第153回 アジア新興国の近代小売と伝統小売 その2
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テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日は、前回に引き続き、アジア新興国の近代小売と伝統小売ということで、その2ということでお話をしたいと思います。今回、いきなりこの図を出しているんですが、前回、近代小売って何なのか、伝統小売って何なのか、それぞれの定義を整理させていただいたわけですけども。今回は、この近代小売と伝統小売の各国における比率のお話です。この後ろの図がその比率を示しているんですが、これは金額ベースです。ソース元は、ユーロモニターのデータをソース元にしているんですが、いわゆる各国によって近代小売と伝統小売の比率って全く違って、分かりやすく言うと、中国とかマレーシア、タイは、ほぼほぼ4割~6割がた、小売の近代化というのは進んでいて。中国はちょっと引き合いに出すと分かりにくくなって、中国の場合、インターネットの流通がものすごく大きく介在してくるので、これはもう世界中どこを見ても類がないぐらいの割合で介在しているので、ちょっと中国は置いておいたとして。近代的なASEAN、すなわち、シンガポール、マレーシア、タイランド、SMTですね、こういった近代的なASEANに関しては、だいたい4割5割、もう小売の近代化というのは進んでいるんですよね。なので、仮に現地法人をある程度の規模で出しても、近代小売さえしっかり配荷ができていれば、まあ、そんなに大量に人を雇って規模を拡大してということをしなければ、製造業、いわゆる消費財メーカーは黒字化することができるんですね。
一方で、伝統小売の存在が非常に重要で難しいというのが先進ASEANではなくて、新興ASEANで、つまり、VIP、ベトナム、インドネシア、フィリピンの3カ国。この3カ国に関してはまだ2割とか、2割以下の比率で近代小売が存在すると。これ、金額ベースでこうなっていて、前回の番組でお話した通り、ベトナムには近代小売が2,000店舗しかないと。じゃあ、インドネシアはどうなんだって、インドネシアというのはベトナムに反してASEANで実は最も近代小売が多いんですよね。3万5,000店舗ある。ただし、間違えてはいけないのは、3万5,000店舗のうちの3万店はアルファマートとインドマレットという2大巨塔と言われているインドネシアの現地のコンビニエンスストアなんですね。数年前にセブンイレブンが撤退をしましたけども、セブンイレブンまでもが撤退を判断をしてしまうぐらいに、ものすごく店舗数を伸ばしている2社のコンビニエンスストアで3万店が押さえられていると。そうすると、残る近代小売って5,000店舗ぐらいしかないんですよね。また、インドネシアはハラル対応なので、もう最近の傾向ではこのアルファマートもインドマレットもハラル対応でない商品というのは基本的には置きたがらないし。3万5,000店舗のうちの3万店もこの2社で、コンビニエンスストアで制覇しているということは、小売の交渉力がものすごく強い市場であるということを理解しないといけない。そうすると、アジア新興国の最大の特徴は、近代小売が不動産会社みたいに棚代を取るということなんですね。商品をエントリーさせるために、1SKUあたり1店舗いくらと取っていくわけですね。数千円ぐらい取っていきます。それを何百店舗、何千店舗と入れてしまうと、それを掛け算するだけの棚代が上がる。リスティングフィーとかってよく言われますけども。また、年に2回~4回、強制的なプロモーションに参加をしないといけなくなったりとか、いろんな負担が必要になってくる。こういうことをやっていると、店舗数がそれぐらいしかないし、それだけ強制的なプロモーションもあると、近代小売だけじゃなかなか収益を上げられなくなるわけですよね。特に日本企業の場合はそうで。一方で、インドネシアの伝統小売ってどれぐらいあるかと言うと、300万店あるんですよね。この図の通り、85%が伝統小売なわけですけど、300万店。もうこれは、いずれのFMCGのディストリビューターも口を揃えて、「インドネシアでは近代小売だけやっていても絶対に儲からない。伝統小売をやらないと儲からない」というのは言い切っています。なので、いかに近代小売を攻略しつつ伝統小売をやるかということがもう、ものすごく重要。フィリピンでは85万店ぐらい、80万店ぐらい伝統小売が存在して、近代小売は6,500店舗ぐらいですね、最新のカウントで、それぐらいしか存在しないので、やっぱり伝統小売というのは非常に重要になってくるというのがこの図で分かると思います。
この図が、じゃあ、向こう10年で急激に近代化が進むかというと、なかなかそうじゃなくて、やっぱりそれには時間がかかる。なので、それをどう見るかということですよね。そのうち近代化をするので、近代化してから参入をするのがいいのか、それとも今参入すべきなのか、私は後者だと思います。なぜならば、小売が完全に近代化して整ってから日本の消費財メーカーが「私たち、日本の消費財メーカーです。どうですか?」と言ったところで、市場に受け入れてもらえない。今から入る、いかに伝統小売で売れていたものが、小売が完全に近代化しても引き続き受け入れられるという、そういう世界になるので。また、この小売の近代化が来るというのが、基本的には数十年先、私は30年以上先だと思います。伝統小売が完全になくなるのは。また、インターネットの流通が介在をしていく。そして、日本みたいにインターネット流通、最大のポイントは物流になるわけですけども、その物流を担うのは、ヤマトや佐川とかの物流業者ではなくて、もしかすると、グラブやゴジェックみたいな、いわゆるUberなどのああいった、もともとは人を運ぶ、そういったものがバイクで人を運んでいるんですけども、今度はバイクで荷物で運ぶって、こういうものが流通としてしっかり機能して、一部機能はしていて、もうデリバリー系、ケータリング系は機能し始めているので、こういう世界もますます進んでくると思います。この比率を見ても、伝統小売が非常に重要で、近代小売をやりながら、いかに伝統小売を攻略するかと。
そしてまた、この伝統小売を攻略するためには、日本の企業は4Pを変えていかないといけない。ProductとPriceを変えていかないといけない。伝統小売は基本ばら売り、伝統小売で置けるようなものを置いていかないといけない。また、エクセプションがあって、どういうものがエクセプションかと言うと、化粧品とか高級品、こういったものは伝統小売にそもそも置くべきではないので、そういったものは置いてはいけない。ただ、一方で、自分たちのチョコレート菓子はプレミアムだと、高級なんだと、だから置かないんだと、これも間違いで。もし、1万円のゴディバであれば伝統小売に置く必要はない。例えば、ペンも、自分たちがモンブランであるんだったら置く必要はないけども、そうじゃないと。日本で100円200円で一般の中間層に売っているペンなんだとすれば、やっぱり伝統小売っていうのは攻略しないといけないというのが基本的な考え方だと思います。
それでは、時間がきてしまいましたので、今日もこれぐらいにしたいと思います。また次回お会いいたしましょう。