HOME » 動画番組 スパイダー・チャンネル » 第197回 【Q&A】ASEAN伝統小売が近代化するまで待ってから参入するではダメなのか?

動画番組 スパイダー・チャンネル

第197回 【Q&A】ASEAN伝統小売が近代化するまで待ってから参入するではダメなのか?

新刊はこちら » https://www.amazon.co.jp/dp/449565019X
定期セミナーはこちら » https://spydergrp.com/seminars/

テキスト版

森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日も引き続き、皆さんからの質問についてお答えをしていきたいと思います。
今日の質問お願いします。「伝統小売が近代化するまで待ってから市場参入するではだめダメなのでしょうか?近代小売の攻略は比較的容易にできるのですが、伝統小売の攻略に苦労しています。伝統小売がどのみち近代化するのであれば、近代化してから参入するということではダメなのでしょうか」。消費財メーカーからの質問ですね。はい。分かります。セミナーなんかをやると、この質問はよく出るんですよね。アジア新興国の小売というのは、いわゆる近代小売と言われる、POSレジが置いてあるようなコンビニとかドラッグストアとかスーパーとか、われわれが先進国で親しんでいるような近代的な小売が1つ。一方で、パパママストアみたいなものを伝統小売というふうに言うんですが、これが何十万店、何百万店と存在するんですよね。例えば、ベトナムなんかだと50万店あったり、フィリピンなんかでも80万店、ASEANで最も多い国、インドネシアでは300万店存在すると言われていて。一方で、ベトナムなんかの近代小売というのは2,500店舗ぐらいしかなかったり。一番多いインドネシアでも3万5,000店舗、うち3万店はアルファマートとインドマレット、2社のローカル系コンビニだったりするので、正味、純粋なその他のMTって、5,000店舗弱ぐらいしかなかったりするんですけど。

そんな中で、近代小売の攻略というのは、日本の消費財メーカーは比較的何とかやれていて。一方で、ローカル系はやれていないんですけどね。実際は、シンガポールとかマレーシア、タイだったらまだまだやれていますけど、VIP、ベトナム、インドネシア、フィリピンは近代小売もなかなかやれていないんですけど。まあまあ、ひいき目に見て、近代小売のほうが比較的スムーズに導入ができている、配荷ができている。一方で、伝統小売はディストリビューション・チャネルがつくれないのでほぼ皆無である、というのが今の日本企業の実態で。伝統小売、ちゃんとできていると言うと、本当に国によるんですよね。この国ではできているけど、この国ではできていないとか。網羅的にできていると言うと、ユニ・チャームさんとか、味の素さんとか、ロートさんとか、サロンパスさんとか、ヤクルトさんとか、そんなところが代表的に挙げられるんじゃないかなというふうに思います。あとは、国に偏っちゃったり。インドネシアで強いマンダムとか、ベトナムで強い、ミャンマーで強いエースコックとか、そんなふうになってしまっているんじゃないかなというふうに思います。それ以外のメーカーというのは、ほぼ伝統小売は参入できていないので、現地に法人があっても伝統小売がなかなかできていないと。この難しい伝統小売への参入を、「どのみち小売は近代化するんだから、近代化してから入ったらいいんじゃないの?」というのが今回の質問なんですよね。

前置きがだいぶ長くなっちゃいましたけども、「ダメですか?」という質問なので、イエス・ノーで答えると、そうですね、ノーだと思います。ダメだと思います。なぜならば、小売が近代化をしていく、確かに近代化していくんですけども、じゃあ、今、何十万店、何百万店ある、この伝統小売が向こう10年でなくなるかと言うと、絶対なくならないんですよ。向こう20年でなくなるかって、なくならないですよね。徐々に近代化はしていくかもしれない。ただ、なくならないので、やっぱり待っている間に市場の勢力図が決まってしまう。全部が近代化されてから、「はい。私たち、日本企業です。いい原材料と高い技術でいい商品つくっているので、入れてください」と言っても、そりゃあ、なかなか市場が受け入れてくれないと思うので、伝統小売の時代から慣れ親しんでいるものを小売が近代化しても買う、というのが実際だと思うので、なかなかそんな調子のいいふうにはならないんじゃないかなと。もし、それがなるのであれば、欧米の先進的なグローバル消費財メーカーはみんなそうしていますよね。伝統小売の攻略って本当に時間と労力とお金がかかるので、そんな苦労をわざわざやるというのはばかばかしいですから。なかなかそれは難しいんじゃないかなと私は思います。

実際に、僕がシンガポールに住んでいた1980年代に比べて、伝統小売の数ってASEAN増えているんですよね。数自体は決して減っていなくて増えていて、これが今度どう動いていくかという話なんですけども、私の予測は、コンビニエンスストアみたいな形態が非常に増えていくんじゃないかなというふうに思います。小売の近代化が、数十年でコンビニエンスストアみたいのが増えていくというのはそうなんですけど、伝統小売が、なんで僕は10年20年で消えないかと言うと、小売の近代化って、小売だけが単体で近代化するから、勝手にブワーッと近代化していくんじゃないんですよね。いろんなインフラが同時並行的に近代化するから近代化する。

日本だと、例えば、結構、年配の方なんかは日本の小売の近代化を見ているので、あのようにアジア新興国もなるんじゃないかと思われている方が結構いらっしゃって。けど、日本の小売の近代化って、なんで起きたかと言うと、2つあって。1つは、その他のインフラが全国同時並行的に近代化した、だから、その上に乗っている小売も近代化した、というのが1つの理由なんですよね。どういうことかと言うと、高速道路、物流網が近代化して、それから、電気・水道・ガス、こういったいわゆる基本的なライフラインインフラが全国津々浦々近代化した。システムも近代化していった。こういった、小売が近代化するうえで必要な、特に物流のインフラですよね、コールドチェーンを含めた、こういったものが近代化するから初めて小売も近代化できたというのが日本のケースで。あと、もう1つは、コンビニエンスストアという形態が日本の風土に民族に日本人に非常にマッチした。これで小売の近代化にさらに拍車がかかった、というのが日本の実態で。

じゃあ、これと同じことがアジア新興国で起こせるか、起きるか、と言うと、僕はなかなか難しいと思います。今、タイに行っても、インドネシアに行っても、どこの国に行っても、アジア新興国はもう大渋滞の中で、夜中、トラックを走らせて商品を届けて物流をやっているという、そういう状態の中で。ASEANの中では、地方に行ったらまだまだ電力が足りないところというのも存在するわけですよね。そういった中で、小売だけが単体で近代化するかと言うと、絶対に近代化しないので。一般的なインフラが近代化をする、特に見るべきは物流。ここが近代化してきたら、僕は、小売もどんどん、どんどん、近代化していくと思いますけども、そうじゃない限り、小売だけが単体で近代化するというのは難しいので、こういったところも見つつの見極めだと思います。

近代化するまで待つというのは、結構、グローバル戦略としてはNGで、日本の少子高齢化で、どんどん、どんどん、市場がシュリンクする中で、海外の市場を積極的に獲っていかないといけない。今、アジアの消費財メーカーのほうが日本の消費財メーカーよりもよっぽど大きな売上をグローバルでつくって、よっぽど高い利益を出して、時価総額、企業価値もよっぽど高い企業ってたくさん生まれてきているんですよね。これ、15年20年前、そんな企業はほとんどなかったです。それがこの20年でぼこぼこ生まれてきていて。今は想像できないかもしれないですけど、そのうちアジアの消費財メーカーが日本の市場を食いに逆に参入してきたときに、本当にそんな、待っているなんていうことをする日本の消費財メーカーが彼らと戦って勝てるのかって、日本の消費者も、いつまでも日本の商品だけがいいものだと思う常識って、僕は変わってくると思います。もうすでに家電の世界では、その常識、変わりましたよね。韓国製でも中国製でも良いものは良いって、日本人みんな使っていますよね。かつて、日本の家電メーカーが世界市場を制覇したときに、日本製以外の家電を使うなんていうのは、われわれ日本人からしたらあり得ないことだったのが、今はあり得ているわけなので。消費財に関してだって、そんなことは全然起こり得て、日本製とか欧米製だけじゃなくて、アジア新興国のメーカーの洗剤を使う、お菓子を食べる、食品を食す、全然あり得る世界だと思うので、「待つ」なんていうのは、もうグローバル戦略を考えても、僕はあり得ないと思います。

仮に、今、ASEANでこの伝統小売攻略のための労力、経営資源を使ったとしても、メコン経済圏という大きな市場がまた待っているし、その後、インドも待っているし、アフリカも待っているので、ASEANで勝ち得たノウハウというのは決して無駄にはならないんですよね。メコンでも使える、インドでも使える、アフリカでも使える、そうであれば、僕は積極的に攻めるということを選択したいと思うので、伝統小売が近代化するまで待ってから参入というのは「ノー」で、むしろ積極的に伝統小売の攻略を。まだ日本企業で数えるほどしか成功していません。さっき、冒頭で申し上げたような、両手で収まってしまうような数の企業しか成功していないんですよね、日本企業。なので、まだまだチャンスがあると思いますので、ぜひ伝統小売の攻略を積極的に進めていってもらえたらなというふうに思います。

では、今日はこれぐらいにして、また次回お会いいたしましょう。