コラム・対談 Columns
本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。
Vol. 23 マーケティング・ミックスは4項目のバランス
著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長
日本企業は誤ったMMに陥りがち
マーケティングの基本プロセス最後の「MM(マーケティング・ミック ス)」は、別名「4P」とも言われ、4つの項目で実行段階までの戦略を導き出します。「MM」や「4P」と略字が並んでややこしいですが、1つずつ突き詰めていけばそれほど難しい話ではなくて、ここをクリアすれば半分は成功したのと同じです。多くの日本企業は、ここの詰め方が甘いために良い結果が出ていないのです。戦略を立てる上でマーケティング・ミックスは非常に肝心なプロセ スだといえます。
現地の人が求めているプロダクトを
Product(プロダクト)では、日本企業の場合、例えば自社商品の中で、ベトナムでは「どれを売りたいか、どれなら売れそうか」を考えがちですが、日本で売っているものをそのまま売りに行くという発想は一旦捨てたほうがよいでしょう。 結果としてそうなるとしても、日本で実績のある商品のことは一旦置いておいて、どれを売りたいか、どれなら売れそうかではなく、「現地の中 間層が求めているものはなんなのか」を考えなければなりません。アジア新興国展開は第二創業と同じ。ゼロベースで考えることが大切なのです。この国の菓子売り場には、何が満たされていて、何が満たされていないのかを知った上で、どのような潜在的ニーズが存在しているのかを考える必要があります。その方法の1つとして、現地の消費者や流通事業者、小売から意見を吸い上げる、言わばマーケットイン的なニーズの吸い上げが考えられますが、 注意も必要です。アジアの消費者、流通、小売りに意見を求めると、好き放題に勝手なことを言い出すので、それを全部鵜呑みにしてしまうと振り回される結果にもなります。中間流通事業者や小売は現地人ですし、日本人からしたらよっぽど現地のことを熟知しているはずと思いがちです。事実、熟知はして いますが、それだからといって消費者の声をすべて把握しているかどうかは別の話です。彼らの意見を参考にしながらも、そこからどうやって本質を見抜いていくかが重要になるのです。そして、本質を見抜くには、兎にも角にも消費者を深く理解する以外にはありません。
現地で賄える価格で
Price(プライス)でも同様で、「いくらで売りたいか、いくらまでなら下げられるか」ではなくて、「現地の中間層は、いくらだったら賄える(繰り返し買える)のか」を考える必要があります。現地の中間層にとって、「いくらなら賄えるのか」、この「賄える」ということが、一回売り切りでないビジネスでは大変重要です。消費財の場合、一回だけ買えてもまったく意味がないのです。繰り返し買える価格、つまりは生活の中で賄える価格がいくらなのかが重要になるのです。普通なら原材料がいくらで、販管費や流通マージンがいくらで… と価格を決めるところですが、それを一旦忘れて、現地の消費者はいくらなら賄えるのか、競合は同じような商品をいくらで売っているのか、ということを考えます。そして、その値段で売るためには何をどう変えなくてはならないかを逆算で考えていくことが重要になるのです。
ターゲットが求める商品へと最適化する
日本企業の多くはこれができずに現地の中間層市場をなかなか攻略できずにいるのです。基本、「プロダクトはこうあるべきだ」というのがだいぶ凝り固まって存在しており、「こうあるべきプロダクトの価格は頑張ってもここまで下げるのが限界だ」となり、「その価格で売るためには、アジア新興国市場でもまずは富裕層だ」という負の連鎖につながっています。この最初のプロダクトの「こうあるべき」が「高品質であるべき」的なことが多く、例えば、日本の市場ではなくアジア新興国の市場で売るにもかかわらず、「品質はJIS規格(JIS = Japanese Industrial Standardsの略) に準拠しているべきだ」となってしまうのです。
人々が買いやすいところに置いて
Place(プレイス)は、自分たちが売りやすい売り場ではなく、「中間層が買いやすい売り場」で売ること。これが最も重要な、まさにチャネルの部分になります。後で詳しくお話ししますが、簡単に言うと、「現地の中 間層にとって買いやすい売り場はどこなのか」ということです。
自分たちが売りやすい慣れ親しんだ、スーパーやコンビニなどの近代小売だけでなく、現地の中間層が買いやすいパパママストアなどの伝統小売が大変重要なプレイスになり、そのプレイスに通ずる販売チャネルの構築こそがプレイスでやるべきことです。
先進的なグローバル企業はこの Place = チャネル力が非常に長けています。 日本企業は、製品の品質では先行したものの、それ以外のこと、特にこのチャネル力に関しては、まだまだ大きな課題を抱えています。
商品を知らない人に届ける
そして最後の Promotion(プロモーション)では、「店頭に置くこと」と、「店頭で選ばれること」は、まったく次元が異なることであると理解しなければなりません。皆さんの商品を幅広く店頭に置くのはチャネル力ですが、置かれた商品が競合商品よりも選ばれるのはプロモーション力です。日本では、すでに知名度があり、消費者からも信頼されている商品は少々プロモーションをさぼっても売れるかもしれませんが、アジア新興国では知名度がない上に価格の高い商品を、ジャパン・プレミアムだけで売れるほど甘くありません。アジアの人にとって、今まさに使おうとしている1 ドルの価値は、我々日本人より高く、失敗はできないのです。このような 真剣な消費者に手にとってもらうためには、最低限の仕掛け = プロモーションは必要なのです。
4つが最適化されて初めて商品は売れる
マーケティングの父であるフィリップ・コトラーは、「マーケティング・ ミックスの4つのPが最適化されなければモノは売れない」という旨を述べています。いくら良い商品があっても価格が高ければ誰も買わないし、それを売るための販売チャネルがなければそもそも消費者に届きません。そして、その商品の良さを知らせるプロモーションをやらなければ、物理的に商品が小売店に並んでも、見たこともない聞いたこともない商品は、結局、売れずに終わってしまいます。このように、マーケティング・ミックスの4つが最適化されることにより、初めて商品は売れるのです。弊社の顧客の大半もこの4Pの問題を抱えています。それを1つひとつ クリアし、4Pを最適化していくのですが、この最適化がしっかりできたクライアントは皆、停滞していた売上を順調に伸ばしています。