第261回 「R」で負け戦に出ていかずにすむ
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テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日は、「「R」で負け戦に出ていかずにすむ」ということについてお話をします。前回から、この「R」「STP」「MM」、マーケティングの基本プロセスの話をずっとしていおりますが、この「R」というのは最初の「R」、Researchの略で、このResearch、「R」を海外展開をする前に、アジア新興国市場に出る前にどれだけしっかりできるかで皆さんの海外事業の成功確率は格段に変わります。私が過去見てきた企業もこの「R」がやっぱり疎かだった企業は大きな失敗を出てからしているし、逆に言うと、「R」がしっかりできた企業というのは、出てからも、出る前から想定できたような安易な問題で失敗をするということは事前に防げています。今日は、「「R」で負け戦にいかずにすむ」ということについて、一緒に学んでいきましょう。
それでは、まず最初のスライドをお願いします。前回、この「R」「STP」「MM」ということで、マーケティングの基本プロセスの話をしましたが、戦略をつくっていくときに、このマーケティングの基本プロセスを実行していくわけですが。この「R」というのはResearchの略で一番最初の皆さんがやることですね。ステップです。この「R」というのは何で構成されているかというお話なんですが、前回もお話した通り、マクロ環境分析と、ミクロ環境分析と、SWOT分析、3つの分析で構成されています。マクロ、ミクロ、SWOTとか、カタカナ、英語で言われてもいまいちピンとこないというお話をしたと思います。
では、マクロ環境分析ってどういうことなの?と言ったときに、簡単に考えてくださいと、どんな市場なんだと、その市場は儲かるのか、どうなんだ、儲かるんだったら、どれぐらい儲かるのかということを分析しましょうねと。分析をする軸というのは、まず経済指標。人口であったり、経済規模であったり、1人あたりGDP、そういったものを、マクロデータですよね、集めて、どれぐらいの経済規模なのかということを見ていきましょうと。日本を1とした場合に、何なのかということを見るというのも1つの方法ですし。それから、商習慣もそうですね。歴史、文化。重要なのは外資規制です。外資規制、いろいろな業種に外資規制というのは設けられているケースがありますので、外資参入による規制がどれぐらいあるのかということをしっかり見ていく。これで市場環境が見えてくるわけです。
ミクロ環境分析というのは、逆に、どういう敵がいるのか。その脅威はどれぐらいなのか。自分たちの戦闘能力、経営資源を100とした場合にどれぐらい強い競合がいるのか。多くの場合、アジア新興国市場、日本企業というのは展開が後手に回った、出遅れた展開をしておりますので、必ずその市場には先駆者がいる。特に欧米の先駆者がいるし、ローカルの企業ももう十分脅威になっているし、中国企業はもう完全なる皆さんの事業の脅威です。そうなったときに、どんな敵がそこにいて、その敵の脅威はどれぐらいなのかというのを数字で見ていくというのが、このミクロ環境分析なわけです。
そこに皆さんが参入したときに何が起こりそうなのか、自分たちは勝てるのか、負けるのか、どれぐらい勝てるの?どれぐらい負けるの?ということを見ていくのが、SWOT分析。何が起こりそうなのかということですね。
これをしっかりやれている企業というのは、簡単な問題で失敗をするというケースが非常に少ない。こんなことは出る前から分かっていたよねということはやっぱりないわけで。出てから、出るということは、もう出た瞬間にコストがガーッと掛かっていきますから、出てから何か問題をリサーチをするというよりも、やっぱり断然事前にしっかりとリサーチをやっておくほうが圧倒的に安上がり。事前にそこに数百万円、1,000万円掛けても、数千万円掛けても、出て失敗をしたら、億の損失が出るわけなので、やっぱり事前にそれをやるということがすごく重要。
日本企業の場合は、良いディストリビューターが見つからなかったとか、ディストリビューターが思い通りに動かないとか、B2CのFMCGとかの業界であれば、なかなか伝統小売に参入ができないとか、配荷店舗、ストアカバレッジが上がらないとか、B2Bでも1カ国1代理店制度、ディストリビューター制度を引いているんだけども、なかなかそれでは市場が獲れないとか、そんなことは出る前から分かっていたよねみたいな問題で海外事業がうまくいっていないというケースがもう圧倒的なので、やっぱりこの「R」をしっかりやっていくということは非常に重要。
この「R」ってもう1つメリットがあって。スライドをお願いしたいんですが。アジア新興国市場で、市場が形成されるまでの順番を整理することができるんですよね。これはもう決まっているんですけども、アジア新興国市場で市場がどういうふうに形成されているかと言うと、やっぱり最初にこの図の通り、政府の政策転換がある。外資の誘致をしますよ、私たちの国で工場をつくってください、安い労働力を提供します、工場用地も提供しますという政府の政策転換がまずあって。そうすると、今度そこにインフラ事業者がガーッと出ていって、工場用地をつくったり、電気、インフラを引いたり、港までの道路を整備したりとかということをやるわけですね。それが整うと、第3段階として、ようやく生産拠点ができる。この生産拠点も、まず自動車が行って、家電が行って、そして、最後、食品、日用品なんかが行くという、こういう順番になっているわけですね。そうすると、4番、そこには消費市場ができると。
そうすると、だいたい今のアジアは一番上の中国とかシンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、カンボジアというふうに、こういう順番になっていますが、こういう感じで今あるんですよね。もちろん、中国はいまだに生産拠点の意味合いもあるし、タイだってまだまだ生産拠点の意味合いもあるけども、バンコクなんかは市場になっているわけだし、マレーシアももちろん生産拠点でもあったんですが、みんな昔はこの1番からずっと上がっていったんですね。もちろんまだ生産拠点であるということもあるけども、さすがにタイでインフラ整備、ベトナムで地下鉄を通したりとか、インドネシアで地下鉄を通したりとか、そういうことはやっていますけども、工場用地のインフラを1からこれから来る企業のためにやっていきましょうと、そういうステージはもう過ぎ去っていて。まさにそういうステージに今あるというのは、ミャンマーとかカンボジアなわけですよね。
こういう中で、いきなりミャンマーをやりますと、ベトナムでも成功していないのにミャンマーをやるとか、こういうのは「R」を全くやっていないということなんですよね。なぜミャンマーなんですか。なぜそこに先に行くんですか。ベトナム市場でも大手含めて相当な苦労をしているのに、インドネシア市場でも相当な苦労をしているのに、そこからさらに難易度の上がるベトナム市場で何をしようというんですかということになりますから、やっぱり「R」をきっちりやるということはすごく重要で。こういう順番が分かってくる。
自分たちが展開をすると決めた国、決めた都市の理由付けがそこにあるべきなんですよね。海外展開って。なぜ自分たちは、ベトナムにしたんだ。なぜ自分たちの最初の海外展開がベトナムなんですか。なぜタイじゃなくて、なぜフィリピンでもなくて、インドネシアでもなくて、ベトナムだったのか。いや、ベトナムに何となく決めたなんていうことにはならないわけですから、そこには、やっぱりベトナムであるべきだという明確な理由がないといけない。それを見出すのも「R」なわけですよね。
だから、この「R」というのは、皆さんが海外展開をするときに、本当に現地で失敗のリスクを著しく軽減できる非常に非常に便利なツールで。これ、出てから走りながら気付いて戦っても、どんどん、どんどん、出費をしていくわけですよ、出るということは。なので、いかに事前にこの「R」をやれるか、いかに戦略を固められるか。もちろんトライ&エラーで出てみないと分からないことというのももちろん当然あるんです。なので、まず動くということも重要なんですが、少なからず外資の欧米の先進的なグローバル企業というのはアクションを取ります。アクションを取るんだけども、彼らは必ずアクションを取る前に高度な仮説があります。「R」を実行した非常に高度な仮説があったうえで動くので、次のアクションに、仮説の修正、そしてまたアクションを繰り返すという、仮説検証の次のアクションにつながっていくわけなんですね。
なので、この「R」というのは、負け戦に出ていかずにすむという大変便利なツールなので、皆さんも今一度、この「R」の重要性をしっかりと理解をして、展開する前にはしっかりとリサーチをするということを考えてみてはいかがでしょうか。
それでは皆さん、また次回お会いいたしましょう。