もう完璧にそれができあがっている。例えば、支払い条件をはじめとしたブランドの棄損であったりとか、やってはいけないことみたいなことに関しては非常にガチガチに固まっていると。一方で、じゃあ、攻めの部分を見てみると、これまた非常にもったいないことをしていて。例えば、どういうことかと言うと、もう事実この1社しか当面ディストリビューターとしては使う予定がないのに、何かあったら困るから一応非独占にしているとか。あと、もう取りあえずディストリビューターと付き合うということは1年なんかで終わらないわけですよ。2年3年と契約って絶対続いていくんですけど。何かあったら怖いから一応単年度契約にしておくみたいな。なので、一応、目標数値の設定みたいなものは、契約書の外には「何となくお互いこういう数字を目標にしましょうね」というのはあるけども、契約書には明記しないみたいなね。そういう感じなんですよね。これだと全然攻めてなくて、ディストリビューターにとって1年で切られるかもしれないメーカーの商品を本気の組織をつくって本気のチームで投資して売っていこうなんて、オーナーだったらなかなか思わないですよね。なおかつ、非独占であると。台湾の企業とか、日本に精通していて日本のこのわびさびみたいなところ、日本ってこういう国だよねっていうこととかよく熟知しているオーナー社長だったら、「まあまあ、またか、こいつら。まあ、でも、こういう人たちだから合わせておこう」って理解を示してくれるかもしれないけど、なかなかそこまで日本のプレゼンスも高くないので、そういう解釈はなかなかしてくれなくなってきている中でね。
僕だったら、独占でなおかつ複数年度契約にして、その代わり、目標数値を契約書に盛り込んで、1年目でいくらやってください、2年目でいくらやってください、3年目でいくらやってください。例えば3年の契約で独占、なんだけども、1年目いくら、2年目いくら、3年目いくら。そして、仮に1年目の目標が達成しなかったら、独占から非独占に一旦戻しますよ、3年契約から単年度契約に一旦戻しますよという選択のオプションがわれわれにあると、メーカー側にあるという条項をしっかり設けてしまえば、これは全然リスクないんですよね。なんだけど、そういう攻めの契約書にはなってなくて。そうしたほうがディストリビューターも、3年の複数年契約で独占だと、この数字やれば絶対にそれが守られるわけですから、契約書上、絶対達成するぞと真剣に考えるし、投資をしようという意欲が湧いてくるわけですよね。そうすると、そこに設定した金額というのは、彼らが、「まあ、できるかな、何となく…」みたいな数字ではなくて、「絶対にやる」みたいな数字がしっかり出てくるので、契約交渉している期間の戦略の詰めがめちゃめちゃ現実的なラインに乗ってくるわけですよね。そうすると、そのあと本当にその通りにしっかり進んでいくので。契約書にサインするまでに、それぐらいの粒度というか、濃度というか、密度でやっぱり詰めていかないと、なかなか契約書と同時に初回注文ドーンと取って、目標をしっかり達成するみたいなことって難しくて。
うちの会社は、フルフィルメントのサービスでお客さんのそういった業務を請け負っているのと、われわれ自身がトレーディングをやったりもしているので、まさに自分たちがトレーディングをやる中でそのノウハウを使っているわけなので、やっぱり今までのトレーディングって、「とにかくコンテナを輸出しよう、FOBジャパンでどれだけ輸出できるか、その先のことはよく分かりません」みたいな世界観だったわけですけども、それとはまったく(違う)概念でトレーディングをやっていて。向こうの港に着いた商品が、どういう中間流通、どういう小売、どういう消費者に行きわたっているのかっていうところを重要視していて、まさにマーケティング力を最大限活用したトレーディングをするわけなんですけど。それをやっていると、やっぱり今言ったようなディストリビューターとの契約交渉というのがめちゃめちゃ重要で。これは小売との契約交渉になる場合もあるので。そこの日本の港から向こうの港までじゃなくて、向こうの港から消費者までのところをガチガチに詰めていかないと、継続的にコンテナなんて輸出されていかないんですよね、トレーディングされていかない。別に輸出じゃなくたってね、現産現販でもいいですけども、売上は上がっていかないので、やっぱりこの契約交渉というのは大変重要ですよというお話でございます。
それでは皆さん、今日はこれぐらいにして、また次回お会いいたしましょう。