第277回 日本企業のチャネル・ストラクチャーとの違い
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テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日は、「日本企業のチャネル・ストラクチャーとの違い」ということでお話をしていきたいと思います。先進的なグローバルメーカーと日本のメーカーでは販売チャネルに大きな差が存在します。その差が何なのかということを今日は説明をしていきたいと思います。例題に取り上げるのはFMCG(Fast Moving Consumer Goods)、食品・飲料・菓子・日用品等の消費財メーカーです。B2Bの製造業の方は自分たちの事業に置き換えて聞いていただければと思います。場所はASEANとしたいと思います。それでは、よろしくお願いします。
結論から申し上げると、欧米の先進的なグローバル消費財メーカーの販売チャネル・ストラクチャーというのは圧倒的に日本企業のそれよりもよくできている、優れている。ここで言う先進的なグローバル消費財メーカーというのはP&Gとかネスレとかユニリーバを指しているんですが、販売チャネルがそもそも圧倒的に優れているんですよね。なぜそれが優れているのかということなんですが、「なぜ」の前に「どう優れているのか」ということを説明していきたいと思います。
スライドをお願いします。分かりやすく、これが先進的なグローバル企業、B2Cのバージョンですけど、今日はFMCGなので、日本企業と、右が日本企業、左が先進的なグローバルメーカーということで。この図を説明すると、これね、今回は現地法人ありのパターンです。輸出をやっているパターンではなくて、基本的には現地法人あり。輸出でやっているとTTとか、伝統小売とかという議論にはならないので、基本的にはTTの議論が出ているということは現法があると。現法がないと、輸出ではTTを狙えませんから現法があると。欧米の先進的なグローバル消費財メーカーって、やっぱり非常にチャネルのストラクチャーとしてあるのが、自社のセールスの部隊の育成というのが非常にうまいというのが1つ。もう1つはディストリビューション・ネットワークをしっかりつくるということなんですよね。この図の通り、MTは直販しているんですよ。先進グローバル企業、B2CからMTに直販しています、スーパー、コンビニ、ドラッグは直販と。これはどういうことかと言うと、自社の現地法人にしっかりとしたMTチームがいて、そのチームが各MTとのリレーションをしっかり築いているということなんですよね。
一方で、日本企業の場合は、現法があってもディストリビューターを介してMTとやり取りをしているなんていう企業が意外と少なくない。また、先進グローバル企業というのは、ディストリビューション・ネットワークをしっかりつくる、日本の右側のほうの図を見てもらったら分かると思うんですが、基本的には日本企業、消費財メーカーは1カ国1ディストリビューター制みたいなもの、これは消費財メーカーに限らず、B2C、B2Bともに理由なき1カ国1ディストリビューター制を引いたりするんですね。一応、彼らなりの理由としては、自社内競合が起きたらどうするんだとか、管理が1社のほうが楽だとかということで1社なんですが。
特にFMCGの場合、1社のディストリビューターでは、サブディストリビューターをある程度使ったとしても、やっぱりTT含めてしっかり配荷できないんですよね。なので、この図の通り、A社、B社、C社と8社使っているわけですよね。これ実はP&G型と私は呼んでいますけども、P&G型とネスレ・ユニリーバ型ってチャネルのストラクチャーが違って、P&Gはかつては40~50ぐらいのディストリビューターを使っていたんですよね、ASEANで。けど、それをどんどん、どんどん、集約していって、基本的には今8社程度、8社前後の大手から中堅、大手がだいたい2社ぐらい入って、あと残り6社が中堅。こういうディストリビューターを使ってTTを攻略する。もちろん自社内競合というのは彼らも望んではいないので、基本的にはテリトリーでしっかり分けているんですよね。それでTTを攻略します。パワーの掛かるTTは彼らに任せる。一方でMTとの強固な関係というのは直接現地法人がつくっていきます。もちろんTTのほうにも自分たちのチームをしっかりと入れて、ディストリビューターと一緒になってTTのストア・カバレッジを伸ばしていくという活動をやっているわけなんですけど、こういうふうにうまくストラクチャーができているので。
ネスレ・リーバ型というのはもっとマイクロディストリビューションなんですよ。それはなぜかと言ったら、取り扱っているものが違うので、スリーワンコーヒーとか、そういうきめ細かく配荷をしていく、前回だったか、前々回だったかやりましたけども、TTのレイヤーを分けましょうという話をしましたけども、裾野までしっかりと配荷をしないといけないような商品を扱っているようなネスレとかユニリーバというのは100とか200の、1カ国で、ASEANですね、ディストリビューターを使ってマイクロディストリビューションをやる。
一方で日本企業、これは現地法人があって、現地法人は一応マーケティング法人であると、ディストリビューションはディストリビューターがやるんだということで、ディストリビューターに一任をすると。しかし、ディストリビューターも、これはMTに強いディストリビューターとTTに強いディストリビューターというのが当然国によってあるわけで。結果として、ディストリビューターにとってもMTをバーンとやっちゃうほうが圧倒的に利益率がいいわけですよね。セントラル物流に商品をボーンと突っ込めばある程度配荷がブワッと伸びるので、1店舗あたりの売上というのはMTのほうが圧倒的に高いわけですから、そこが、言ったら最も彼らにとってROIが高い、リターンofインベストメントが高い。
一方でTTはしっかりとストア・カバレッジを伸ばしきれば、これは非常に大きなビジネスになるんですが、伸ばすまでの労力が大変なので、なかなかディストリビューターも腰がどうしても重くなってしまうということで、なかなかTTの間口獲得、ストア・カバレッジ獲得には至れないというような、まさにこのストラクチャーのようなケースというのは結構多い。特にベトナムなんかは非常にこういう状態が多いので、やはりこのストラクチャーをしっかりとつくっていかないといけない。これがストラクチャーがどう違うのか。
なぜストラクチャーが違うのかということなんですけど、やっぱり欧米の先進的なグローバル消費財メーカーって戦略的なんですよね。彼らは消費財メーカー、消費財のビジネスって何が重要かと言うと、数十円、数百円のものを売っていますから、いかにたくさんの人に、いかに速い頻度で、いかに繰り返し、永遠に買い続けてもらうかということがビジネスにとってものすごく重要ですよと。そうすると、MTだけじゃなくて、TTこそが重要なんだと、ASEAN市場では、新興国では。そうすると、いかにTTに配荷ができるディストリビューション・チャネルをつくるかということを逆算して行うわけですよね。市場シェアを例えば、10年後20年後にこういう市場シェアを獲りたかったら、今年何をやって、来年何をやって、再来年何をやってということが逆算で計算されるので、どうやってストア・カバレッジ、TT含めて上げていこうというのが非常に明確であると。
一方で、日本企業は基本的には現地法人に駐在する駐在員のいわゆる能力に応じて、毎年、前年度よりも高く、前年よりも高く、積み上げでやっていくんですよね。そこに戦略性はなく、むしろ俗人性しかないということで、なかなかよーいドンで競争すると、チャネルのストラクチャーに大きな差が出てしまう。もちろん逆算をしないので、プロダクトの問題も当然ながらあるんですが、この問題はまた別途お話をできたらと思いますけども、非常に難しいというのが現状でございます。日本企業もこのチャネル・ストラクチャーを、やっぱり戦略的に逆算をしてつくっていくということをしっかりやっていかないと駄目だということでございます。
今日はこれぐらいにしたいと思います。皆さん、また次回お会いいたしましょう。