第161回 アジアビジネス 先進グローバル企業と日本企業の違い
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テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日は、先進グローバル企業と日本企業の違いということで、両者の戦略性についてお話をしたいと思います。ここで言う、先進グローバル企業というのは、消費財メーカーの先進グローバル企業というのは、P&Gとか、ユニリーバとか、ネスレとか、そういった会社を指しています。まあまあ、この議題はよく、アジア新興国市場への参入の中ではよく議論される問題なんですが、これら、先進的なグローバル消費財メーカーというのは非常に戦略性に長けているというふうに言われていて。一方で、日本の消費財メーカーというのはなかなか戦略的ではないと。むしろ、属人的な参入戦略を進めて、なかなか現地でマーケットシェアが上がらないというようなことがよく言われています。この2つを、今日比較をすることによって、何がどう違うのかということを一緒に学んでいきたいというふうに思います。この図が出ていますが、先進グローバル企業は戦略レベルが高いというのと、日本の消費財メーカーは戦略レベルが低いということで書いてありますが、何かと言うと、先進的なグローバル消費財メーカーって、マーケットシェアを上げるということに対して非常に戦略が明確で、アジア新興国市場の場合、最大の魅力は何ですかと、消費財メーカーにとって、30億人の中間層です。そうすると、もうターゲットは明確に30億人の中間層にビシャーッと当たっていて、ここが絶対にブレないというのが彼らの1つの絶対的な価値観。これがフロントからバックまで、すべて社内に共有されている。なので、先頭の営業だけがそれを認識しているんではなくて、生産とか開発の人たちも、アジア新興国は中間層が最も重要ですということが非常にきっちり共有されていて。一方で、日本企業は頭では分かっているんだけども、なぜかターゲットが中間層からブレてしまって、自分たちの商品は高い原材料を使って、プレミアムな高い技術力で、プレミアムな商品をつくっているので、中間層は大切だということは分かっているんだけど、その中でも上位を狙おうとか、まずは富裕層からやろうみたいな議論になっていってしまうんですけども。数が勝負です。消費財というのは数が勝負。どれだけたくさんの人に、どれだけ速い頻度で、どれだけ繰り返し、永遠に買い続けてもらうかということが非常に重要なので、そうなってくると、中間層、30億の中間層が重要だということを先進的なグローバル消費財メーカーは分かっていて、このターゲットが明確に設定されて、そのターゲットに対して4Pや4Cが組まれる。中間層が求める商品を、中間層が賄える価格で、中間層が買いやすい売り場に並べ、中間層が手に取りやすい仕掛けをするという4P・4Cですよね。
実際に、じゃあ、中間層が求める商品って、新たにアジア新興国向けに商品を開発するというのが当然あるんですけど、基本的には今まで先進国で売っていた商品を投入するわけですよね、消費財の場合、そんなに国が違うからって全く先進国で求められたものがアウトかと言うと、そうじゃないので。価格はアウトです。ただ、もの自体は大丈夫だと。例えば、オレオのクッキーなんて言うと、クッキー自体、この国では食べれないとかって言うことはないわけなので、オレオのクッキーをモンデリーズは投入するわけですよね、アジア新興国でも。ただ、そのオレオのクッキーがあの価格帯だと、先進国と同じ入数、グラム数の価格帯だとなかなか賄うことができない。今度、4PのPriceで賄うことができないので、この図にもある通り、世界標準化の枠組みの中で商品の枠を現地適合化というのはまさにそういうことで。世界標準化というのは、オレオという商品自体は世界標準化ですと。そうすると、その枠組みは崩すべきではなくて、オレオを全く違う別の商品に変えるということではなくて、それをいかにグラム入数を減らすかとか、いかにばら売りをしていくかによって価格を変えて、パッケージで現地適合化をしていくみたいなことをやっていくわけですよね。それができると、今度、その戦略的チャネル構築というふうにありますが、アジア新興国市場、この番組でも過去に話していますけども、Modern TradeとTraditional Trade、MTとTTが存在をして、MTの流通のチャネル構築だけじゃなくて、TTのチャネル構築もその商品を持ってやる。なので、チャネルに戦略的な投資をすると。要は、MTでしか売れない商品を持っていたら、TTのチャネル構築なんて戦略的にやったって、こんなの全く意味がないので、まずは商品を持つということが重要で。それを持つから、当然、TT向けのチャネル構築が戦略的にできるという話で。それができると、今度、ストアのカバレッジが一気に広がりますよね。MTなんていうのは、ベトナムだったら、MTの数って2,000店舗ってこの番組でも過去にお話しましたけど、ASEANで最も多いところで3万5,000店舗ですよ。3万5,000店舗でどれだけ週販売ったって大して儲からないと。一方で、インドネシア300万店のTTがあると。そう考えていくと、ストアカバレッジを戦略的なチャネル構築で伸ばした後、横軸ですよね。今度、どうやってインストアマーケットシェア、いわゆるセルアウトを増やすかということは縦軸になるので、それをやるというのが戦略的なPromotionで。店に並べるというのは、チャネルへの投資ですと。並んだものというのは、ドン・キホーテじゃない限り、基本的にはカテゴリーごとに置かれる。スナックはスナック、チョコはチョコ、ガムはガムと。そうすると、競合と隣り合わせになるわけですよね。その中で、いかに自分たちの商品が5回に1回、3回に1回、競合他社よりも多く選ばれるのかというのは、Promotion投資にほかならないので、今度、セルアウトをするPromotion投資に投資をすると。これが、一番最初の製品の枠組み、世界標準化から現地適合化の製品Priceのところ、そして、チャネルのPlaceのところが全くできてなくてPromotionに投資をすると言うと、本末転倒で砂漠に水をまくようなものなので、これは全部が最適化されないとなかなか難しいんですけど。こういうことがパッケージでトータルで戦略的に組まれているというのが欧米の先進的なグローバル企業。
一方で、じゃあ、日本企業はどうかと言うと、基本的には、商品と価格は、できれば日本のほぼまんま、アジア新興国市場なので若干は安くするけど、基本的には買える層だけに売ればいいんじゃないかと。中間層が重要だということは分かっているんだけど、今はまだ買える層、つまりは、富裕層とか上位中間層に売ったらいいんじゃないかと。結果として、牌が非常に狭まってしまって、ストアカバレッジが全然上がらない。ストアカバレッジが上がらないから、インストアマーケットシェアを上げるためのPromotion投資も打てない。そして、アジア新興国の30億という魅力的な市場でも、本当に一部の富裕層とか駐在員とか、そういう人たちを相手にしたビジネスに収まってしまっていると。それで、なぜ売上が伸びないんだ、なぜシェアが伸びないんだということで、現地で頑張っている現法の人たちの気合と根性が足りないという精神論になってしまう。いいパートナーにたまたま恵まれた国とか、駐在員が10年以上駐在する駐在員がいる国とかっていうのは、ある程度いくんだけども、そのノウハウが他国に展開されない。いわゆる属人的にやっているので、戦略的じゃないので、本社に戦略がなく、それが網羅的にアジア新興国全体に広まるということはなかなかないというのが、日本の消費財メーカーの実態で、シェアがなかなか上がらないと。このように、特に消費財に関しては、数の原理が非常に重要で、その数を追っていくと、商品や価格を変えないといけない、チャネルを変えないといけない、そのうえでPromotionをしないといけないという、非常にすべてがつながっているというものになってくるので、そこの根本のところをはき違えてしまうとなかなか難しいということで。
1P戦略って、私、よく言いますけど、プレミアムとかプロダクトだけを考えた戦略ではなくて、ターゲットに対する要求すべてを考えた、戦略的な参入戦略をやっていかないといけないし。決して、欧米の先進的なグローバル消費財メーカーの真似をしろと言っているわけではないんですが、もう少し属人的な参入から戦略的な参入に変えていける余地があるんじゃないかなと。日本企業の商品、非常にいいものが多い、革新的なものが多いので、その参入戦略の戦略性だけをしっかりやっていけば、もっともっとよくなるんじゃないかなというふうに思います。
それでは、時間がきましたので、今日はこれぐらいにしたいと思います。また次回お会いいたしましょう。