第298回 主要競合他社のチャネル戦略の可視化
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テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日は、「主要競合のチャネル戦略の可視化」ということでお話をしていきたいと思います。対象はFMCG(Fast Moving Consumer Goods)、食品・飲料・菓子・日用品等の消費財メーカーが対象で、FMCGの事例を今日はたくさん使いますので、FMCGが対象です。B2Bの製造業の方は、自分たちの事業に置き換えてお話を聞いていただければと思います。よろしくお願いいたします。
では、早速なんですが、前回、前々回と日本の製造業の海外展開においては競合調査が非常に弱いですよと、競合調査は非常に重要ですよというお話をしてきたと思うんですけども、その中でもチャネル戦略の可視化について少し具体的にお話をしていきたいんですが。
早速、スライドをお願いします。1枚目のスライド。チャネル戦略、競合他社のチャネル戦略の可視化って具体的にどういうことなの?ということなんですが、これはチャネル戦略を深く深く入っていくわけなんですけども、大前提として、競合がどういうチャネル・ストラクチャーを持っているのか、また、チャネルに対してどういう考え方でいるんですかということをまず見るということが非常に重要で。日本の製造業の海外展開のマーケットシェアがなかなか取れないとか、成果がなかなか上がらないという要因のかなりの部分にこの販売チャネルが弱いということがあって、ストラクチャーを競合と比べたら、「こんなストラクチャーじゃそもそも勝てないよね」ということが数字で分かったりするわけなんですよね。例えば、ディストリビューターの数が全然足りていないとか、ディストリビューターの数は一見して同じぐらいなんだけども、個々を見ていくとディストリビューターがめちゃめちゃ競合に比べたら弱いですよねとか、ディストリビューターを深く見ていけば見ていくほど、日本企業のシェアがなぜ低いのかとか、なぜ成果が上がらないのかということが非常によく分かるわけなんですね。それをまずしっかりと見ていきましょうよと。
FMCGの場合は、例えば現地法人があって、現地法人が例えば欧米の先進的なグローバル企業の場合、MTなんかは直販しているわけですよね。都市部、地方部、MTと書いていますけれども、これ、MTの場合は都市部の首都のセントラル物流にドーンと商品を納品してしまえば、あとは小売のほうが自社配送していきますので、基本的にはもう小売のいわゆる購買部を落とすということが非常に重要で、ここにわざわざディストリビューターを介すなんていうことは多くの先進的なグローバル消費財メーカーはしていなかったりするんですよね。なので、直販をしていて。
一方で、じゃあ何かと言うと、FMCGにとってはGT、TT…、TTというふうに言いましょうかね。Traditional Trade、伝統小売が非常に重要であるということは、もう皆さん十分にご承知おきいただいていると思いますけれども、それに対してディトリビューターを大規模、中規模、小規模といくつも使って、ディストリビューション・ネットワークをつくっている。その結果、何十万店という伝統小売への配荷ができているというケースが非常に多いわけですよね。例えば、P&Gモデル、ネスレ・リーバモデルと私は呼んでいますけど、P&Gモデルというのはどこの国でも彼らは8社ぐらいのディストリビューターを使って、うち2社ぐらいは非常に大手、大規模なディストリビューターを使って、残りの6社ぐらいが中堅ぐらいのディストリビューターを使ってTTの配荷を完了させる。その8社は当然2次店なんかを使うので、合計すると数百社のディストリビューション・ネットワークをつくっているということになるんですけども、そうやってTTなんかは落としていくんですよね。MTは多くの場合直販していますけども、MTに関しても現地の自社の営業マンがしっかりと営業している。ネスレ・リーバモデルというのはどういうものかと言うと、これは取扱製品によって、よりマイクロディストリビューションをしないといけないというのがネスレとかリーバなんですよね。例えばシャンプーとか、それから3in1コーヒーみたいなね、いわゆるサシェットになったのがいっぱい伝統小売に吊らされていますけど、ああいうもの、もうデイリーで本当にFast Movingの商品を扱っている。例えばP&Gが扱っているような洗剤とかって、毎日は使わなかったりしますよね。3日に1回とか1週間に1回。でも、ネスレ・リーバのものというのは本当にデイリーなので、毎日というか数時間おきに使うものだってあるわけですよね。例えば、食品なんかはまさにそうですよね。そうすると、そういう企業はマイクロディストリビューションになっていて、基本的には近代小売は直販するんだけども、伝統小売は100、200のディストリビューターを使ってマイクロディストリビューションをしていると。このまさに図の通りなんですけども。
一方で日本の企業はどうかと言うと、理由なき1カ国1ディストリビューター制ということで、自社内競合したら嫌だからとか、管理が大変だからという理由で、基本的には1カ国1ディストリビューターでやっていてなかなか成果が出ない。それは当たり前ですよね。その1社のディストリビューターでその日本の企業の担当者が何人いて、一方で伝統小売が何十万店とあるわけですよね。何百万店、何十万店あるわけで、そうすると、物理的に到達できないと。これはMTだってそうですよね。その人数じゃ物理的に到達できない。そうすると、やっぱりもうストラクチャーを比べたらそもそもチャネルが弱いよねと。だから、製品の競争優位とか言う前に、もう本当にチャネルが劣っているということが明らかになると、何を具体的に改善していけばいいのかということが明確になっていくので、競合のチャネル戦略をしっかり見るということは大変重要で。
うちでこれ、チャネル戦略を見ていくときにどうやって、調査をいろいろしていくわけなんですけども、「どういうものが具体的に見えてくるの?」ということで、ちょっとサンプルの画像をいくつかあげていきたいと思いますけど。2枚目のスライドをお願いします。これなんかは主要競合のディストリビューション・ストラクチャーが近代小売、伝統小売、それぞれどうなっているのか、一次店、二次店がどういうふうに配置されていて、それぞれの利益構造がどういうふうになっていて、自社配送と委託配送がどうなっているのかみたいなことを図体系にしたものですよね。
次のスライド。これも一次店、それから営業区分、専属のディストリビューターがあるとかないとか、同一カテゴリーの取り扱いをしていても良いのか良くないのかとか、ディストリビューターのカバーエリアとか、営業人数が何人いるんだとか、二次店をどれぐらい使っているんだとか、そういうことを各社それぞれ調べたりとか。
次の図をお願いします。また、それぞれのメーカーからどういうディスカウントを出しているのか。ボリューム・ディスカウントはどうなっているのかとか、支払条件はどうなっているんだ、プロモーションはどうなっているんだみたいなことを整理をしたり。
あと、これは最後の図ですけども、それぞれのプレイヤーの利益率がどういうふうになっているのか。ここをしっかりと理解できないと、やたら自分たちの商品の値段が小売、消費者にわたるまで高くなってしまっていて、余計なところで余計なマージンを取られていたりなんていうことは日本企業の場合非常に多くて。そもそも日本企業の商品は高い、若干高い設定なのに、さらにディストリビューション流通の最適化ができていないせいで金額がさらに上がってしまうというケースは非常に多いので、この図の通り、それぞれのプレイヤーの利益率を整理したり、ということをやったりします。
なので、主要競合の可視化というのは本当に重要で、特にチャネルまわりの可視化、競合が販売チャネルをどう考えているのか、そして、基本的なチャネルのストラクチャー、これをしっかり見て、自分たちのチャネルと比べると、自分たちには何が足りていて、何が足りていないのかということが数字で明確になると。これが明確になれば、自分たちが補うべきことが具体的に分かりますので、ぜひ主要競合のチャネルというのはしっかりと可視化をして進めていくということが新興国では大変重要になってきます。
それでは今日はこれぐらいにして、また次回お会いいたしましょう。