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第242回 海外事業に失敗する企業の共通点

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森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日は、海外事業に失敗する企業の共通点ということでお話をしていきたいと思います。

皆さん、すでにご存じの通り、私、過去20年近くにわたり、日本企業の海外展開の支援をしてきたわけですが、その経験の中で、海外事業に失敗する企業というのは必ず今日お話する3つの共通点が存在します。逆に言えば、このことを今日皆さんにシェアをして、皆さんが学ぶことで、皆さんの海外事業の失敗のリスクというのは大きく軽減できると思います。今日は、海外事業に失敗する企業の共通点ということで一緒に学んでいきましょう。

最初のスライドをお願いします。まず、失敗する企業の共通点ということで結論から申し上げますと、この図の通り、モノ頼りの海外展開をする企業、そして、2つ目がパートナー頼りの海外展開をする企業、そして、3つ目がヒト頼りの海外展開をする企業ということで、この3つのいずれか、もしくは多くの場合がモノ頼りの海外展開をしている会社というのはもうパートナー頼りの海外展開をしているし、ヒト頼りの海外展開にもなってしまっているので、いずれか1つ、もしくは複数、もしくはすべての過ちをおかしているというケースが非常に多いと。それぞれ一体何なのかということでちょっと説明をしていきたいんですが。

次のスライドに移動して。まず最初のモノ頼りの海外展開ということでお話をしますが、これはこの番組でもよくお話をしています1P戦略という、いわゆる4P、プロダクト、プライス、プレース、プロモーションの4Pがあって、フィリップ・コトラーはこの4Pが最適化されて初めてモノはターゲットに売れていくんだということで言っていますが、日本企業の多くは1P戦略というふうになってしまっている。いわゆるプロダクトがあまりにも品質が良くてクオリティが良いので、ほかの3Pを軽視しても売れるでしょうと。実際に売れた時代があったんですよね。80年代90年代、日本企業の黄金時代と言われる古き良き時代ですけど、その時代は市場環境も競争環境も違った。中国メーカーはいなかったし、今のように新興国はマーケットじゃなかった。日本しかつくれなかったものを先進国で売っていた時代はそれで売れたんですよね。ただ、正直、今、モノ頼りの海外展開のモノは売れないと。なぜなら中国企業はもっと安く、もっと良く、20年ぐらい前までは安かろう悪かろうでしたけど、今は日本企業と同等レベルのものをより安くつくってくるわけなので、もうモノ頼りじゃ売れないんですよね。一方で、ヨーロッパのブランドは品質は日本よりも劣るかもしれない、もしかしたら。値段も高いかもしれない。けど、彼らはブランド力を持ち合わせているわけですね。あらゆるカテゴリーにおいてブランド力があると。そうすると、日本企業のポジショニングって非常に中途半端で、ただ品質が良い。品質が良い=良いモノという時代はもう終わってしまったんですよね。なので、このモノ頼りで海外に展開するというのはなかなか難しくて。でも、いまだにこの「モノが良ければいいでしょう」という傾向、思考の強く持った企業というのは多く存在していて。だいたいこういう企業は失敗をしているというのが過去見てきた事例でございます。

これは大企業でも中小企業でも一緒で、私の支援してきた会社の8割ぐらいは大企業で2割が中小企業なわけですけども、その8割の大企業、中小企業になればなるほど今日お話する3つの傾向というのは強いんですよね。もちろん、大企業になればなるほどその傾向は薄れるんですけども、嘘でしょ?というぐらいの大企業がモノ頼りの海外展開を全然やっていますから、基本的にはそんなにリテラシーのレベルって、変わるんですけども、やっぱり大企業でも全然今日お話していることは往々にして失敗する共通点として存在していますので、まずはモノ頼りと、皆さんの会社はどうなのかということをまず1つ考えていただいて。

実は、自分たちがモノ頼りになっているということを気付いていなかったりするんですよね。パートナー頼りになっているということも気付いていなかったりする。ヒト頼りになっているということも気付いていなかったりして。その会社で働くごく一部の人たちがそれに気付いて問題提起しているんですけども、その人たちってやっぱり数の原理で言うとマイノリティになってしまうので、なかなかその声が上に届かない。モノ頼りの海外展開がやめられない。パートナー頼りの海外展開やめられない。ヒト頼りの海外展開やめられない。こういう事例はたくさん大企業に存在するので。やっぱりこのマイノリティがマジョリティになってこないと、組織って数の原理ですから、大きな声としてなかなか上はそれを重要視していかないというケースが多くて、そんなケースが、余談ですけども、ありました。

2つ目。2つ目のパートナー頼りの海外展開ですが、これは基本的には現地の販売パートナーと組むわけなんですよね。これが財閥系と組んだり、同業種のメーカーと組んだり、はたまたディストリビューターと販売店契約をしたりと、いろいろな組み方がありますけども。自分たちはつくる人で、売るのは現地のパートナーという思想というか、発想がもう根底にあるので、基本的には現地のことを一番よく知っているパートナーさんに売ることはお任せですと。売るというところの戦略にほとんど絡んでいかない。なので、事後で結果報告。ある程度の目標数値、想定目標数値だけ決めて、あと、その手法はお任せしますよということで進んでいくんですけども。パートナーには、パートナーのプライオリティというのがあるわけですよね。皆さんが新規でパートナーと何か事業を始めるときに、すでにパートナーはほかの他社といろんな事業をやっているわけですよね。これ、もしくはほかの企業の商品をもっと前から、数十年前から取り扱っている。そうすると、彼らの売上構成の中で新規で始める皆さんの会社というのは、言ったら小さいわけなので、当然、重要視すると言っても、実際には重要視できないわけですよ。彼らの売上構成に占める割合が大きくならないと、本当の意味でプライオリティというのは上がってこないので。そうすると、メーカーとパートナー、いわゆるこちら側と先方でコンフリクトが起きるというケースが往々にしてあるんですよね。そのコンフリクトが起きてなかなか売上が突き抜けないというケースもあるし、問題が起きたときに何が問題なのかがメーカー側が分からないので対策が打てないという、これも1つですよね。

結局、ディストリビューターやパートナーを訪問しても、彼らがメーカーを連れていく先というのは基本的に彼らが見せたい先というのが中心になるわけなので、本当の問題がそもそも見えてこないというケースも往々にしてあると。自分たちが売ることの戦略までをすべて把握したうえでパートナーに任せるのと、「全くよく分からないから、あとはよろしくね」で任せるのでは、得られる結果が全然違うんですよね。なので、このパートナー頼りの海外展開というのも、やっぱり、失敗する企業というのはだいたいこういうケースになっていると。パートナーが良くないなと何となく気付いても、これは良くないなと確信を持つのに3年ぐらいかかって、確信を持ってからパートナーを代えるという行為に至るまでにやっぱりまた3年ぐらいかかるんですよね。計6年かかって、その間に担当が2~3人代わっているわけですよ。そうすると、パートナーを代えて改善しないといけないという熱量もどんどん、どんどん、低下していっているので、結局、海外事業に失敗をして。そういう企業が最後に何て言うかと言うと、「パートナーが悪いかったんだ」というふうに言うわけですけども、大概の場合はやっぱりメーカーが悪いというふうに僕は思っています。やっぱりメーカー側がある程度イニシアチブを持ってパートナーをマネージメントしていくというのが本来のあるべき姿だと思いますので、パートナー頼みの海外展開というのも非常に失敗する企業の共通点ですよと。

3つ目。3つ目のスライドをお願いします。3つ目がヒト頼りの海外展開ということですけども、これは、ヒトというのは何かと言うと、いわゆる駐在員ですね。基本的には、現地に箱をつくって駐在員送って、気合いと根性で走りながら何とかしろ、ということなわけですけども、まるでいつぞやのどこかの国の戦争のようですけども。基本的に、駐在員にやっぱり武器がしっかり持たされてないと、「気合いと根性で何とかしろ」と言われても、なかなか難しくて。今、パワハラとかいろいろ問題がうるさいので、さすがに「気合いと根性で何とかしろ」とは、明言はしないんでしょうけども、事実上戦略を持たせないということは武器を持たせないということなので、戦略が、本社、東京の本社に戦略がない企業というのは、基本的に駐在員に武器を持たせてあげることはできない。戦略という武器は持てないわけですよね。右手に戦略を持ちますから。左手に何を持つかと言ったら、資金、軍資金を持つわけですけども、本社に戦略がないのに資金だけ提供できるかと言ったら、絶対できないわけなので、これは一対なわけです。両輪で進んでいくわけなので。戦略がない企業、戦略を武器として持たせてあげられない企業は、予算も武器として持たせてあげられないので、駐在員は言ったら戦略も予算もなきまま戦うって、これ、どうやって戦うんだ?いう話なんですよね。いわゆる先進的なグローバル企業というのは戦略的なんですよ。戦略がしっかり備わっているので、その戦略に応じて適切な予算が組まれると。一方で、ヒト頼りの海外展開というのは、戦略的じゃなくて俗人的なので、基本的にはもう、ヒト、ヒト、ヒトになるわけですよね。なので、ノウハウが貯まらない。なので、10年以上、駐在員がいる地域はある程度できるけども、そうじゃない地域では壊滅的みたいな、そういう状況になってしまっていると。この10年以上駐在がいる地域のノウハウが、やっぱり、俗人的で成長してきているので、他の国に横展開していかないという、ノウハウが貯まっていないので。これがなかなか難しい。10年以上駐在できればいいですけども、だいたい3~4年、長くても4~5年でローテーションを組まれているわけですよね、日本の企業というのは、駐在の人事の。そうすると、ようやく一仕事何となく覚えたと思ったら、4~5年で帰任命令が出てしまいますから、これ、また次の新任が来てということになってくるので、いわゆるノウハウもなかなか貯まりにくいと、これが言ったら日本の会社の1つのジレンマでもあるわけなんですけども。このヒト頼り、俗人的な展開をしている会社というのはなかなか難しいですねと、失敗をする企業の共通点の1つですよと。

最後まとめると、この図の通り、失敗する企業の共通点のキーワードはやっぱり依存なんですよね。最初のモノ頼りというのは、売ることを製品の品質や機能、性能に依存をするということですよね。パートナー頼りというのは、売ることをディストリビューターの考えに依存すると。すべては彼らの意のままに進んでいくわけですから、自分たちが戦略を持って、戦略提言もしくは戦略のディスカッションをしっかりしたうえで、もしくは売ることの戦略をしっかり把握したうえで相手に任せるんではなくて、基本的にはつくるのは自分たち、売るのはあなたたちねということで、売ることの戦略をほとんどディストリビューター、もしくは現地のパートナーに任せてしまうということで、売ることをパートナーに任せると、ディストリビューターの考え、パートナーの考えに依存するというのが2つ目ですね。3つ目、これは売ることを駐在員の力量に依存する。まさに俗人的、戦略と予算を持たせず気合いと根性で何とかしろと、走りながら踏ん張るんだということでやっているわけなんですけども、気合いと根性で何とかなる市場では、残念ながらアジア新興国はございませんと。

戦略がないから別の何かに依存することになるので、海外事業で最も重要なのは、やはり戦略なんですよね。この戦略がしっかりしてないと、失敗をすることは全然悪くなくて、その失敗をいかに積み重ねて成功に結び付けるかということが非常に重要なんですが、この戦略という1つの仮説とも呼べるものだと思いますが、これがやっぱりしっかり設定されていないと、なかなか失敗も無駄になってしまうのでよろしくないということになってしまいます。

失敗する企業の共通点、必ずこの3つを失敗する企業は持っていますので、質が悪いのは、この3つを持っているということについても気付いていないと、自分たちが気付けていないということが往々にしてあるので、自分たちをいかに客観的に見て、本当に最初のケースは大丈夫か、2番目大丈夫か、3番目大丈夫か。モノ頼りになっていないか、パートナー頼りになっていないか、ヒト頼りになっていないかということを、皆さん、もう1度考え直してみてください。

それでは今日はこれぐらいにして、また次回お会いいたしましょう。