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第156回 アジア新興国市場 間違ったマーケティング・ミックス(4P)

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テキスト版

森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日は、日本の企業の間違ったマーケティング・ミックスについてお話をしたいと思います。マーケティング・ミックス、別名4Pというふうに言われていますが、Product、Price、Place、Promotionの略称ですが。日本の海外進出、日本企業の海外進出、主には参入戦略とか、再参入戦略において最も重要なのは、僕は、「ターゲティング」と「4P」だというふうに思っています。(4C)というふうに捉えてもいいのかもしれませんが。ターゲットが非常に重要で、そのターゲットに対していかに適切な4Pを投下していくかということが非常に重要なんですが、この4Pを間違ってしまっているという企業が非常に多くて。ものをターゲットに対して売るには、やっぱりそのターゲットに対する4Pにしていかないといけないのに、どちらかと言うと、自分たちが今でき得る4Pとか、自分たちが国内で成功をしてきた4Pみたいなものがもう固まってしまって、それをずらすことができないというのが今の日本の、特に消費財メーカー、これはB2Bの企業も一緒なんですが、今回、B2Cでお話をしますけども、B2Cの消費財メーカーに当てはまるんじゃないかなと。

分かりやすい例で言うと、日本の白物・黒物家電のこの世界的な敗退というのは、エレクトロニクス分野の敗退というのは、まさにこのターゲティングに対して4Pを間違ったと。ターゲットというのは間違っていないわけですよね。世界の中間層を狙ってやっていった。ただ、その中間層が求めている4Pになっていなかった。自分たちよがりの4Pになってしまっていた。従って、それがなかなか世界の中間層に受け入れられず、家電の業界ではあんな不幸なことが起きてしまって。あの家電の白物・黒物で起きたことというのは、決して対岸の火事、消費財メーカーにとって決して対岸の火事ではなくて、FMCG、食品・飲料・菓子・日用品のメーカーにとっても、自分たちに置き換えて考える必要があって。彼らの失敗のケーススタディを自分たちの参入戦略、再参入戦略にどうやって生かすかということが非常に重要で。今、グローバルで活躍をしているFMCGのメーカーで、本当に適切にターゲットに対して適切な4Pをぶつけられているというのは本当に一握りの企業だと思います。ここで社名を言うと、またいろいろとややこしいので、社名は申し上げませんが、やっぱり一握りで、もう多くの企業は現地には進出しているけど、やっぱり4Pできていない。

じゃあ、どういうふうにできていないのかというのがこの図なんですが、Productに関しては、日本で実績のある商品をできればさほど変えずにやりたい。要は、自分たちの商品はもうこれで日本でこれだけの実績があって、この商品を売るんですと。それが現地の中間層が求めているとか求めていないとか、基本的にはあんまり関係なくて。日本人が求めていたものだから、アジア新興国の格下の皆さん、あなたたちも欲しいでしょう?というのがやっぱりどこかに見え隠れしていて。日本で売れたものがアジア新興国でも売れるんじゃないかという大前提で入ってきている。結果、そうなったとしても、やっぱり前提がそうだとすると、ほかの条件も全部それを前提に考えてしまうので、やっぱりそこは現地の人をベースに考えていく必要があるというのが、僕は非常に重要なことだと思います。また、訪日インバウンドという一部の特殊な層だけを見て、こういったものはアジア新興国でも受け入れられるんだということで商品を出していくと。これもまた全く違う話ですよね。訪日観光で来られる人たちと、アジア新興国の中間層というのは、もう全くレイヤーが違う層で。また、TPOも違うわけですよね。日本人がハワイに行ったときにハワイアンクッキーを買って帰るのと一緒で、日本に来たからそういうものが欲しくて買って帰るというのと、現地の中間層のマーケットにアウトバウンドで参入するときに本当に現地の中間層がそれを求めるかと言うとそうじゃない、必ずしもそうじゃないケースがあるので、そこもしっかり見ないといけない。

そして、Priceに関しては、少しは安くするけど、できれば日本と同じぐらいの価格でやりたい。なぜならば、自分たちはいい原材料を使って、高い技術でプレミアムな商品をつくっているので高くてもいいんじゃないかと。買われるんじゃないかと。そりゃ1円でも高く売るということは非常に重要なんだけども、消費財の場合は、いかにたくさんの人に、いかに早い頻度で、いかに永遠に繰り返し買い続けてもらうかということがビジネスモデルとしては非常に重要なので。そうすると、彼らが賄えるということがすごく重要で。この日本と同じぐらいの価格でできれば売りたいという、こういう本音が日本の消費財メーカーの商品のプライシングには見え隠れしてしまっている。

そして、最も致命的なのがPlace、つまりはチャネル。日本で近代小売で慣れ親しんできていて、日本には伝統小売なんていうのは存在しないので、アジア新興国に行くと、やっぱり伝統小売の攻略で非常に苦しんで、まずは近代小売からと、いやいや、上位中間層でということで、なかなか伝統小売に適したディストリビューション・チャネルをつくれずに、近代小売止まりで流通が終わってしまっているというのが日本の消費財メーカーの現状で。このPlaceというのは全くできていない。

そして、最後のPromotionも、できれば実績が出るまでPromotionは投資したくない。これが本音で、Promotion投資というのは、言ったら小売に並べることがチャネルだとすると、Promotion投資というのは、その小売に並んだものを消費者が手に取る行為をどうやって促進するかという話で。並べることはチャネルの力なんだけども、チャネルに並ぶということは、競合の商品と隣同士に並ぶということで、それを消費者が手に取るということは、やっぱりPromotionの力なんですよね。アジア新興国の消費者にとって、1ドルという価値はものすごく重要なので、知らないし、食べたこともないし、使ったこともない消費財を、じゃあ買うか?と言うとなかなか難しくて。チャネルがしっかりしていないのにPromotionをやってしまって、いわゆる砂漠に水をまくようなことをするというのは非常にナンセンスなので。それで、チャネルがしっかりしていないんだったらPromotionをやる必要はないけども。チャネルがしっかりしているのならPromotionはしっかりやらないといけない。

これって、全部がしっかりして、最適化していて初めて成功するので、その全部がなかなかこのように成功していなくて、必然的に中間層に売れないから、やっぱりターゲットの牌が少ない富裕層に逸れてしまって、自分たちはプレミアムと。僕は、この日本の消費財メーカーの戦略を1P戦略というふうに言っている。この1Pというのは、Productが品質がいいということだけの戦略。もしくは、プレミアムなんだということをひたすら主張する。自分たちはプレミアム、だから日本製、だから高い、だから近代小売、だからPromotion打たなくていいでしょう。こういうような戦略では、なかなかアジア新興国ではマスには浸透していかない。そして、FMCGのビジネスの最大のポイントは、繰り返しになりますが、いかにたくさんの消費者に、いかに早い頻度で、いかに繰り返し、永遠に買い続けてもらうかということが重要なので、これを満たすためには、このターゲットに対する4Pが非常に重要。日本の消費財メーカーの4Pはこのように間違ってしまっているというのが今回のお話です。

次回、じゃあ、どうやって正しい4Pをつくっていくのかというお話をしたいと思います。それでは、また次回お会いいたしましょう。